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SUSTABLE2023vol.3【里海と里山をつなぐ循環型農業】開催レポート

SUSTABLE(サステーブル)2023~未来を変えるひとくち~
第3回が8月30日(水)に開催されました。

食従事者と消費者をつなぎ、未来の食卓に変化を起こす「SUSTABLE(サステ―ブル)2023」。

第3回のテーマは、「里山と里海をつなぐ循環型農業」です。瀬戸内地域で大量に廃棄されている牡蠣の殻を、農業における肥料や飼料、沿岸のアマモ場再生に活用する「瀬戸内かきがらアグリ」の取り組みを通し、農業・水産業における資源循環について考えました。この取り組みから生まれた食材をじっくり味わいつつ、参加者が見つめた未来とは?その様子をお伝えします。

《第3回ゲストの皆様(順不同)》
◆全国農業協同組合連合会 岡山県本部 農産・園芸部 専任部長 小原 久典様
◆招福楼 四代目主人 中村 成実様
《ファシリテーター》
◆ハーチ株式会社 代表取締役 加藤 佑様

そもそも、日本の農業にはどんな課題があるのでしょうか?また、その解決策として注目される「循環型農業」とは何でしょうか?イベントの冒頭では、SUSTABLEのファシリテーターであり、社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」をはじめ、サステナビリティ領域のデジタルメディアを多数運営しているハーチ株式会社の加藤氏が解説しました。

加藤氏によれば、日本の農業には社会面・環境面・経済面での課題がそれぞれあるといいます。社会面での課題としては「担い手の高齢化・減少」。環境面での課題としては「農業と気候変動が相互に悪影響を与えていること」や「荒廃農地の増加」。そして、経済面での課題としては「低い食料自給率(カロリーベースで40%前後)」や「肥料原料価格の高騰」を挙げました。

こうした課題の解決のカギとなるのが地域と都市の支え合いであり、「循環型農業」であると加藤氏は語ります。循環型農業とは、農業の持つ物質循環機能を生かし、人が循環の一役を担う農業のことを指します。家畜の糞を畑へ輸送し、土壌改善に生かすのもその一例です。加藤氏は、「日本には、人の手が入りつつ自然と共生する場である『里山』や、江戸時代には都市の市民から出た排泄物『下肥』を農村地域へ輸送し、農作物を育て、生産物をまた都市へと運ぶ循環のシステムがあった」と解説し、循環型農業が日本で歴史的に営まれてきたことを示しました。「人間が自然を搾取するのではなく、人間が循環のリズムを整えながら自然の恵みをいただく」、これが循環型農業の軸となる考え方だと加藤氏は締めくくりました。

次に、全国農業協同組合連合会 岡山県本部の小原氏が登壇し、現代の日本における循環型農業の取り組みの事例として、「瀬戸内かきがらアグリ」の事業を紹介しました。瀬戸内地域で廃棄される牡蠣の殻(かきがら)は国内全体の廃棄量の約8割を占め、この処理が地域の悩みの種となっています。一方、農業の分野においては、国の農業政策の転換を受け、産地間競争の激化が予想される中、岡山県産のお米を今後どのようにブランディングしていくのかが課題となっていました。

そこで、小原氏が中心となり2016年にスタートさせたのが「瀬戸内かきがらアグリ」です。良質なたんぱく質や豊富なミネラルが含まれるかきがらを地域資源として捉え直し、再利用することで米の生産性を高め、土中の栄養分が川を伝って海に流れ出て、海も豊かになり牡蠣が育つという、地域資源循環という価値を創造しようとしたのです。

実は、岡山では主に園芸作物の栽培などにおいて、土壌改良剤としてのかきがらの利用は古くから行われていました。そのため事業開始当初は、「かきがらを再利用して生産したというだけでお米に付加価値がつくのか」「ブランド化できるのか」と懐疑的な反応もあったといいます。事業の広がりの起点となったのは、「里海」という言葉との出会いでした。「里海」とは、「人手が加わることによって生物多様性と生産性が高くなった沿岸地域」のことで、この言葉を起点に、漁業関係者や里海再生活動の関係者とのつながりが生まれ、「岡山の自然や瀬戸内海という里海、その恵みを守る」という方向性が明確になり、かきがらを使って生産されたお米を「里海米」としてブランド化していくことにつながりました。

