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〈食のFIELD WORK in 福井〉 レポート3日目/坂井市・あわら市・上庄地区 編

「美味しさの本質」ってなんだろう…
その答えは産地(ローカル)にありました。
都心を飛び出し、シェフと巡った3日間。

〜EAT&LEAD食のフィールドワーク in 福井〜

<3日目:坂井市・あわら市・上庄地区 編>

一人ひとりが「食」と向き合い、真に食べる楽しみを知るために必要なことはなんでしょうか?
その答えを探すために、3名のシェフとともに産地を巡るフィールドワークを行いました。

私たちの身体を構成する「食」がどのように生まれ、どのように育てられているのか。
全国各地の生産者と深くつながり、その魅力を丁寧に伝える食の探求者であり、
伝道師であるシェフとのフィールドワークは、私たち消費者はもちろん、
産地の人たちにも新しい視点を与えてくれるはずです。

一緒に巡ったシェフの皆さん

unis chef 薬師神 陸さん
1988年、愛媛県生まれ。2008年辻調理師専門学校フランス料理講師としてスタートし、教育からテレビ料理監修など幅広く活躍。 2014年「SUGALABO」の立上げに同店のシェフとして尽力。 全国の600以上を超える生産者とのコネクションを生かし〝食のリテラシーを磨く〟をコンセプトに、商品開発、メニュー監修など多彩に活動する。 食のインキュベーション事業「Social Kitchen」と併設する「unis」で新しい料理人の働き方を自ら体現する。

ブリアンツァグループ オーナーシェフ 奥野 義幸さん
六本木ヒルズ「La Brianza」をはじめ、都内7店舗のブリアンツァグループの代表を務める。和歌山県出身。米国の大学で経営学を学び、会社員を経て、飲食業界へ。都内イタリアンレストランに勤めたのち、渡伊。イタリア8州で料理を学び帰国。2001年代官山「Ristorante la Brianza」を立ち上げ、2003年麻布十番へ移転後独立。その後、ブリアンツァグループを展開する。2021年には「BRIANZA TOKYO」を常盤橋タワー”TOKYO TORCH Terrace“にオープン。レストラン経営だけに留まらず、国内外のレストランコンサルティング、商品プロデュース等を手掛ける。今後、更にサステナブルやウェルネスをコンセプトとした取り組みにも力を入れていく予定。

PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO オーナーシェフ 岩澤 正和さん
1979年神奈川県茅ケ崎生まれ。家業がレストランだったため、小さい頃から厨房が遊び場だった。18歳より料理人の道へ。2002年にピッツァの本場・イタリアに渡航。帰国後は大手飲食チェーンでの調理指導等を務める傍、ナポリピッツァの世界大会に挑戦し、日本人として初めて2006・2007年2年連続表彰を成し遂げる。2012年に独立し、「PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO」を石神井公園にオープン。全国6店舗のgtaliaグループの代表を務める。国産小麦の推進や商品開発など、日本の食材を使った“人の繋がりで地域に根付くレストラン”を提案している。

【 3日目 】福井県 坂井市・あわら市・上庄地区

 3日目の天気も快晴!
白くて小さな蕎麦の花の絨毯を横目に、一行は坂井市・あわら市方面へ向かいます。

 目的は「坂井あわらアグリカルチャー・スマイルクラブ(略してASC)」の方々に会って生産の現場について教えていただくこと。「坂井あわらASC」は福井県坂井市とあわら市の農業後継者、新規就農者が集まってできた若手の生産者グループで、地元食材の認知度アップや、時代に合った新しい農家スタイルを目指し、「ひと・しごと・ちいき」をつくる活動に取組んでいます。

