みやこ下地島空港ターミナル開業記念企画 脇屋シェフが宮古島の“おいしい”を訪ねる「Miyako Emotional Trip」レポート③
『高音多湿な南国の気候に合わせて先人たちが生み出した
食材の知恵、伊良部島佐良浜で明治時代から根付く
伝統の保存食「なまり節」の魅力を体感』
かつおの水揚げ沖縄一を誇る宮古島。中でも伊良部島佐良浜は、明治時代より続くかつおの一本釣りとかつお加工業が今なお息づく漁師町として知られています。脇屋シェフが訪れた「友利かつお加工場」は、伊良部島で一番新しい創業30年のかつお加工場。二代目の友利真海さんが、先代から継いだ伝統製法を活かして、かつお節や昔ながらの保存食「なまり節」をはじめ、さまざまな焙乾製品を作り出しています。
訪ねたときは、ちょうど焙乾の真っ最中。かまどからもくもくと立ち上る煙、木炭の匂いと焙された魚の香り。木の台の上にずらりと並べられた美しいカツオの光景が圧巻です。
「なまり節はかつお節になる前の状態で、燻製のようなもの。茹でて骨抜きしたかつおを火で焙って乾燥させます。最初の30分で色を付け、残りの30分で蒸らし、1時間ほどで完成。これを長時間続けていくとできあがるのがかつお節です」
遠洋で釣り上げられたかつおは、すぐに加工するのではなく、海水と共に冷凍されたまま十分な時間寝かされ、身を弱らせてから窯茹でされるのだそう。「なるほど、細胞を一度壊すことによって身がしまるんですね。適度な塩水も入って、それでおいしくなるんだ」と、脇屋シェフ。茹でたあと骨抜きする際も扱いやすくなり、血合いの生臭さも減少するのだそうです。
焙乾には、「手火山式」という伝統製法が用いられますが、「友利かつお加工場」の特徴は、通常より火とかつおの距離が近いこと。直火の力でより香ばしく中はしっとり、旨みをぎゅっと閉じ込めた仕上がりです。
モクマオウという樹木を薪に使用するのも島の伝統です。「伊良部島のインフラが整っていなかったころ、基本の燃料は薪でした。それで薪に適した木として海岸沿いにたくさん植林されたのがこのモクマオウ。外国産ですが、火力が強くて火持ちがよく、成長が早い。防風林としても活躍するので適材だったのです。香りもよく、匂いの邪魔をしないのでなまり節にぴったり。今は主に台風や虫食いに遭った倒木を利用しています」
「すごいなぁ、先人たちの素晴らしい知恵が詰まっていますね」と感心しきりの脇屋シェフ。実は島に訪れる前、このなまり節で特製のXOジャンを試作していました。「たっぷりの旨み成分と、かつお節とは違う独特の食感、風味を活かして作った」という特製XOジャンは、交流会の際、みんなで試食。ふだんはチャンプルーやお味噌汁などに、そのままの味で使われているなまり節が、こんなふうにアレンジされるとは!と島の人たちも感動。「島の方たちはもう少し甘い味が好みなのかな。皆さんの意見を持ち帰って、味のバージョンアップに励みます」と笑顔で意気込みを語っていました。
(写真/大城亘(camenokostudio) 文/岡部徳枝)