【2021年、新たな時代に大切にしたいこと】斎藤幸平 #社会を転換させるアクションを
コロナ禍は世界が変わるチャンスでもある
ウィズコロナやアフターコロナなど、コロナ禍を機に社会が大きく変化するかのように言われる一方、ワクチンにより元の生活に戻れる期待も高まっています。「元に戻ることは破滅への道。これまで通りの生活を続けるなら、気候危機はさらに悪化し、今回のパンデミックよりも悲惨な事態が待っています。だからこそコロナ禍の中で気づけたことを忘れずに、人々が大胆な変化を起こそうとすることが大切」と斎藤さんは語ります。マルクスを研究していた斎藤さんが環境問題について関心を持つきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災。「福島の原発事故から10年を経ちましたが、大都市の巨大電力会社が利権を独占するという構図は今もなお変わっていません」。
コロナ禍では、世界中の多くの都市がロックダウンするという大きな変化が起こりました。資本主義社会において不可能とされてきた経済活動の強制ストップがなされたことで、ルールさえ作れば過剰とも言える経済活動を抑制できるとわかったのです。斎藤さんは、「自然破壊により人とウイルスとの距離が縮まってしまった現代では、また未知のウイルスの感染流行が起こるおそれがある」と見ています。「コロナはこの間の経済成長を優先する構造改革がウイルスのような危機に脆弱な社会を作り出してしまったかを明らかにしました。これまで周辺部からの収奪によって豊かな生活を営んできた都市部の様々なリスクや脆弱性が露呈したコロナ禍は、世界が変わるチャンスであると言えます。今は、今後10~20年の社会をどう変えていくかの分岐点なのです」。
本当に大切なものを見つめ直したコロナ禍
2019年までは、仕事で国内外への出張が多かったという斎藤さん。2020年はステイホームが基本となり、大学の学生への指導もオンライン中心に。失われたものがある一方で、家族との時間が増え、また自分にとって何が大切なのかを改めて見つめ直すきっかけにもなったとのこと。「多くの人々が強制的にストップをかけられることで、自分たちの生活にとってなにが本当に必要不可欠なものかを考えざるをえなくなりました。それと同時に、これまでの生活がいかに過剰なもので溢れていたのかに気が付いたのではないでしょうか。絶えざる競争のプレッシャーに晒されるなかで、本当に大切なものが見えなくなっていたのが、スローダウンすることでこそ浮かび上がってきたのです」。
資本主義の競争から脱し、コモン型社会の実現を
地産地消のものを選んだり、肉類を食べる頻度を減らしたりといった行動を起こしている斎藤さん。「エコバッグやマイボトルなど、個人でできる選択は多くありますが、実際には意味がありません。環境問題は、個人単位で太刀打ちできない社会に与える影響が大きい企業や国が活動を転換させない限り、解決しません」。
経済的成長に突き進み続けたことで招いた、気候変動や新たな感染症。人が地球環境を変えてしまった「人新世」の時代を乗り越えるには「脱成長のコモン型社会」が必要、というのが斎藤さんの考えです。コモンとは、市場に任せるのではなく、人々に共有される公共財を指します。水道、電力、公共交通機関、教育、医療など、人々が生きていくために必要なものを脱商品化していくことで、国や市場に依存せずに生活を守れる社会を実現すべきです。「例えば、スペイン・バルセロナでは過剰な観光需要(オーバーツアリズム)のために民泊が増え、家賃が高騰。市民が立ち上がり、地域政党『バルセロナ・イン・コモン』が作られ、そこから二期連続で市長を擁立しています。観光客ではなく市民のための新しい街づくりを宣言し、気候非常事態宣言もいち早く出している街です。」「コモン型社会実現のためには、富裕層や大企業に課税をして、資源やお金を別の目的で使うように転換しなければなりません。摩擦は当然生まれるでしょう。けれども、より平等な社会を実現することで、これまでの経済成長だけを追い求める競争社会で抑圧され、周辺化されてきた家族や友人との時間や文化的活動、社会貢献を充実させ、別の意味で「豊かな社会」につながっていくのではないでしょうか」。
社会問題の解決を他人任せにしない。2021年のキーワードは「アクション」
斎藤さんが思う2021年のキーワードは「アクション」。今の二酸化炭素の排出ペースが続けば、2030年に平均気温が1.5度を超えて上昇するおそれがあります。何も行動を起こさなければ、悪い方向に進んでいってしまうことは明白です。個人単位の行動で満足するだけではなく、企業や国に対して対策を取るよう訴えかけていくことが求められています。「アクションを起こす人が、環境活動家のグレタ・トゥーンベリのように主張に沿った生活を送っていなければならないわけではありません。誰か頼りになるリーダーが出てきて何とかしてくれるだろう、どこかの企業がテクノロジーで問題解決してくれるだろうと人任せにしていることのほうが良くないでしょう。自分たちの生きる社会を持続可能なものにするためには、自らアクションを起こすことが必要なのです」。
社会・地球を持続可能なものにするには、個々人が小さくともアクションを起こしていくかどうかにかかっています。環境破壊や気候変動を実感する機会も増えている今こそ、自分の行動を見つめ直すタイミングと捉え、どんなアクションを起こしていくべきかについて、今一度考えてみましょう。
Profile)
斎藤幸平(さいとう・こうへい)
1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx’s Ecosocialism:Capital,Nature,and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前に』/堀之内出版)によって権威ある「ドイッチャー記念賞」を日本人初歴代最年少で受賞。 最新刊『人新世の「資本論」』(集英社新書)で新書大賞2021を獲得、20万部越えのベストセラーに。
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