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食従事者と消費者をつなぐ「SUSTABLE(サステーブル)」第1回「ウニノミクス」レポート

ウニノミクス社・武田氏から学ぶ磯焼け問題と取り組み内容

第1回の登壇者は、ウニノミクス株式会社の創立者、武田ブライアン剛氏と、農林中央金庫 食農法人営業本部食農金融部部長(水産担当)朽木一彦氏。ファシリテーターは株式会社NINOの二宮敏氏が務めます。会場キッチンでは、アンティカ・オステリカ・デル・ポンテ(丸ビル36階) 総料理長 ステファノ・ダル・モーロ氏、同東京店料理長 當間一貴氏が、ウニノミクス社が畜養しているウニを使った一皿を調理しました。

会場参加の他、オンライン視聴参加も受け付け、オンラインでの参加者は60名超となりました。なお、今回のメイン登壇者である武田氏もノルウェーからのオンライン登壇です。

まずは、武田氏からウニノミクス社の事業内容や事業立ち上げ背景についての説明が行われました。ウニノミクス社の事業内容は、異常繁殖により磯焼けの原因となっている痩せたウニを捕獲し、陸上で畜養した後に食用ウニとして流通させるというもの。水産や食に関わる人にとっては常識でありながら、一般消費者には広く知られていない「磯焼け問題」について、武田氏は実際の海底の写真を交えながら説明しました。

ウニが異常繁殖している原因には、ウニを捕食する生き物の乱獲・環境汚染・地球温暖化が挙げられます。異常繁殖したウニは海藻を食べ尽くし、海のゆりかごとも呼ばれる「藻場(もば)」を砂漠状態にしてしまいます。これが「磯焼け問題」です。藻場が失われることで、藻場を産卵場所・生息場所にしている魚がいなくなってしまう他、海藻によるCO2の吸収量減少や波から沿岸侵食を防ぐ効果にも影響が及ぶのだそうです。また、藻場に注目すべき理由は二酸化炭素吸収量だけではなく、生態系サービスの面からも高く評価することができます。人間が生命を維持し生活できるために、地球上の様々な生態系が人間に提供する機能や利益、経済価値のことを生態系サービスと呼びます。藻場1 haが1年間に提供する生態系サービス価値は、同じ面積の熱帯雨林の29倍、森林の50倍であるとのこと。品種によっては1日で最大45cmも成長する海藻が世界には生息することから、木と比べた成長の速さ、二酸化炭素の吸収率の高さ、生育に水や肥料が不要な点など、地球環境面において、藻場は多くのメリットを持っているのです。

日本では1900年から磯焼けの調査が行われており、1900年ごろには一部太平洋側だけに留まっていた磯焼けが、2015年には全国的に広がっていることが判明しています。しかし、磯焼けの原因となっているウニは可食部のない「空ウニ」となるため、漁業者にとって捕獲するメリットがありません。ウニノミクス社は、そんな空ウニを陸上で畜養することで食用ウニに育て上げる技術を確立。地元の漁業者と協力し、空ウニを減らすことで藻場を復活させる活動を事業化させました。

ウニは食べたものがそのまま味わいに直結する特性があるため、エサにはうま味成分が豊富で持続可能な方法で収穫された食用昆布の端材を使用。磯焼け問題を抱える世界各地へエサの出荷も行っています。畜養は閉鎖循環システムで行い、使用する水は循環式に。動物由来成分やホルモン剤や抗生物質、GMO不使用、熱帯雨林を伐採することで得られるものも使われていません。協業企業と共に、より効率的な輸送システムを開発するなど、畜養以外の部分においても、環境を意識した技術開発を行っています。

現在、畜養拠点となっているのは大分県国東市の大分うにファーム。磯焼け対策を目的とした陸上でのウニ畜養事業を行う会社としては世界初です。都内百貨店で2年間試験的に販売を行う他、お鮨屋さんへも提供しています。武田氏は「日本市場は、1番ウニに対して求めるレベルが高い。その日本で認められれば、世界にも通用すると考えました。このビジネスを成功させることで、環境改善に繋げられる」と語りました。

武田氏による説明後は、武田氏、朽木氏による対談が行われました。武田氏が磯焼け問題を知ったのは、東日本大震災の1年後、東北の漁師が漁場の復興方法を求めてノルウェーに研修に訪れたことがきっかけだったといいます。津波により捕食類が消えてしまい、700%もウニが増殖。磯焼け問題が増大してしまったのです。

