【2021年、新たな時代に大切にしたいこと】宮下拓己 #本質からぶれない

自粛生活や新しい生活様式を体験し、ニューノーマルな時代の中で私たちはこれからをどう生きていけばいいのか。コロナ禍で生まれた思考や未来への気づきを各分野のキーパーソンにインタビューして、社会にポジティブな連鎖が生まれることを目指す【2021年、新たな時代に大切にしたいこと】。
今回ご登場いただくのは、京都にあるレストラン「LURRA°」共同オーナーの宮下拓己さんです。ニュージーランドで出会ったJacob Kearさん、堺部雄介さんの3人で始めたLURRA°は、香りや音、場の雰囲気など、店に行かなければ感じられない食の体験の提供に重きを置いたレストラン。畑や自然の中に流れる季節感を料理に表す店のあり方は、「京都から日本の季節と文化のショーケースを発信する」のコンセプトの言葉通りです。オープンから約1年4ヵ月経った2020年10月には、ミシュランの星も獲得しました。宮下さんにコロナ禍による休業を経て改めて気づいたレストランの価値、今後の展望について話を伺いました。
※本記事は2021年1月に取材を行いました

「今」を食で体験できることが、LURRA°が提供する価値

ニュージーランド滞在以前にも、フランスやオーストラリアで修業を重ねてきた宮下さん。「海外で過ごしていた当時は、日本より海外の方がかっこよく見えていた部分がありました。しかし、改めて日本に目を向けてみると、ここまで深く掘れる文化を持つ国はあまりないと気付いたのです」と語ります。帰国後、LURRA°の開業場所に京都を選んだのは、自然や文化が身近に溢れている土地だからだったそう。「共同オーナーの3人とも、自分たちの拠点は東京ではないと思っていました。LURRA°らしい形で発展、発信していける場所は京都ではないかと」。二十四節季にとらわれず、畑や自然の変化に見られる今ならではの季節感を料理で表現。カトラリーや器には日本の手仕事で作られたものを使い、その価値を体感できる場を提供しています。

大きな反響を呼んだ「もうちょっとだけ先のお食事券」

「食」を「体験」ととらえ、サービスや料理を提供してきたLURRA°。薪を使った調理や、一斉にゲストが食事を始めるスタイルなど、LURRA°に来なければ味わえない体験を提供しています。店を閉めざるを得なかった2020年4~5月、テイクアウトに乗り出す飲食店が出てくる中、宮下さんたちが行ったのは「もうちょっとだけ先のお食事券」の販売でした。「香りや音、雰囲気など、店に訪れないと感じられないものこそがLURRA°の価値です。テイクアウトの取り組み自体は良い挑戦だと思いましたが、LURRA°らしくないと意見が一致しました。お食事券に関しても、できるだけネガティブな売り出し方は避けたかった。そのため、いずれ状況が落ち着いたときに、魅力的な街である京都に訪れてもらえるきっかけに、と打ち出したのです。海外、特にオセアニア圏には、プレゼントとしてレストランチケットを贈る文化があります。コロナ禍に関係なく、いつか取り入れてみたいと思っていました」。2020年4月6日にリリースしたお食事券の反応は上々。元々つながりのあった友人のほか、お食事券の取り組みに共感してくれて、なおかつ熱量高く発信してくれる“仲間”のような人たちに恵まれたといいます。この取り組みをきっかけにLURRA°を知った人や、「いつか行ってみたい」と思っていた人にも、お食事券を通じてLURRA°の価値観が広く伝わることとなりました。

さらなる発展のため、異業種とも情報交換を

宮下さんは休業期間中、友人やスタッフ、他店の料理人と、より密にコミュニケーションを取るようになったそうです。同年代の料理人にはフラットに情報を共有できる雰囲気があり、特定のコミュニティに属さずともオープンに話せる機会に恵まれていたのだそうです。また、農家の方や、器やカトラリーの作家など、普段LURRA°と関わりがある人たちとの繋がりがさらに密になった2カ月間だったとも振り返りました。「日本文化にも、まだまだ知らないことがたくさんあります。コロナ禍で海外に行けない今の時間は、日本のことを深く知るいい機会なのかもしれません」。

バスク語で「地球」を意味するLURRA°。右上の「°」は地球の周囲を回る月という意味の他、“ここにしかない「LURRA°」という座標”という意味も込められています。もっと多くの人がLURRA°を目的地にして集う場所にしたい、と願う宮下さん。今後は異業種の人との情報交換も行っていきたいのだとか。「レストラン業界だけに留まっていては、発展性がありませんから。特に興味があるのは、デザイン思考の方たちですね。感覚的に捉えたものを形にしていく力を勉強したいと思っています」。

「食の本質」は変わらない。“ワクワク感の提供”がレストランの価値

2020年10月6日。オープンから約1年4ヵ月が経ったこの日、LURRA°はミシュランの星を獲得しました。来店翌日に再び訪れたミシュラン担当者の「楽しかった。このお店は心を豊かにしてくれる場所」との言葉を受け、宮下さんは「自分たちが提供したい“体験”という価値が評価されたと感じ、嬉しかった」と語ります。ミシュランの星獲得の継続はもちろん、その数を増すことも目指していくそうです。

LURRA°、そして宮下さんの考え方の軸にあるのは「変わらないこと」、「ぶれないこと」。社会が大きく変化する中でも、食の価値は本質的に変わらない。その価値をぶれずに信じ続けること。「食が栄養摂取だけのものになってしまうと、ワクワクしない世の中になってしまう。それではダメだと思っています。食べる価値、レストランで食を楽しむワクワク感の提供から、僕たちはぶれずにいたい。その一方で、新しい情報や考え方を取り入れることでの変化は積極的に受け入れていきたいですね」。

ニューノーマルやアフターコロナなど変化せざるを得ない今だからこそ、変えずに守るべき本質とは何なのかを見つめ直し、深掘ることが大切なのかもしれません。

 

Profile)
宮下拓己(みやした・たくみ)
1990年、東京都国立市生まれ。フランス・Micheal Brasで修業し、帰国後はサービスへ転向。東京や大阪のレストランでソムリエとして勤務後、オーストラリア・VUE DE MONDEで経験を積み、ニュージーランド・Clooneyにてヘッドソムリエ。2017年に帰国、2019年6月にLURRA°開業。

公式サイト
LURRA°
https://lurrakyoto.com/


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文/卯岡若菜