まず最初に訪れたのは、若狭牛を飼育している「サンビーフ齋藤牧場」。
ASC会長でもある齋藤力さんの牧場です。

「サンビーフ齋藤牧場」の齋藤力さん

「ASCは畜産、米、野菜・果物農家24事業所の福井の若手農業者が集まった農業団体です。福井ブランドの『若狭牛』や『福地鶏の卵・肉』、米どころ福井が誇る極上の米、『越のルビー』や『とみつ金時』をはじめとした福井ブランド野菜、シャインマスカットや梨、メロンやスイカなどの果物など、産地の魅力を発信するためにつくりました」と話す。

結成して4年のグループだが、ふるさと納税の返礼品の展開や、アウトドアブランドコラボしたキャンプ飯の提案など、さまざまなプロジェクトにチャレンジしているそう。

そのグループの会長である齋藤さんの家業は若狭牛の畜産業。
北陸地方合同の牛の競りでグランドチャンピオンに輝く牛を育てるなど、若狭牛の名生産者です。若狭牛は品質規格とても厳しく、脂肪交雑が密で、色鮮やかな霜降り、きめ細かく柔らかい肉質が特徴で、齋藤さんの手がける若狭牛も、全国各地の有名レストランの元にとどけられています。「両親が牧場の運営から始めて、僕で2代目です。21年前からは直営の生肉店と焼肉店も始めました」と齋藤さん。牧場では約250頭の黒毛和牛を育てています。

「生肉・焼き肉店をスタートした21年前は、ちょうど狂牛病のニュースが飛び交った頃。風評被害もあり、大打撃を受けましたが、逆に安心・安全なお肉を食べて欲しいと、気持ちが引き締まった出来事でもありました」と齋藤さんは笑います。生き物を相手にするため、365日24時間ずっと臨戦体制。でも「お客さんの喜ぶ顔が見えるから頑張れる」と言います。

若手の担い手不足や海外飼料の高騰、排泄物や排水による環境負荷軽減など、様々な課題を抱える日本の畜産業。その波は齋藤さんたちの牛舎にも及んでいると言います。
「飼料は以前と比べて1.8〜1.9倍まで高くなりました。同じ地区にたくさんあった畜産会社も、今は5社だけに。365日24時間の仕事だから、若手に繋ぐことも難しい。生産量が減っていることで、単価がどんどん高くなっていることから、日本人の和牛離れが進み、このままだと若狭牛がなくなってしまうのではという不安はあります」と齋藤さん。

しかし、悲観しているばかりではない。「今後は放牧肥育にもチャレンジしたいと思っています。地元の荒れた農地を活用して、赤身が美味しい牛を育てようと。ただ赤身だけで市場に勝負できるのか?という懸念もあるんですよね」と齋藤さん。

「確かに、今日本では脂のない赤身肉の評価軸がないのは確かですね。でも美味しい赤身肉を欲しがっている料理人は多いです」と薬師神シェフ。

牛肉にはA5、A4、B5といった等級があり、一般的にはA5牛肉が最もおいしいお肉だといわれます。ですが、この牛肉の等級、実はお肉の「味」は評価していません。可食部分が多く、脂肪の色沢と質、肉の色沢や締まり、きめが良く、脂肪が多く細かいかどうかで評価されています。つまりどうしてもサシ(脂)の入り方が評価に加わってしまうのです。「今、生産者の頑張りだけではどうにもならない限界点に来ているのかも」と岩澤シェフも続けます。

こういった課題は2件目に伺った養鶏・鶏卵工場でも上がりました。
伺ったのは、あわら市の北潟湖畔近くで養鶏を営む「黒川産業」。
2016年に福井のブランド鶏「福地鶏」の実証実験に参加し、2017年から正式に飼育をスタート。今では年間800羽の福地鶏を飼育し、卵とお肉を出荷しています。

鶏舎を案内してくれたのは黒川公美子さん。福地鶏推進協議会初代会長でもある、まさに福地鶏マスターです。

「黒川産業」の黒川公美子さん

福地鶏は県内農家13舎で飼育されていますが、生産者によって品質に差が出ないよう、「平飼い」と呼ばれる、広いスペースでストレスなく自由に動き回れる飼育方法が原則。また、外的ストレスがないよう、明るさも新聞がギリギリ読めるくらいに設定することが求められます。
黒川さんの鶏舎では、それらの原則に加えて、止まり木や産卵スペースを設けるなど、鶏たちが安心して産卵・休憩できるようにしているそうです。

