四川豆花飯荘×サンス・エ・サヴール スペシャルコラボレーションディナー
2010年 2月16日、食育をテーマに活動する「丸の内シェフズクラブ」主催のイートアカデミー第6弾が開催されました。今回のテーマは、日本でも旧正月(2010年2月14日〜16日)として知られる “チャイニーズ ニューイヤー”。会場となった新丸ビル6F「四川豆花飯荘」の本店があるシンガポールでも、この期間は家族揃って美味しい料理を囲みながら1年の幸運を願って盛大にお祝いする習慣があります。
この日、「四川豆花飯荘」の遠藤浄シェフと共に、東西の食文化の奥深さが息づくコラボレーションメニューを創作してくれたのは、五感に訴える繊細なフレンチで定評ある「サンス・エ・サヴール」の長谷川幸太郎シェフ。中華とフレンチの技法を合わせた料理や、1つの素材を2つの異なる味付けで表現するなど、お祝いに欠かせない “ペア” や “2”という数字を重視したチャイニーズニューイヤーにふさわしい、二大シェフによる創作料理の数々が登場しました。
オープニングは四川豆花飯荘の名物、茶芸 ※① パフォーマンスで賑やかにスタート。中国の国家資格を持った茶芸師がダイナミックな動きで巧みに茶を注ぐ度、会場から大きな拍手や完成が上がりました。茶芸師たちはパーティ中も客席に回って四川豆花飯荘オリジナルの「八賓茶」※② を匠に注いで回ります。
※①茶芸
中国四川省で誕生したカンフー式のアクロバティックな曲芸スタイルのお茶の注ぎ方。茶芸師の資格を得るには、2年の修行後、中国の国家試験に合格しなければならない。
※②八賓茶
ジャスミン茶をベースに紅なつめ、クコ、菊花、百合根、竜眼、クルミ、氷砂糖の入った爽やかな芳香のお茶で、血行促進や免疫力アップ、コレステロールを下げるなどの効果が期待できます。何煎でも味わい深くいただけるのも特長。
遠藤シェフと長谷川シェフによるご挨拶の後は、大皿に盛った「運気上昇ローヘイ刺身サラダ」が登場。シンガポールではチャイニーズニューイヤーの始まりにどの家庭でもいただく料理で、サーモンと鯛の刺身は「金運上昇」、ピーナッツオイルは「富と成功」、赤い袋に入ったゴマは「健康を繁栄」、そして長谷川シェフによるグレープフルーツソースは「幸運を願う」という意味が込められています。
願い事を思いながら、「ローヘイ! ローヘイ!」※③ と声を上げ、はしで食材をできるだけ高く高く持ち上げては落とすと願いが叶うといわれています。遠藤シェフの音頭で、会場には一斉に「ローヘイ!」という元気な掛け声が上がり、ニューイヤーにふさわしい盛り上がりを見せました。
※③ローヘイ
上げては落とすという意味の「ローヘイ」とは。もともと広東語で漁師が網にかかった魚を引き上げる動作を指す言葉でした。魚はお金になることから「お金を儲ける」という意味もあります。
次々に登場する料理には、それぞれ「年々豊かに幸せになりますように」「家庭が円満にいきますように」といった願いが込められており、いずれもチャイニーズニューイヤーにふさわしい趣き。中国料理のスタイルの中にフランス料理のエッセンスや技法が見事に生かされたメニューのひとつひとつに、異なる食文化の魅力がぶつかりあうことなく相乗的に引き出されていました。
四川豆花飯荘の常連ゲストも「毎年いただくローヘイサラダとは、ソースや香りなどが異なり、印象が変わっていてとても新鮮だった」「通常の中華料理にはない調理法が意外な味わいを引き出していて驚いた」「中華とフレンチのいろんな試みがなされていたので、食べながらわくわくした」「意外性がありながら、全体にほっとするような料理に仕上がっていた」と、東西文化が見事に融合した料理をとくと堪能した様子でした。
食事のしめには、中国茶のロマネコンティとも称される希少な四大岩茶のひとつ「大紅袍」が登場。「工夫茶」と呼ばれる伝統スタイルで煎れたお茶から漂う濃厚な花の芳香が、会場を優しく満たします。
最後に、遠藤シェフと長谷川シェフが各テーブルを回ってご挨拶。ふたりは丸の内シェフズクラブで意気投合し、昨秋のスペシャルコラボレーションディナーを経て、さらに試行錯誤を繰り返して今回のコラボレーションメニューを創り出しました。その過程においては、互いの食文化の奥深さを実感することが何度もあったといます。チャイニーズニューイヤーをテーマに、中国とフランスの伝統的な食文化をまったく新しい発想でとらえた今回のイートアカデミーは、まさに「食育丸の内」にふさわしい意義深い食育イベントとなりました。
