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食べることから学ぶ、生きる力「EAT&LEADトークサロン」第3回「届ける声・届く声」レポート

第3回のゲストは平野紗季子さん・梅川壱ノ介さん

ファシリテーターを務める薬師神陸さんは、虎ノ門ヒルズの1階に店を構える「unis」のシェフ。誕生日や記念日などのハレの日に利用することをコンセプトに、有田焼のお皿に映像を投影したり、オリジナルの音楽を流したりするなど、ミュージアム感も大切にしたレストランです。隣接するシェアキッチンでは、外部シェフのイベントや商品開発などのサポートを行っています。

ゲストは、フードエッセイストの平野紗季子さんと舞踊家の梅川壱ノ介さんをお迎えしました。平野さんは文筆活動をする傍ら、企業の食文化事業のサポートや、菓子ブランド「(NO) RAISIN SANDWICH」の代表を務めています。梅川さんはバレエダンサーとしてキャリアをスタートし、歌舞伎俳優を経て、日本舞踊を専門とする舞踊家として活動しています。

本来、このイベントはゲストにちなんだストーリーを薬師神さん考案の「一汁一菜」を頂けるのが魅力でもあるのですが、残念ながらオンライン配信となり、ゲストのみの試食となりました。

ゲストたちの好きな食材や生まれ育った故郷のお話しなど二人を作り出す背景をインタビューするなかで出来上がったのが、「はんざき柚子と牛しぐれのアールグレイ香りむすび」と、「ディルの香るもち麦といりこの味噌スープ」です。

おむすびにはゲスト2名が九州出身ということで、甘い醤油を使用。赤ワインを加えて煮込んだ牛しぐれを、アールグレイの茶葉で炊いたご飯で包み、皮の柔らかさに特徴のあるはんざき柚子を使用した柚子胡椒をトッピング。お味噌汁は「シンプルに言うと豚汁ですね」と薬師神さん。出汁はパンチェッタというハムと、平野さんの好きないりこ出汁。梅原さんの氏神神社の近くにあるお食事処「大はら茶屋」のオリジナルの麦みそを使用し、ディルを加えました。シチリア料理ではディルとイワシを合わせることがあり、今回のお味噌汁でも相性の良さを確かめることができたようです。

平野さんは「和食に西洋食材を入れたらどうなるかという好奇心もあり、ハーブのディルをリクエストしました。薬師神さんの創造性の跳躍の飛距離に感動しました」とフードエッセイストらしく、豊富な語彙力でコメント。

ツアーにも携帯するほど「大はら茶屋」の麦みそが好きだという梅川さんは、「いつも食べているものとはまったく違う味わいですね。食べながら、味覚があっちに行ったりこっちに行ったりして楽しかったです」と熱のこもった声で語りました。

「届ける声・届く声」をテーマにパネルトーク

パネルトークの冒頭で薬師神さんは「ここ丸の内はビジネスパーソンの方も多くいるエリアで、何かを「伝える」ということもビジネス上大切なスキルですから、そのような人たちに刺さるアウトプットの方法と届いたその先を意識し、『届ける声・届く声』にしました」と、テーマを決めた理由を話しました。

続いて「テーマに決まったとき、最初に紗季子さんが浮かびました。言葉のチョイスが面白く、和気あいあいとお話ができるかと思いました。梅川さんのキャリアは、フランス料理から入り、日本の食材に目を向けた僕のキャリアと似ていて、和と洋のバランスについてお聞きしたいです」とゲスト2名を招いた理由を紹介しました。

薬師神さんの言葉を受け取った梅川さんは「華やかさで魅了するバレエの世界を飛び出し、形式美や平面的な美しさを重んじる日本舞踊の世界へ入って来たときは、戸惑いもありました。しかし次第に、大きな動きで物理的な広がりを見せるのではなく、凝縮された和の動きで鑑賞する方の想像力に広がりを与える日本舞踊の魅力に気付くようになりました」と語りました。

文章で「届けること」を生業にしている平野さんは、まずは自身が感動することを大切にしているといいます。

「食べ物は消えゆく芸術で、その儚さに魅せられます。最も大切なのは、目の前で消えゆく現象に対してどれだけ感動できるか。それがないと、エッセイに残そうとしても偽物の言葉になってしまうので」と届ける側の姿勢を話しました。

「最近関心のあること」について問われると、平野さんは取材で訪れた岩手県遠野市のオーベルジュでの体験を語りました。

「そのオーナーは料理人であり、米農家であり、醸造家でもある。その方が一番大切にしているものが土でした。リジェネラティブな農法といって、土を再生するために必要な種を埋めて、実った作物を食べる。芯が通った活動されている方に出会えるのが楽しいです」

梅川さんはコロナ禍になり、健康な生活があってこその文化や芸術だと感じ、そこから新たな発想を得たといいます。

「健康のために大切なのは食事だと思いました。食事は毎日のことだからこそ、毎日食事によって幸せになれる可能性がある。そこに感動があれば、もっと幸せになれるのではないでしょうか。そこで『小さな踊りの会』を考案しました。レストランでおいしい食事を食べつつ、日本舞踊を見て楽しんでいただくという企画です」

薬師神さんは情報過多の現代社会において、汲み取る能力が落ちていくことへの懸念を示しています。「紗季子さんや梅川さんのように届けることが上手な人たちは、まず感じ取ることが上手です。感じ取るためには詰め込みすぎず、楽しむ余白が必要だと思います」