黒川さんの営む鶏舎

また、餌は、抗生物質、抗菌剤を一切使用せず、安心・安全で栄養価の高い配合飼料を与えています。また、鶏たちの腸内環境を整えるため、近隣農家から譲り受けた旬の野菜を酢漬けにし、おやつ代わりに与えているそう。こうすることで鶏が病気にかかりにくく、健やかに育ち、黄身や白身が濃厚な質の良い卵を産むことができると話します。

「福地鶏」は卵もお肉も美味しい卵肉兼用種。黄身は一般の卵より大きく、箸でつまめるほど弾力。白身はプルプルでこちらも弾力性に富み、味も濃厚でうま味があるため、調味料をほとんど使用しなくてもおいしい卵料理に仕上げることができると評判だそう。肉は濃厚な旨味があり、しっかりとした肉質で、噛むほどに旨みが口に広がります。

「ただ、福井県内に鶏を捌ける食鳥施設がないこともあり、福地鶏を育てている養鶏会社のほとんどは、卵だけを出荷しています。卵をたくさん産んで弱ってしまった老鶏は殺処分されているのが現状です」と黒川さん。そんな状況をどうにかできないか…と、生後450日の段階で県外の食鳥施設まで持ち込み、お肉にしてもらっているそうです。

黒川さんが現在、注力しているのは“福地鶏の六次産業化”。プリンやシフォンケーキなどのお菓子、ウインナーやハムなどを開発。自社ホームページなどで販売しており、昨年にはキッチンカーも始めたと言います。

「ただ、自社鶏舎から持ち込む毎月280羽から取れるお肉は60キロ程度。ほぼ全量が、地元の道の駅の食堂のソースカツ丼になっています。県外の方の口に入るようになるには、まだまだ量が足りません(苦笑)」と黒川さん。

最近はオス鶏の食用化にも挑戦中。
通常孵化したヒヨコのオスメスの確率は1:1。大きくなると肉が赤く、臭いが強くなるオスは、有精卵用に数羽残してすぐに処分されることが多いそうですが、黒川さんは生後90〜100日まで飼育し、肉質がやわらかいうちに食肉にすることにチャレンジ。
「来月、食味会があるので、そこで味がクリアすれば、もっと福地鶏のお肉を食べていただけるようになります!」と話します。

「今困っているのは人が足りてないこと。やはり生き物なので、365日お世話が必須。鶏のことを一番に考えています。飼料もどんどん高くなっているし、課題も多いですが、福地鶏の卵や肉を一人でも多くの人に手に取ってもらえるように頑張ります」と話してくれました。

農家の高齢化、若者の農業への関心低下、飼料の高騰、安価な外国産品との競争…、様々な課題にぶつかっている日本の畜産業。生産者の方たちの絶え間ぬ努力のおかげで美味しい、お肉や卵をいただけていることに感謝しつつ、生産の場を支えるために私たち消費者一人ひとりにできることはなんだろう?と自問自答する時間でもありました。

続いて一行が訪れたのは、福井生まれのミディトマト「越のルビー(華小町)」を生産している「ゆみたか農園」。「私たちの農園では、ストレスなく植物がのびのび育つ栽培を心がけています」。そう話すのは齊藤かおりさんです。

「日本海が近いこともあり、蠣殻を使ったミネラルたっぷりの有機肥料を使うなど、土づくりにはかなりこだわっています」と齊藤さん。農薬はなるべく使わず、酵母菌や納豆菌などの“発酵”の力で土をふかふかにし、トマトがしっかりと根を張れる環境を作り、魚と醤油由来の改良肥料を与えることで、旨みのある果肉になると言います。「良い土だと樹が健康に育って、かつ虫や病気に強くなるんです」と齊藤さん。

