【2021年、新たな時代に大切にしたいこと】石井真介 #食文化を守る「選択」

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自粛生活や新しい生活様式を体験し、ニューノーマルな時代の中で私たちはこれからをどう生きていけばいいのか。コロナ禍で生まれた思考や未来への気づきを各分野のキーパーソンにインタビューして、社会にポジティブな連鎖が生まれることを目指す【2021年、新たな時代に大切にしたいこと】。
今回ご登場いただくのは、ミシュラン一つ星レストランSincere(シンシア)のシェフ石井真介さんです。医療従事者へお弁当を届ける「Smile Food Project(スマイルフードプロジェクト)」、サステナブル・シーフードをテーマにした「Sincere BLUE(シンシアブルー)」の開店と、コロナ禍においても挑戦の2020年を過ごした石井さん。飲食業の今後や海の資源の課題について伺いました。
※本記事は2021年2月に取材を行いました

コロナ禍で浮き彫りになった飲食店のもろさ

「コロナ禍で、まず感じたのは飲食店のもろさ」と語る石井さん。2020年9月に設立された一般社団法人食文化ルネサンスの理事を務める石井さんは、コロナ禍における飲食店の現状を政治家に伝えた際、飲食店の経営状況が理解されていないと感じたと言います。「飲食店では、購入した食材費の支払いがクレジットカード払いのように後からきます。十分な貯蓄のない自転車操業状態の店が多く、休業となると売上がないのに家賃や食材費の支払いがくる状態に陥ってしまう。特に手頃な価格帯の店は本当に切羽詰まった状況に置かれました」。

石井さんの経営するSincereも早々に休業を決定。2カ月に渡る休業は、料理人経験の中で初めてのことでした。「3月にも多くのお客様でにぎわっていたため、早期の決断には迷いがありました。ただ、早めに『閉めよう』と決めたことで、休業中の施策を考える時間ができ、デリバリーやテイクアウトサービスも早々に始められました。コロナ禍前から力を入れていたEC事業も、売上面で大きな支えとなってくれました」。

短期間で実現させた「Smile Food Project」

4月2日に休業を決め、6日からテイクアウトを開始。翌7日に、石井さんはFacebook上である投稿を見つけました。「フランスに住む日本人シェフが、医療機関に料理の差し入れをしたという内容でした。異国にいながら自分にできることを探して行動を起こしている料理人がいるのに、日本でなぜ同じような動きがないのか。私も何かやりたい、でも私には料理を作ることしかできない。そんな思いを投稿したところ、CITABRIA(サイタブリア)の石田さんから賛同のお電話をいただきました。他にも賛同者が表れ、2日後の9日には活動を開始。13日には料理の無償提供にこぎつけました」。

日本で料理の無償提供を行うには、衛生面の担保や届けるまでのフローが海外よりも困難だったと語る石井さん。様々な人々の協力により、衛生的な調理環境が整い、問い合わせ窓口となるHPも立ち上げ、撮影クルーによる映像撮影も実施。メディアからの取材も受け、「Smile Food Project」は広く世に知られることとなりました。「問い合わせ窓口を始めに作っておいたため、メディア露出後には多くの声が寄せられました。生産者から食材を支援したいというお申し出もありました」。活動は7月まで行われ、一旦クローズ。2020年末から再び始動し、3月まで継続予定だと言います。「1回で600食ほどを提供したこともありました。世界規模で見ても、あれだけの数を作れた事例はないのではないでしょうか」。

Sincere BLUEにかける思い

2020年に石井さんが取り組んだもう一つの挑戦が、Sincere BLUEのオープンです。Sincere BLUEは、本来の開店予定から3カ月遅らせた2020年9月に営業を開始。オープン計画は前々から決まっていましたが、4~5月のSincere休業を経た6月時点では、「払った手付金が無駄になろうとも、オープンは取りやめようという気持ちに固まりかけていた」と石井さんは言います。

その想いが一転、開店に踏み切った背景には、Smile Food Projectへの挑戦がありました。「難しいチャレンジであっても、一歩踏み出すことでいろいろな人が協力し、集まってきてくれる強さを感じました。Sincere BLUEは単なる新店ではなく、海の資源を守るサステナブル・シーフードをテーマにした店です。今後も世界で漁業を続けていくためにも、サステナブル・シーフードの認証魚や漁網に掛かっても市場流通できない未利用魚について、消費者にも知って味わってもらうことが必要。その想いもあり、9月のオープンに踏み切りました」。

現代の食文化を残すため、今できること

コロナ禍を受け、料理に携わる人たちは一時的にお客様に料理を振舞えなくなりました。石井さんは、飲食業従事者たちは精神的ダメージを受けていると感じているそう。「若者が業界に入るのをご両親が心配して止めたという話も聞いています。資源だけではなく職人を守っていくためにも、料理人が憧れの存在にならなければいけません。そのためには、料理だけではなく社会貢献に繋がることも考えていく必要があるでしょう。Smile Food Project活動は、私たちにとっても“やって良かった”と思えるものでした。メディアで活動を知った料理人が、自分の仕事の素晴らしさを思い起こしてくれたらと思いますね。苦しいときだからこそ、少しでも体力のある飲食店、料理人は何かをするべきだと思っています」。

今後について、石井さんは「自分の店を次世代まで残したいとは思いません。ただ、海の資源は未来の世代にまで残したい。私の活動がサステナブル・シーフードという考え方を次世代の料理人に受け継ぐためのきっかけになればいいと思っています。お客様に何で自分の店を選んでいただくか。ただ価格で勝負するやり方にはもろさがありますよね。美味しさはもちろん、そこで得られる体験や知識、情報など、もっと選んでいただける要素はたくさんあると思います。サステナブル・シーフードはその要素のひとつになり得る。このように、コロナ禍は飲食店のあり方を見直すきっかけになるのではないでしょうか」と語ります。

現代の食文化を未来の世代に繋ぐために今個々人ができることは、まず食材について知ること。そして、選択肢として提示されたときにそれを選ぶこと。コロナ禍で“食”との向き合い方が変わったという方も多いかと思いますが、石井シェフのお話から、こういった選択肢があることに意識を向ける大切さを教えて頂きました。

Profile)
石井真介(いしい・しんすけ)
調理師学校を卒業後、「オテル・ドゥ・ミクニ」や「ラ・ブランシュ」を経て渡仏。フランスで本場の二つ星、三つ星レストランを経験し、2004年に帰国。その後は「フィッシュバンク東京」でスーシェフを2年間務め、2008年より「レストランバカール」のシェフを7年間務める。2016年4月、自身のレストラン「Sincère(シンシア)」をオープン。2020年4月、医療従事者に弁当の無償提供を行う「Smile Food Project」を開始、同年9月サステナブル・シーフードをテーマにした「Sincere BLUE」をオープン。


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文/卯岡若菜