服部幸應の食育のツボ04「一振りの塩が味を決める」
正しい塩の摂取量は一日に「10グラム」以下と言われています。これだけで、人間の生命維持には十分な機能を発揮するようです。塩は水分を吸収することから、摂り過ぎると血管をボロボロにしてしまいます。腐敗防止の作用があることから、冷蔵庫のなかった時代には保存用の塩漬けなどの食品が多数生まれました。しかし、塩分の摂取量が多くなれば多くなるほど、がんや糖尿病などを発症することは近年の研究では証明されています。
最近の健康志向などから、塩は悪玉のような扱いを受けていますが、塩がなければ胃酸もできず、新陳代謝機能を発揮することもできません。私たち生命体は海から生まれました。人間の体の67%が水分で満たされています。そのうち75%が細胞の中にあり、残りが血液や体液の中にあります。私たちの体の中には、海の水を3分1位に薄めた成分が存在しているのです。人間の体は排泄作用がよくできていて、塩分を多目にとっても利尿作用によって排出されます。よっぽど体が悪くならない限り、自然の理にかなった摂取方法を自ずとしているのです。
30年ほど前、日本では機械化による塩の大量生産が可能になりました。いわゆる食塩と呼ばれる塩化ナトリウム99.2%という混じり気のない高純度のものです。なめると舌をさすように辛く角のある味です。その上、味が画一化されているので、せっかくの塩の味わいは封印されていると言っていいでしょう。私は「自然塩」をおすすめします。1997年から塩の販売が自由化されたことで、海に面した日本各地では、それぞれの風土が生み出す、個性のある味わいの塩が多数生産されています。自然塩を使うと、魚の塩焼きひとつとってもまろやかさが違います。ぜんざいなど甘味も引き立てます。また、近年では海外の塩も輸入されるようになりました。フランスやイタリア産の天日塩やアルプス産の岩塩。スパイス入りの塩もあります。料理の味の要は塩です。耳かきいっぱいの塩が多いか少ないかで料理の旨さは決まります。また、塩をしない料理は素材の味が引き立ちません。塩は身体の生理だけでなく、味覚にも大きな影響を与えます。