齊藤かおりさんご夫妻と運営しているハウス

 「昨日まで雨が多かったので、少し味が薄まってしまって、私が思うベストな状態ではないですが…(苦笑)。ぜひ食べてみてください!」と、ハウスを案内してくれました。

まるで赤い宝石のような一粒を口の中に放り込むと、強い甘みと濃い旨みが口いっぱいに広がります。「皮がやわらかくて、水分量も多いですね。でもしっかりと甘みと旨みがあって、フルーツトマトみたい。青臭さやえぐみが全くない」とシェフたちも驚いていました。

「そう、青臭さがないからかトマト嫌いなお子さんもおやつ代わりにパクパク食べてくれるっていうお声もいただくんですよ」と笑う。「ただ、皮が薄くて柔らかいからこそ、輸送に弱くて。特に冬は輸送中に皮が割れてしまうこともあるんです。そういったものは冷凍してストックしています」と齊藤さん。

加工することも考えたが、福井県内に加工施設が少なく、まだ展開できてないという。
「じゃあ、トマト味噌はどうかな?トマトの形は関係ないし、これだけ美味しいトマトなら、めちゃくちゃ美味しいのができると思うよ。レシピがわからなかったら言って、教えてあげる!」と岩澤シェフ。なんと太っ腹なサポート!

「ありがとうございます!試してみたいです。加工ももちろんなのですが、ただ甘いだけじゃなくて、しっかりと“旨み”があるトマト作りが私たちの課題。いつどんな時期に食べても美味しい、そんなトマトを作って、もっといろんな方に食べていただきたいです。そのためにもスタッフを増やして、マルシェなどにも参加したいですね」と齊藤さん。

「どうしたらもっと美味しくなるか」生産者の飽くなき探究心が、私たち消費者に食の豊かさをもたらしてくれるのだと実感しました。

続いて訪れたのは、あわら市名産のさつまいも「とみつ金時」を作っている「フィールドワークス」。訪れた時期はちょうど収穫の最盛期でした。

「とみつ金時」とは福井県あわら市の富津(とみつ)地区で栽培されたさつまいものこと。日本海に面した富津は、赤土を含む山砂でできていて、その感触はしっとりサラサラ。さつまいもが育つには最高の風土で、そこで育った「とみつ金時」はしっとりホクホク!甘みと旨みのあるバランスの良いさつまいもになると言います。

「フィールドワークス」代表取締役の吉村智和さん

「富津地区のさつまいも農家は6軒、約30ヘクタールの広さで栽培しています。そのうち約13ヘクタールを私たちで栽培しています」。そう話すのは「フィールドワークス」代表取締役の吉村智和さん。

さつまいも農家の3代目で、25年前に就農後、会社の法人化や生産組合「エコフィールドとみつ」の結成などを進めてこられました。「その理由の一つに農業のイメージを変えたい!という思いがあります」と話します。

食料自給率の低下や後継者不足に伴う農地の荒廃、海外からの低コストの農産物の輸入など農業を取り巻く状況は厳しい情報ばかり。次の世代へと未来のある農業をどう引き継いでいくか、そのためにできることを一つひとつ取り組んでいると言います。

「一つは持続可能な経営と土づくりです。さつまいもの収穫時期は8月下旬から11月下旬ですが、私たちは収穫したさつまいもを“キュアリング”という貯蔵方法で長期保管し、収穫のない時期も安定して出荷することができるんです」と吉村さん。

キュアリング貯蔵の倉庫。キャリーには今秋収穫されたとみつ金時がぎっしりと詰まっている

「キュアリング貯蔵」は、土付きのとみつ金時を35℃、湿度95%以上の室内に約90時間置き、その後、一気に12℃まで温度を下げて湿度を85%にして保存。徹底した温湿度管理で表面をコルク化することで、最適な水分量を含ませたまま、長期間美味しい状態を維持できる貯蔵方法だと言います。「さつまいもを35℃以降で保管すると、デンプンが糖に変わりやすいという特性もあって、おいしさをアップするという点でも良いんですよ」と吉村さん。

