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元気になる日本の味めぐり05 東京から2000キロ、石垣島の人と自然が教えてくれたこと

 羽田空港から那覇空港まで2時間半のフライト、さらに飛行機を乗り継ぐこと1時間。眼下には青い珊瑚礁に囲まれた宮古諸島が点々と連なっている。「南の島へ来た!」というわくわくした感覚に胸が踊る。
やがて高度が下がり、石垣島北部にたどり着くころ、起伏のある島の肌には緑のパッチワークが広がり、ぽつぽつと動く牛たちの黒い影が見える。石垣空港到着。飛行機のタラップを降り始めると、心地よい湿気を帯びた島の空気が優しく頬をなでた。

 新丸ビルにある人気中華レストラン「四川豆花飯荘(シセントウファ)東京店」の遠藤浄(えんどうきよし)料理長が、石垣島を訪れるのは2ヶ月ぶり。今回で2回目の来島である。
海がない長野県で生まれた遠藤料理長は、以前から沖縄が大好きで毎年通っていた。最近縁あって石垣島の食材を使い始めたら、おもしろくて仕方ないと言う。
「この前はもろみ豚を、泡盛、黒糖、ウコンと一緒にラフティーのようにやわらかく煮込みましたよ。もろみ豚は肉と脂の味のバランスが抜群で、塊のまま2時間ボイルして、薄くスライスしてさっと湯がくだけでもとてもおいしい。豚特有のにおいがなく、優しい香りのある豚なんです。」
そういうわけで石垣の食材を知る旅は、遠藤料理長もお気に入りの「もろみ豚」の見学から始まった。

華麗なる島のエコシステム

 石垣空港から島の西側を海岸沿いに北上し、川満(かわみつ)養豚の川満義久さん一家を訪ねる。
「もろみ豚」の最大の特徴はその名の通り、泡盛を蒸留する際に出る「もろみ粕(かす)」もしくは「もろみ液」を飼料として豚を育てること。タイ米に黒麹菌を植え込んで発酵させて作る「もろみ」の主要成分はアミノ酸やクエン酸。それらが豚の健康を保つのに多いに役立っているという。
そもそもなぜ「もろみ」なのか? それは42年前、義久さんの父親が2頭のアグー豚から島で養豚を始めた頃に遡る。市販の飼料が高価だったため、廃棄物となっていたもろみ粕を泡盛メーカーから譲り受けたのだ。川満養豚では現在は三元豚を子豚から一貫して育て、7ヶ月前後で出荷(月120頭)。島の養豚の生産量の70%を占めている。

 「農業は観光と違って土があればなんとか食べれる。あるものはすべて資源さ。もろみ粕も、家畜の糞尿も本当は廃棄物でも厄介者でもない。微生物を加えて畑にまけば肥料になる。今日みたいな太陽だったら作物も草もどんどん育つ。あとは土に相談するっていう考え方だな。なんでもかんでもスピードを優先してやってしまおうとするとだめだね。自然の流れに沿ってね。要は考え方次第なんだ。」
そう語る川満さんは豚の糞尿から肥料を作り、サトウキビも育てている。泡盛-豚-野菜の循環。そこには無駄なものはひとつもない。まさに島内でハイブリッドなエコシステムが完結しているのだ。

 事務所奥の施設では、義久さんの妻美佐子さん、次男の俊二さんと従業員の三人がもろみ豚を解体していた。
「この子、きれいな脚をしてるでしょう」。
出荷する前にまずは自分たちで食べてみると話していた美佐子さんは愛情たっぷり、目を細めながらも豚をさばく作業の手を休めることはない。一頭ずつの個性をきちっと理解している。
義久さんいわく、おいしい豚を育てるには環境がとても大切。そのため山の湧き水を引いて、毎日豚たちに与えているそうだ。
健康で幸せなもろみ豚と川満さん一家との出会いを終えた遠藤料理長の顔は、満足と期待に輝いていた。 5月の新メニューから、もろみ豚をレギュラーで使おうを決めていた。

※ 川満さん一家 川満義久さん、妻の美佐子さん、息子の拓矢さんと俊二さんとともに

 川満養豚の次に向かったのは、すでに遠藤料理長が「四川豆花飯荘」のデザートにも使っているという石垣パパイヤの栽培場。
3月末でも気温は26℃。じりじり照りつける太陽は真夏のように強烈だ。そして案内されたハウスの中は、熱帯植物園のような様相。たくさんの実をたわわに抱えたパパイヤの木がずらりと並び、大きな葉を豊かに広げて私たちを迎えてくれた。

 「背の高い木と低い木がありますが、どう違うんですか?」遠藤料理長が尋ねる。
パパイヤ栽培に携わって15年、石垣パパイヤの代表、玉城真男(たまき さねお)さんはパパイヤの木の違いについて語ってくれた。
背の低い木は宮古島で30〜40年前に生まれた「ワンダーフレア」という品種。着果する位置が低いので収穫が楽だが、果肉がやわらかいため、本土など遠くまでは出荷できない。背の高い木は「石垣珊瑚」という品種。実はワンダーフレアよりひとまわり大きめで、風味もワンダーフレアより優れ、棚持ちもよいとのこと。
さっそく試食タイム。手のひらにやっと乗る小型のラグビーボールのような果実を縦に割ると、先ず驚いたのは珊瑚のような美しいピンク色の果肉。さらにびっくり!種がまったく無い。石垣島で栽培される「ワンダーフレア」と「石垣珊瑚」は、どちらも輸入されている一般的なパパイヤ、果肉が黄色で黒い種がびっしり詰まった「サンライズ」とは全く別の品種だそう。

 果肉にスプーンを走らせると甘い香りが漂う。待ちきれずに口に運ぶと「ワンダーフレア」はキャラメルのような濃厚な甘みがあり、さらに「石垣珊瑚」にはバニラのようなエレガントな香りをほんのりと感じる。どちらもおいしい!
「ねっ、ぜんぜん違うでしょ!? 石垣島のパパイヤ。種のまわりに特有のくさみがまったく無いから、お店でも特に女性のお客様に人気なんだよ。」と遠藤料理長。確かに、これはもはや私たちが知っているパパイヤではなかった。
さらに、石垣島を含む沖縄県では、ベトナムやタイと同様に未熟な青パパイヤを野菜として食す。八重山の方言でパパイヤは「まんじゅまい」と呼ばれ、スライサーで千切り(八重山の方言で”しりしり”)にして煮たり、炒めたりするポピュラーな食材である。島の人々はこのビタミンC、カロテン、植物繊維を多く含む健康的なパパイヤの恩恵を毎日体に取り入れるため、昔から家の近くに木を植えていた。
台風による被害を避けるため現在パパイヤの栽培はハウスが主流だが、同じ場所に同じ作物を毎年植える事で起こる「連作障害」の予防として、一株ずつポット(植木鉢)に植えている。さらに珊瑚のかけらを根元に敷いて通気性と保水性をコントロールするなど、細かな工夫が施されていることに遠藤料理長も驚いた。
しかし玉城さんは、そんな長年の努力と施策を続けても、まだ納得のゆく玉(果実)はそう簡単には取れないと言う。「こうなったら一番いいねぇ。」と、玉城さんがひとつ手にとったパパイヤの表皮はほのかな茜色に染まっていた。

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