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【FOOD INSPIRATION】佐々木ひろこ #日本の魚の今

日本の漁業の現場に大きなショックを受け、団体の立ち上げへ

佐々木さんが「シェフス・フォー・ザ・ブルー」を立ち上げたのは、フードライターとして半年間ほど日本の漁業を取材したのがきっかけ。それまでにも「マグロやウナギが減っている」ということはなんとなく知ってはいたものの、実際の漁業の現場を見て大きなショックを受けたそうです。「実際はマグロやウナギだけではなく、全ての魚が危機的と言えるほど減っていることがわかりました。同時に、皆さんに食を伝えるフードライターとして15年も仕事をしていながら、この事実を伝えられていなかったことに愕然として、何かしなくてはいけない、と考えたんです」と佐々木さん。

そして、親交のあるシェフたちに日本の魚の現状を話して伝えることから始め、立ち上がった30人のシェフたちと2017年の春に第1回の勉強会を開催。団体名を「シェフス・フォー・ザ・ブルー」と決め、活動を開始しました。「シェフたちは、生産者とも消費者ともつながりがあり、どちらにとっても身近な存在です。そのシェフたちと一緒に活動することによって、まずは魚の危機的状況を皆さんに広く知ってもらおうと考えました」。フードカーでのイベントやトークショー、ディナーイベント、雑誌での企画など、これまでの3年間で行ったイベントは約25件。最初はメディアで全く取り上げられなかった活動も、今では大手新聞社やテレビ局の取材を受けるようになり、水産庁や調査機関とも情報交換を行うまでになりました。

消費者として興味を持つことが、大きな変化につながる

では、私たちは消費者として何をすればいいのでしょうか。オランダやドイツ、北欧、アメリカやオーストラリアなどサステナビリティの先進国では、「MSC」や「ASC」という認証をとった魚が広く売られています。MSCは持続可能な「漁業」で獲られた水産物に、ASCは責任ある「養殖」により生産された水産物に与えられる国際的な認証で、サステナブル(持続可能)なシーフードだと判断する指標となるものです。ですが、日本にはこの認証を受けた水産物がほとんどないのが現状。大きな原因のひとつが、「認証を受けても売れない、消費者の関心がない」こと。まずは私たちが知ろうとし、サステナブル・シーフードを選ぼうとする意識を持つことが大切です。

 

「まずはWEBや雑誌などで、日本の魚に関する記事を読んでみてください。そしてスーパーでMSC認証やASC認証の水産物を見つけたら、それを選んでみてください。皆さんひとりひとりの行動が、大きな変化につながります」と佐々木さんは話します。また、鮮魚や干物など、「幼魚を買わない」ということも意識してほしいと佐々木さん。「今、日本では成魚が獲り尽くされてしまい、産卵前の小さな幼魚が売られているのが現状です。産卵する前に獲れば、当然魚はなくなってしまいます」。また、現在日本で売られている魚の半分近くは海外からの輸入魚で、それも世界で激しい取り合いになっているそう。そんな中で未来も魚を食べられるようにするためには、日本の魚を捕り尽くすのではなく、育てながら食べていく流れを作らなければなりません。

日本の漁業、素晴らしい伝統技術を見直してほしい

日本では魚だけでなく、漁業自体も危機的状況だと佐々木さん。「50年前は日本に70万人いた漁師さんが、今は15万人に減っています。中でも漁業だけで生計を立てているのは1万5千人にも満たないと言われています。日本では400種類もの魚が食べられ、漁の方法も一本釣りの他に延縄(はえなわ)、定置網(ていちあみ)、棒受け網(ぼううけあみ)など様々なものがあり、これは日本の立派な文化です。1匹の魚を大切に、無駄のないように処理をして出荷する日本ならではの技術も、代々受け継がれてきた財産です。それらが今、失われようとしている。そのことにも目を向けていただけたらと思います」。

かつて、20世紀末に魚と漁業が危機的な状況に陥ったオランダでは、国をあげてサステナブル・シーフードの活動に取り組み、10年で国民の意識が大きく変わり、海も変わりました。食への関心の高い日本なら、10年、もしかしたら5年で、再び豊かな海を取り戻すことができるかもしれません。

Profile
佐々木ひろこ(ささき・ひろこ)
日本で国際関係法を修めた後に、アメリカの大学でジャーナリズムを学び、調理師大学で”Professional Cookery”コースを修了。さらに香港の大学院で文化人類学を学び、現在フードライター、エディター、翻訳家として活躍。レストランやシェフの取材を中心に雑誌、新聞、ウェブサイトにて執筆。

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