ここで、リクエストに応えて梅川さんが短い舞を披露。それを鑑賞した平野さんは「時空を超えた」と感動を口にしました。

話題は変わり、平野さんの著書「味な店」から言葉を借り、それぞれが思う「味な人」について語り合いました。

「料理人にはそれぞれ価値観があり、物語があります。塩対応な料理人でも、背景にある物語を知れば味な人だと知れることもあります。そういった味な人に出会ってもらうための、ドアを作りたいですね」(平野さん)

「粋なものを持っている人も、味な人だと思います。私が日本舞踊や歌舞伎の世界で粋だと感じたのは、自分がしたことを自慢げに話さないこと。その奥ゆかしさを美しいと思います」(梅川さん)

「どのジャンルの料理も時代に合わせて変わるものですが、寿司、鰻、蕎麦などの専門食は、伝統を守りつつ寄り添うように微調整をしていく。そういった料理人を味だと思います」(薬師神さん)

パネルトークの途中には、視聴者から質問が寄せられました。

Q さまざまな活動をなさっている平野さん。キャスティングで大切にしていることを教えてください。

平野さん:ぱっと頭に思い浮かんだ人をキャスティングしています。シンプルに好きで一緒に仕事をしたい人など、直感を大切にしていると思います。その一歩手前を見ると、自分の言葉を言語化していますね。企画書にしてみると、コンセプトがはっきりして何が足りないのかが見えてきます。そこで思い浮かんだ人に声を掛けています。

薬師神さん:私も一緒ですよ。楽しいと思える人と仕事をしたいですね。忙しいとクリエイティブなことを考える時間がなくなります。余白を作るためにも、意図的にunisの営業を週4日営業にしています。

Q 受け取る感性を研ぎ澄ませるための余白作りに行っているルーティーンがあれば教えてください。

梅川さん:朝起きて、コーヒーを飲みながら、その日やることを考えるというシンプルなものです。毎朝行っていると、その日その日で感じ方やコーヒーの味に違いがあることが分かります。その違いに気付くことで自分との対話ができる。その冷静になれる時間を持つことが余白につながっています。

平野さん:どんなに疲れていても、1日1回は絶対においしいものを食べるようにしています。会社員時代、夜中の2時くらいまで仕事をすることがあり、「自分はなんて空っぽなんだろう」と感じたことがありました。その時間まで営業しているお店に行ったとき、春菊のすり流しを出してもらい、それを飲みながら泣きました。「どんなに疲れていても、自分はモノを感じることをしないといけない人間なのだ」と気付いてからは、おいしいものを食べてから寝ようと決めています。それが自分の時間を生きるということだと思います。

薬師神さん:パソコンのデスクトップと携帯電話のメモ機能の中に「頭の中」というフォルダを作っています。そこにフレーズやデザイン、写真など気になったものを入れています。アイデアが必要になったとき、そのフォルダを確認して引っ張り出しています。

「届く声」には届ける人に豊かな感性とそれを研ぎ澄ませるための余白があると気付かされるイベントになりました。イベント終了後、3名は以下のように総括をしました。

「トークイベントへの出演経験が少なく最初は緊張していましたが、異分野のスペシャリストの方とお話をしているうちに、共感したりしてもらったりできて楽しくなり、幸せな時間を過ごすことができました」(梅川さん)

「おいしいおむすびとお味噌汁、そして梅川さんの舞を見ることができ、とても贅沢な時間を過ごせました。これからもこのイベントが末永く続いていくことを祈っています」(平野さん)

「今日もとても楽しかったです。第1回目は『ブランディング』をテーマにパネルトークやワークショップを行いました。そこでは『消費者が社会に求めているものをかなえてくれる会社が好き』という答えが導き出されました。第2回目のテーマは『健康』でした。自分を知ること、そのための時間を作ることが必要で、最終的に余白が大切だということに落ち着きました。第3回も余白が話題になり、すべての回を通じて、余白が大切だと感じました。来期もさまざまなゲストをお招きし、会場で皆さんとお会いしたいと思います。会場に来るのとオンライン上では、感じられる熱量がまったく違うと思います。おいしいおむすびとお味噌汁を召し上がっていただき、ゲストともっと直接的にコミュニケーションを取っていただけたら、私もとてもうれしいです。ですから、また次回も開催したいと思っています」(薬師神さん)

「届ける声・届く声」をテーマに、異分野のトップランナー視点のトークが繰り広げられました。2022年1月17日、2月22日、3月15日の3回に渡って行われた「EAT&LEADトークサロン」、今後の活動にもぜひご期待ください。


こちらにて今回のトークサロンのアーカイブ動画をご視聴いただけます。

「届ける声・届く声」<アイデンティティの見せ方。相手に伝わる表現とは?>
https://www.youtube.com/watch?v=qvvMuBxKzEE

第1回のレポートはこちらから
若林洋平さん(Maison Rococo 株式会社 CEO)×行方ひさこさん(ブランディングディレクター)
「ブランド・クリエーション」<ブランドづくりにおける思考のプロセスとは?>
>>https://www.youtube.com/watch?v=OBWwqGdtL98
>>イベントレポートはこちら
https://shokumaru.jp/talk_01_01/

第2回のレポートはこちらから
下川穣さん(株式会社KINS 代表取締役)×伊達公子さん(テニスプレーヤー)
「身体が嬉しい食事」 <身体をととのえること -”調える”と”整える”>
>>アーカイブ動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=ZXnkE5PiXLg
>>イベントレポートはこちら
https://shokumaru.jp/talk_01_02/

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