かきがらを撒いた田んぼの稲は根張りがよく、土からより多くの栄養分を吸収できるため、より良質なお米になるといいます。「里海米」の生産量は拡大を続け、ほかにも「里海卵」、「里海野菜」、「里海酒」を展開、2023年9月から「里海黒豚」の展開もスタートしました。最後に小原氏は、「かきがらを活用して農畜産物の生産性を高めることだけが目的ではない」とし、「森・里・川・海を連携した取り組みとして、漁業と農業、地域・企業・人をつなげ、地域全体が活性化し、すべての人々が笑顔でつながる持続可能な取り組みになることを目指します」と未来に向けての力強いメッセージを伝えました。

さて、待ちに待った食事の時間です。招福楼 四代目主人の中村氏が丹精込めて作り上げた料理が運び込まれました。この日のメニューは、次の通りです。


《メニュー》
向付
卵豆腐 えぞ鮑 糸瓜
擦り柚子 旨だし 岡山県産「里海卵」


近江地鶏すき焼き風 
針午房 信長葱 庄内麩 玉葱 焼き豆腐

添え
温泉卵
岡山県産「里海卵」


白飯
岡山県産「里海米」


「お米の味を一番伝えられるのは、やはり炊き立てです。」と中村氏。参加者からは「一粒一粒光っていて、食べた時の香りもとても豊か」、「運ばれたときからツヤが違って見えた」、「里海のお話を聞いた後だと、よりありがたさを感じる」との声が上がりました。

中村氏は「里海卵」についても「普段使っている卵と全然違います。色は薄くも、味わい深いがありました」と驚きを示し、素材の味を存分に楽しめる温泉卵での提供となりました。鶏とごぼうのすき焼きは、招福楼が生まれた滋賀の味であるとの説明もいただきました。

循環を意識した取り組みについて加藤氏が問いかけると、中村氏は「今日お出ししているふりかけは、ダシをとった後の昆布と鰹です」とコメント。野菜のへたは全部まかないで食べるなど、なるべく捨てる部分を出さないように食材を扱うといったことを心がけているといいます。さらに中村氏は、「山の健康は琵琶湖の健康」という地元の言葉を紹介しました。山が荒れると琵琶湖に栄養がいかなくなってしまうため、毎年山に赴き、シカの樹皮剥ぎによる立ち枯れを防止するテープを木に巻く活動を行っているそうです。

イベントの最後に加藤氏がお二人に、持続可能な食の実現に向けたメッセージを求めると、小原氏は「サステナブルな活動はみんなが『いいものだ』と認識しなければ、続かないと思っています。売り手、買い手、社会・環境、未来の『四方良し』を作り上げることが、持続可能な食を実現する近道なのではないでしょうか」と、多方面に目を向ける重要性をコメントしました。中村氏からは「昔は電気やガスがない中で、自然と循環していく生活ができていました。今はすべてが揃っているため、『これがなければ生活できない』という発想になってしまう。『あって当たり前』と考えるのではなく、『なくて当たり前』を想像しながら生活してほしい」と呼びかけました。中村氏はもう一つの観点として、「五感で味わうということを大切にしてほしい。食べ物が古くなって食べられないかどうかも、賞味期限の日付だけで判断するのではなく、自分の視覚、触覚、嗅覚をしっかり使って判断してほしい」とのメッセージもくださいました。

人間がかかわることで、資源の価値が引き出され、循環し、更なる豊かさを生む循環型農業。これまで廃棄していたものを見直し、その活用法を探ることで、新たな価値を生み出しながら自然と共に生きていく道があるのではないか。そんな未来への大きな可能性と、私たち消費者ひとりひとりもその循環の中にいるという責任を感じる夜となりました。

SUSTABLE 2023 第3「里海と里山をつなぐ循環型農業実施概要
開催日時:2023年8月30日(水)18:30〜20:00(開場18:00)
開催場所:MY Shokudo Hall&Kitchen(東京都千代田区大手町2-6-4 TOKYO TORCH 常盤橋タワー3F)
出演者(順不同):全国農業協同組合連合会 岡山県本部 農産・園芸部 専任部長 小原 久典様、招福楼 四代目主人 中村 成実様
司会:ハーチ株式会社 代表取締役 加藤 佑様

定員:会場参加30名/オンライン参加500名
参加費:会場参加2,000円/オンライン参加 無料
主催:大丸有SDGs ACT5実行委員会/三菱地所株式会社 EAT&LEAD


転載元:「大丸有SDGs ACT5」記事
https://act-5.jp/act/sustable2023_3report/
※大手町・丸の内・有楽町地区(大丸有エリア)を起点にSDGs達成に向けた活動を推進する「大丸有SDGs ACT5」の活動については、WEBサイト(https://act-5.jp/)をご覧ください。

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