チャイニーズニューイヤーを代表する
「金銀三文魚生 シンガポール発 運気上昇ローヘイ刺身サラダ」。
長谷川シェフによるグレープフルーツのソースが爽やかな隠し味に。
一皿一皿が東西食文化の小宇宙になった
「年年有余 富貴福禄寿六味菜碟 四川&フレンチの祝い六味前菜の盛合せ」。
上3皿は長谷川シェフ、下3皿は遠藤シェフの料理。
鶏のすり身を豆腐に見立て、フカヒレをコンソメでじっくりと煮込んだ
「如意吉祥 鶏茸扒鮑翅 フカヒレのコンソメ煮 特製豆花とともに エストラゴンの香り」
中華の衣揚げ「酥炸」に、フレンチのトマトソースを融合させた
「歓楽満華堂 蕃茄酥炸明蝦 天然車海老のフリッター トマトフォンデュ 温野菜添え」
仏シャラン産鴨のローストと四川の茶葉でスモークした鴨をスパイシーなソースで味わう
「満屋黄金 双品鴨子 四川スモークダックとシャラン鴨のパン包み」
コクのある魚介スープと2種の麺の食感の違いが絶妙。
フレンチのアイオリソースがアクセントになった
「招財入宝 海香湯双絲麺 ビーフンと素麺のブイヤベース仕立て」
じっくり蒸したスッポンスープに四川産キヌガサ茸と仏産モリーユ茸を合せた
「福寿好運来 極菇燉甲魚 スッポンとキヌガサ茸とモリーユ茸の滋養蒸しスープ」
「鴻運年年 鴛鴦甜品 本日のスペシャルデザート」は、
パイナップルのガスパチョにミントのグラニテ&カスタード餡を加えた蒸し饅頭(流沙包)
中華とフレンチの合体というのは非常に難しい課題でしたが、昨秋のコラボレーションディナーの経験から、さらに深く踏み込んだメニューを追求しました。例えば最初のローヘイサラダも、長谷川シェフにフレンチのソースを作ってもらい、それにどう合わせていくかということを何度も試行錯誤しました。中華を代表するフカヒレをフレンチのチキンコンソメで煮込んだ料理は、今回のコラボレーションメニューの中で一番象徴的な一品だったと思います。
中華料理もフレンチも世界を代表する食文化ですが、長谷川シェフとのコラボレーションを通じて、それぞれの文化の奥深さを改めて実感いたしました。こうした試みをきっかけに、さらに意外性のある料理を作り出し、ゲストの方々に楽しんでいただけたら嬉しいです。
また、料理だけでなく、いつもとは異なる厨房を互いに行き来し交流することでアイデアが生まれることもあり、勉強になることも非常に多くありました。スタッフが一丸となって、今回のチャレンジに楽しんで取り組んでくれたことも本当によかったと思います。今後もこうした異なる食文化のコラボレーションにチャレンジする機会が持てれば幸いです。
昨秋のイートアカデミーでは中華をベースにした中華っぽいフレンチでしたが、今回はフレンチをベースにした中華に挑戦しました。中華とフレンチを交互に出すのではなく、一皿に異なる文化の料理を融合させるというのは至難の業です。でもその分やりがいもあり、もっともっと勉強していきたいという意欲をかきたてられました。
今回自分の中で象徴的だったメニューは、天然海老のフリッターにトマトフォンデュと温野菜を添えた一品です。衣をつけて揚げるという手法は中華でもフレンチでも違和感なくマッチングして入っていけました。実際に遠藤シェフと試行錯誤する中で、さまざまな発見があり、自分自身の引き出しを増やすことができました。 食文化というのは全体のメニューのバランスでもあると思いますが、ワインなどのお酒やお茶なども含め、互いの食文化の類似したところを別のものに置き換え、トータルにバランスのとれたものに仕上げていくことの重要性も改めて、実感しました 。
また、普段とはまったく違う厨房で料理に専念することは、とてもクリエイティブな時間でもありました。料理人にとってアウェイでの経験は、自分自身の財産になります。連れてきた料理人たちのモチベーションも上がり、とても活き活きとしていたのが印象的でした。今回のイベントを糧にさらに切磋琢磨していきたいと思います。