そこで、ビジネス化しなければスピーディーに進められないと考え、創業。産地との連携に関して、武田氏は「ローカルのヒーローが必要」と指摘します。行政からの後押しも役立ちますが、事業と上手く合致し、現地のことを知っている街のキーマンとタッグを組むことで、よりスピード感を持って藻場の改善に取り組めると語りました。また、天然ウニと競争するつもりがないという点も、ウニノミクス社の特徴です。

「天然ウニにも良さがある。空ウニを除去して藻場の環境を改善・維持することで、天然ウニが育つ環境も良くなります」(武田氏)

朽木氏は「畜養ウニの取り組みに対し、地元の期待感は大きい」と言います。取り組みを進めていくに当たっては「消費者が磯焼け問題について知り、環境改善へ意識を向けてくれることが大切」と見解を述べました。

一流シェフの手による一皿で「畜養ウニ」の魅力を味わう

本セミナーの特徴は、学びのあとに設けられている試食タイムです。今回は、本店をイタリア・ミラノに構え、丸ビル36階に東京店を構えるアンティカ・オステリア・デル・ポンテの総料理長ステファノ氏、東京店料理長の當間氏が腕を振るいました。「畜養ウニのおいしさをダイレクトに味わってもらいたい(當間氏)」「イタリアでも1番いい食べ方(ステファノ氏)」と用意されたのは、シチリア産のオリーブオイルと五島列島の塩でシンプルに味付けした一皿。スライストマトをトッピングしたパンに、殻からウニを掬って一緒にいただきます。

参加者からは「ウニが甘くてびっくりした」との感想が寄せられ、武田氏は「ミョウバンを使っていないため甘みが強い」と回答。オンラインでの登壇となった武田氏が「試食できて羨ましいです」と話して笑いが生まれるなど、試食タイムは和やかな雰囲気に。試食後に設けられた質疑応答の時間には、参加者から積極的にビジネスモデルについての質問が投げかけられました。

第1回を終え、登壇者からは以下の言葉が寄せられました。

當間氏:「MY Shokudo Hall & Kitchen」を作るときから関わってきたため、本セミナーの第1回に携われて誇らしい

ステファノ氏:今後も環境改善、維持に関わる食材を使うことでプロジェクトを応援したい。こうしたイベントにも引き続き参加していきたい

武田氏:ウニノミクス社単独ではなく、パートナーと共に活動することで相乗効果が生まれる。ここまで来られたのはステークホルダーのおかげ。感謝している

朽木氏:農林中央金庫という名前だが、第1次産業としてもちろん水産業にも関わっている。漁協と一緒に活動することが大切であり、その手伝いができたらと思っている

最前線で独自の取り組みを行う食従事者のリアルな話を聞けて、かつその取り組みの中で生まれた「サステナブル・フード」を一流の料理人が調理したひと皿をいただけるこのイベント。知的好奇心が刺激された後にいただく料理の味はさらに美味しく感じられました。


SUSTABLEでは今後も参加者を募集しています。

第4回「新しい食文化」(10月29日(金)18:30開演、申込受付中)
ゲスト:ミヨシ油脂株式会社 食品本部 企画部 部長 志田政憲、DAIZ株式会社 取締役COO・業務オペレーション部長 河野淳子氏、株式会社ZENB JAPAN マネージャー 長岡雅彦氏、リストランテ・ラ・ブリアンツァ オーナーシェフ 奥野義幸氏

第5回「サステナブルな農業」(11月9日(火)18:30開演、申込受付中)
ゲスト:はくい農業協同組合 代表理事組合長 山本好和氏、はくい農業協同組合 経済部 部次長 粟木政明氏、畑山農場 代表 畑山貴宏氏、PIZZERIA GTALIA DA FILIPPOシェフ 岩澤正和氏

第6回「日本酒とお米」(11月25日(木)18:30開演、10月22日(金)より申込受付開始)
ゲスト:宮坂酒造株式会社 社長室室長 宮坂勝彦氏、有限会社ファームいちまる 代表取締役 丸山房洋氏、環境省大臣官房環境保健部環境保健企画管理課/食と環境チーム 課長補佐 清家 裕氏、サンス・エ・サヴール 料理長 鴨田猛氏

>>詳細&お申込はこちらから
https://act-5.jp/act/2021sustable/


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