土づくりの面でも、なるべく化学肥料を減らし、環境に配した農法で土づくりを行っているそう。「畑を休めるために2〜3年に1度、豆科の植物を植えて定期的に土壌を蘇らせています。こっちには向日葵を植えているんですよ。」と、工場の裏側に連れて行ってくれました。

建物を出た瞬間、そこには素敵なパノラマビューが広がっていました。感激の声をあげる一行に、「風力発電の風車と相まっていい感じでしょう?(笑)」と吉村さんも嬉しそうだ。
「農業ってしんどい・つらい・暗いイメージが大きいですけど、新しい発想と可能性を見出せたら、次の世代に夢のある職業として繋いでいけると思うんです」と話します。

また、重労働の軽減のために作業の機械化、効率化をあげるための設備投資も進めている。「働き方改革も進めています。季節労働ではなく正社員をしっかり雇用して、週1日は必ず休むようにしてからは、若い人の離職も減ったんです。目下の目標は自然エネルギーが見える農業をすること。バイオマス発電や洋上風車など、自然豊かなロケーションに付加価値をつけていけたら」と話します。

「30年後に約8割の農家が減り、食材を選べなくなる時代に突入すると言われています。私たち農家だけでなく、シェフや飲食店の皆さんとも、交流や意見交換ができると嬉しい」と、吉村さんが案内してくれたのは、フィールドワークスの研修棟。

なんと、サンビーフ齋藤牧場の齋藤さんや黒川産業の黒川さん、ゆみたか農園の齊藤さんをはじめ、「坂井あわらASC」の皆さん総勢10名が、ご自身の食材を使ったお料理を作って待っていてくださっていました!

一人ずつの自己紹介の後に、作ってくださったお料理をワイワイといただきます。

「フィールドワークス」吉村智和さんのとみつ金時は炭火でじっくり焼いて
「朝倉梨栗園」朝倉雪さんのぶどうは獲れたてをそのまま(シャインマスカット・クイーンニーナ)
「黒川産業」黒川公美子さんの福地鶏の卵はデザートのプリンに。加工品のハムやソーセージもテーブルに並んだ
「ゆみたか農園」齊藤かおりさんの越のルビーは、シンプルにそのままでいただくのと、少しオリーブオイルをかけて味に変化をつけて
「グリーンファームすみや」斎藤貴さんのれんこんは、カリカリのチップスに。ついつい手が止まらないおいしさ
残念ながら参加できなかった野菜農家・麻王伝兵衛さんからは、リーフとズッキーニがテーブルに届けられました
「みやざき農園」宮嵜恵介さんの米はシンプルにおむすびに。ミルキークイーン・コシヒカリ・いちほまれ・あきさかりの4種を食べ比べ
「サンビーフ齋藤牧場」齋藤力さんの「若狭牛」はローストビーフと炭火焼きBBQに

「じゃあ、最初にお米を食べ比べてみよう。おおっ、こっちは甘みが強いね。こっちはとっても上品!一緒に食べ比べると、味の違いが顕著にわかって面白いですね」「このレンコンは生ですか?シャキシャキで美味しいですね。火を通すともちっと食感になって、また美味しい」など、話も弾みます。

「焼き場は私たちに任せてください!」とシェフ3人も調理に加わります。

なんとも贅沢な坂井あわらASCランチ

食材を作られた方たちにお話を聞きながらのランチタイムは、なんとも贅沢で素晴らしいひとときになりました。

デザートに「新興梨」と「あきづき(梨)」も
「坂井あわらASC」のみなさんと

現在、「坂井あわらASC」では、“農産物で地域を盛り上げ、笑顔で農業をしよう”と活動中。2020年からは坂井市・あわら市のふるさと納税の共同返礼品として、メンバーの生産物を詰め合わせた定期便を出品しています。農産物の集荷を率先して担っている会長の齋藤さんは「商品を集荷は時間の調整などで大変ですが、皆の顔を見られるし、そのメンバーの作るおいしいものを全国の人に届けられることが嬉しい」と話します。

