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食べることから学ぶ、生きる力「EAT&LEADトークサロン」第1回「ブランド・クリエーション」レポート

第1回のゲストは若林洋平さんと行方ひさこさん

第1回のゲスト、Maison Rococo株式会社CEOの若林洋平さんは2018年に日本初のラグジュアリービール「ROCOCO Tokyo WHITE」を立ち上げ、ビールのブランディングを行ってきた当事者。そして、ブランディングディレクターの行方ひさこさんは、地方創生や工芸、商品開発など、ブランディングに携わることを生業としています。今や、人もレストランもいまやブランディングの時代。星付きレストランなどの一流店でのみ扱われ、ビールに新たな価値を吹き込んだ日本初のラグジュアリービール「ROCOCO Tokyo WHITE」はどのようにして生まれたのか? ブランドのストーリーづくりやコンセプトワークも手掛ける行方さんの視点も交えて、「ブランドづくり」の真髄を探ります。

冒頭で、ファシリテーターを務める薬師神さんは「新型コロナウイルス感染症の流行拡大が懸念されるなか、1回目を無事に開催できたことをうれしく思います。私はコロナ禍に入った2020年、虎ノ門ヒルズにレストラン『unis』をオープンしました。レストランの運営だけでも大変な状況ですが、よりシェフの可能性を見出すため、営業を週4にし、週3は併設したラボで外部シェフによるイベントや商品開発などを行っています」と挨拶。日頃からお世話になっている若林さん、行方さんを初回のゲストに招いたと紹介しました。

このイベントはゲストにちなんだ薬師神さん考案の「一汁一菜」のメニューを頂けるのが魅力でもあります。メニューはおむすびと味噌汁です。メニュー選定の背景について、料理を手掛けた薬師神さんは次のように説明しました。

「EAT&LEADの活動拠点であるここ3階では、日頃からおむすびと味噌汁を提供しています。そんなキッチンで開催するイベントの初回だからこそ、おむすびと味噌汁を提供できればおもしろいのではと思いました」

おむすびには、行方さんがブランディングに携わる八女茶を使用。トマトも使用した、ピラフのようなおむすびです。また、味噌汁の味噌は、薬師神さんの出身地である愛媛県の麦で作ったもの。具材には里芋が使われ、横にはライムが添えられています。薬師神さんは「途中で味噌汁に絞って召し上がってみてください」と説明。若林さんのラグジュアリービール「ROCOCO Tokyo WHITE」に合ったおむすびと味噌汁です。

ブランド作りについて語るトークイベント

続いて始まったトークイベントでは、まず若林さんがラグジュアリービールを開発した背景について語りました。

「Maison Rococoは、私とアメリカ人、カナダ人との3人で創業した会社です。中学から大学院までアメリカ留学をしていたことから、3人とも日本を外から見ることができた。物事には、離れて見るからこそ見えてくる良い面、悪い面があります。私が気づいたのは、日本で高級レストランに行ったとき、乾杯に日本のお酒が使われないということでした。日本の食は世界に誇れると思っているのに、乾杯のときにはメイドインフランスのシャンパンを使う。そのことに悔しさを覚えたのです。『最初はビール』という言葉があるのに、高級レストランではそれができない。じゃあ、そういった店でも誇らしく乾杯できるビールを作ればいいと思ったのが、ラグジュアリービールを作ろうと思ったきっかけです」(若林さん)

自分のブランドを確立すべく動いてきた若林さん。一方、行方さんは今回の料理に使われていた八女茶など、外部のもののブランディングを手掛けるのが仕事です。同じブランディングでも、両者が大切にしていることは違うのではとの薬師神さんの問いかけに対し、両者は次のように回答しました。

「通常、ブランディングというと何かをやらなければならないと思うかもしれませんが、重要なのは何をやらないのかにフォーカスすることだと思います。ROCOCO Tokyo WHITEは、高級レストランで飲めるシャンパンに代わるビールを目指していたため、そのイメージに合わないところにはあえて卸しませんでした。また、ブランディングと製品・サービスの品質が一致していることも重要です。製品・サービスがブランドより下回ると信頼をなくしてしまいますから」(若林さん)

「ブランドは世の中に対する姿勢や立ち位置を示すこと。やることとやらないことを決めるのは元より、広い視野で見て抽象度を上げ、解像度を上げていくことが大切。その繰り返しで唯一無二のブランドにしていきます」(行方さん)

次に薬師神さんが投げかけたのは、私生活におけるルーティーンの有無です。行方さんは「基本的にルーティーンという言葉があまり好きではない」と語り、あえて違う方法を選び、当たり前だと思っていることを当たり前ではないと思えるよう心掛けていると説明しました。若林さんは「バランスがキーワード」とし、バーンアウトしないよう、何事もバランスを取るように意識していると語りました。

続いて語られたのは、ブランディングをしてみて気づいたことについてです。若林さんも行方さんも、「ブランドを作るのは人」だと指摘します。

「人間の延長線上にブランドがある。ROCOCO Tokyo WHITEを成長させるためには、自分たちブランドを作っている側がもっといい人間にならねばと思っています」(若林さん)

「その方々の人となりがブランドに乗って広がっていく。お手伝いをする段階でどこまで深く考えられるのか。伴走しながら一緒に考えていけたらと思っています」(行方さん)

トークイベント後に設けられた質疑応答タイムでは、以下のような質問が会場・オンライン参加者から寄せられました。

Q ブランディングをしていく中でうまくいかなかった事例、こうした方が良かったと感じる事例があれば教えてほしい。

若林さん:ROCOCO Tokyo WHITEは、狙い通りブランディングができたといえる。ただ、ブランディングができても、それで終わりではないと感じています。店に卸していただいた後、最終的にはエンドユーザーにオーダーしてもらうところまでいかなければならない。その行動変容の方がブランディングより難しいと実感し、日々悩んでいます。

Q 学生の間に意識しておくべきことは何か。

薬師神さん:「こうしたい」という思いの強さからブランドができているため、まずは「僕がこうしたい」を持つことが大事。最近は「こうしたい」がない学生が多いと感じているが、多少エゴでもいいし間違っていても構わないので、「僕だったらこう」を持ってほしい。

若林さん:日本では平均を求められるが、アメリカでは強みにフォーカスすることが是とされる。一つでもいいから人に負けない何かを持つのが重要。それを実現しやすいのは好きなことをやることではないかと思う。

行方さん:好きなことや強みが分からない人もいると思う。私は少しでも興味を抱いたものに関する本を9冊ほど読むようにしていた。ある程度の知識が多角的に入ることで、本当に興味があるかどうか判断しやすくなる。心が動かされることを手当たり次第に掘っていくと、一定のところでふわっとつながることがある。気負わずにやっていってもいいのでは。

Q ブランドを作る際、どの程度のライフサイクルを見据えているか。

薬師神さん:こういうブランドじゃなきゃいけないという思いはあまりなく、時代に沿って転換できればすごくいいと思う。時代によってニーズも世代も変わっていくため、unisは週4営業というスタイルは維持しつつ、時代に沿ったキッチンのあり方、アドリブ力を大事にしたい。

行方さん:臨機応変。世の中の変化は激しく、スピードも速まっていくので、執着しない、傾倒しないことを心がけている。

若林さん:そもそもブランドが浸透するまでには時間がかかるものだと思っている。短期的なブームで終わるものではなく、じわりじわりやって100年後にも存在するようなブランドを目指す方がいいと考え、ロングタームで見るようにしている。目先のアイディアに惑わされず、信じているものを一歩ずつきちんとやっていきたい。

ワークショップ「愛されるブランドになるために求められること」

後半には45分間のワークショップが行われました。会場参加者を3グループに分け、それぞれが好きなブランドとその理由についてセッションを行います。薬師神さん、若林さん、行方さんの3名も各テーブルを移動しながら参加。和やかな雰囲気で進められました。

最後には、各テーブルの代表者が結果を発表しました。

「さまざまな業種や製品のブランドが出てきたが、グループ分けしてみたところ、ブランドそのものが身近な存在であることが重要なのではという意見が出た。人間味があるというか、ファンとのコミュニケーションが身近なところが重要なのかもしれない」

「新しいブランドよりも歴史のあるブランドが多く挙げられた。また、使うことで気分が上がったり、自分の居場所がここにあると感じられたりする気持ち面に作用するブランドも多かった」

「業界トップを誇るブランド、ニッチだが根強いファンがいるブランドの2パターンに分けられると感じた。多くのお客様に愛されること、根強いファンに愛し続けてもらえることとそれぞれ戦略には違いがあるが、どちらも究極的にはお客様のことを考えているのだろうと思った」

トークイベントからワークショップまで、盛り上がりを見せた第1回。最後に、3名からは以下の言葉が寄せられました。

若林さん:ディスカッションを聞かせてもらい、ブランドとは答えがないものなのだと感じた。人間にも「これをやれば絶対にいい」という正解がなく、ブランドと同じだと思う。ユーザーの課題を解決できればニーズがあり、ブランドとしても評価されると思うが、その課題も一つではないところが難しいしおもしろい。多くの意見があり参考になりました。

行方さん:ブランドというともう少し憧れが出てくるかと思っていたが、共感、安心できるブランドを好ましく思っているものが多かった。共感の時代と言われているが、まさにそういう時代なのだなと感じました。

薬師神さん:それぞれのテーブルの色が出ていておもしろかった。現代は、ネットに操作されて、よく見るブランドをいいと思わされるような、ITに揺さぶられている側面があると感じる。参加者の方々には、これからも揺らがない骨のある部分を持っていただきたいし、僕たちもよりきちんとしたブランドを作るため、肉付けしていかなければいけないと思いました。

一汁一菜を味わいながらトークイベントでインプットし、ワークショップでアウトプットする本イベント。後半では、参加者同士のコミュニケーションも活発に行われ、聞くだけでは終わらない良さを感じられる時間となりました。


こちらにて今回のトークサロンのアーカイブ動画をご視聴いただけます。

「ブランド・クリエーション」<ブランドづくりにおける思考のプロセスとは?>
>>https://www.youtube.com/watch?v=OBWwqGdtL98

第2回のレポートはこちらから
下川穣さん(株式会社KINS 代表取締役)×伊達公子さん(テニスプレーヤー)
「身体が嬉しい食事」 <身体をととのえること -”調える”と”整える”>
>>アーカイブ動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=ZXnkE5PiXLg
>>イベントレポートはこちら
https://shokumaru.jp/talk_01_02/

第3回
平野紗季子さん(フードエッセイスト)×梅川壱ノ介さん(舞踊家)
「届ける声・届く声」<アイデンティティの見せ方。相手に伝わる表現とは?>
>>アーカイブ動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=qvvMuBxKzEE
>>イベントレポートはこちら

食べることから学ぶ、生きる力「EAT&LEADトークサロン」第3回「届ける声・届く声」レポート


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