食べてもらう人のために、地域のために、そしてこれからの農業のために…。
日々、切磋琢磨する生産者チームの逞しさに、一次産業の明るい未来を感じることができました。

そして、一行はフィールドワーク最後の訪問先へ。
「上庄(かみしょう)さといも」の生産者・印牧(かねまき)富士夫さんの園地に向かいます。

「上庄さといも」の生産者・印牧(かねまき)富士夫さん

福井県東部の大野市、勝山市にまたがる奥越の上庄地区で生産される「上庄さといも」は全国区の人気を誇るブランド食材です。印牧さんは、9代続く「上庄さといも」農家で、JA出荷量上位に毎年入る屈指の生産者です。

「標高150メートルにある上庄地区は、大野盆地特有の夏場の気温差が大きく、さといもにしっかりデンプンが蓄積される好条件。黒ボク土壌を含む水はけの良い扇状地なので、他の地域のさといもに比べて、肉質が固く煮崩れしにくく、もちもちとした食感が特徴です」と印牧さん。

「実際に収穫してみますか?」との印牧さんの声かけに、岩澤シェフが挑戦!

掘り起こした上庄さといもの塊を、印牧さん特製の工具の上に打ち落として、親芋・子芋・孫芋に分けます。「おお、結構重いですね。よいしょ!」どさどさっという音と共に、子芋と孫芋が転がります。「小さいやつは薄皮をつけたまま炊いて、煮っ転がしにすると美味しいよ。今日も作っているから食べていって」と印牧さん。お言葉に甘えて、みんなで味見させていただきました。

収穫した上庄さといも

「今日は、上庄さといものコロ煮(煮っ転がし)と、のっぺい汁にしました。さぁどんどん食べて!」と印牧さん。

煮っ転がしは薄皮をつけたまま、お醤油と酒、砂糖でシンプルに味付け。ツヤツヤてりてりしていて、とても美味しそう。一口齧ると、そのもちもちとした食感に驚きました。「これは食べたことがないもちもち食感!甘塩っぱい味付けでご飯にもお酒にも合いそう!」との声が上がります。

お揚げと糸蒟蒻、人参と一緒に煮込んだのっぺい汁

「のっぺい汁」は福井の郷土料理。ぬるぬるを意味する「ぬっぺい」が訛って「のっぺい汁」と呼ばれるようになったと言われています。さといもを煮込むことで引き出されたとろみのあるお出汁が、お腹にじんわりと沁み込みます。

みんなでワイワイと試食をさせていただいていると、富士夫さんのお母さんが筵に子芋を広げていました。「今日はどこから来られたの?あら東京?それは遠いところからようこそいらしたね」とコロコロ笑いながら、作業を進めます。

「洗った芋はこうやって晴れた日に2〜3日乾かすの。よかったら持って帰ってお店で食べてみて。保存する前に表面をしっかり乾かさないと腐っちゃうからね」と話します。

全国各地から引き合いも多く、印牧さんのつくる「上庄さといも」は毎年予約で完売するほどの人気。しかし、そんなに人気なさといもであっても、生産農家の減少に伴って年々出荷量が減っているといいます。

「国や県の指導で農地集積が進められ、多くの個人農家が離農しました。農家の高齢化も加わり、農業の担い手不足が問題となっています」と印牧さん。また、「上庄さといも」の“上庄の地で上庄さといも生産者が生産したさといも”という定義と、14段階に及ぶ規格の設定もあり、誰でも生産・出荷できるものではないそう。

「加えて、連作障害をさけるため、一度収穫した畑は次の作付けまで4〜5年空ける必要があるんです。栽培にも手間がかかることから出荷量を簡単には増やせないんですよ」と印牧さん。それゆえに全国に出回ることは少なく、福井県内でほぼ消費されていると言います。

ワンクリックで全国各地の美味しいものが手に入るようになった現代。
そんな時代だからこそ、現地を訪れて、この美しい風景、温かい人々とふれあって欲しい。
そこで食べる上庄さといもの味は、きっと格別なはずです。

最後に、3名のシェフ今回のフィールドワークの感想をお聞きしました。

岩澤さん:
本当に福井は恵まれている土地だと感じました。「羨ましいな」というのが本音(笑)。と同時に、福井県民の思想・考え方に感動しました。大量栽培・大量出荷ではなく、県内での需要と供給のバランスがしっかり取れていて、余剰分を県外に出荷する形は、農業の理想じゃないでしょうか。このフィールドワーク中、自分たちシェフが地域のために何ができるのか…と思いながら過ごしていました。今後、その土地でしかできないこと、味わえないものの価値を高めていけるような活動をしていきたい、ぼんやりとした展望ですが(笑)。日本の価値を磨くお手伝いができたら嬉しいです。

奥野さん:
地域ベースでサステナブルなことに取り組んでいて、とても素晴らしいです。また、コミュニティで生産者同士が繋がっていて、いろんなことを自分たちで楽しく作っているのは、とても新しいなと感じました。食材ももちろん美味しくて、この魅力を伝えていくだけでなく、生き方・働き方も考えられたらなと。変えていかなければならないこと、守っていかなければならないものを、生産の現場に行って知れたことは、とても勉強になりました。僕のお店の若い子や、子供たちもこういう活動に参加させてあげたいなと感じました。これからもぜひお手伝いできると嬉しいです。

薬師神さん:
生産者の皆さんとの交流会がとても印象的でした。生産の現場を見ることももちろん大切なのですが、しっかりと対話する時間も大切ですね。ご夫婦で参加されている農家さんも多く、男だけの仕事でなく、お二人で、家族で支えられて農作物ができていることを肌で感じました。福井県は来年には北陸新幹線も開通して、さらに流通が良くなると思いますが、今まで流通が良くなかったからこそクオリティ高く守られてきた文化も多い。今回のフィールドワークで、今のままでも十分通用するものがたくさんあるなと実感しました。“田舎あるある”でプレゼン下手な生産者の方も多いかと思いますが、上手に東京のシェフたちを巻き込んで、青山と銀座にある福井の物産館で色々と発信できるといいですね。次は東京で交流会をしましょう。

一人ひとりが「食」と向き合い、真に食べる楽しみを知り、循環する対話からひとりひとりの幸せの尺度を見つめるきっかけづくりを生み出していきたい。そんな想いで再始動した「EAT&LEADプロジェクト」。“LEAD(リード)”には、“先導”や“伴走”するという意味合いがあります。丸の内を飛び出して各地を巡り、つくり手・使い手・食べ手の3者が深く関わり、より豊かな明日を創造する大切さを再認識した3日間でした。

 

3日目の食のフィールドワークで出会った人たち

・サンビーフ齋藤牧場(若狭牛)
ASC会長 齋藤力さん
https://ushiwakamaru-fukui.jp/farm/

・黒川産業(福地鶏)
黒川公美子さん
https://www.kurotama.jp/

・ゆみたか農園(越のルビー)
齊藤かおりさん
https://yumitakanoen.base.shop/

・フィールドワークス(とみつ金時)
代表取締役 吉村智和さん・みゆきさん
https://www.fw-tomitsu.com/

・朝倉梨栗園(梨・栗・ぶどう)
朝倉雪さん
https://asakuraya.com/

・株式会社みやざき農園(米)
宮嵜恵介さん
https://miyazakifarm.jp/

・グリーンファームすみや(れんこん・米・味噌)
斎藤貴さん・翔子さん
https://gfsumiya.com/

・上庄さといも 生産者
印牧富士夫さん

※このフィールドワークは2023年10月中旬に実施されました。

 

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