1. EAT&LEAD
  2. 食のFIELD WORK
  3. 〈食のFIELD WORK in 愛媛〉 レポート2日目・西予市編

SHARE

  • X
  • Facebook

〈食のFIELD WORK in 愛媛〉
レポート2日目・西予市編

「美味しさの本質」ってなんだろう…

その答えは産地(ローカル)にありました。

都心を飛び出し、シェフと巡った3日間。

〜風景・人・想いを感じる、EAT&LEAD食のチーム〜

<2日目・西予市編>

一人ひとりが「食」と向き合い、真に食べる楽しみを知るために必要なことはなんでしょうか?
「EAT&LEAD」として再始動して、約1年。その答えは産地にあるのでは…そう感じた私たちは、4名のシェフとともに産地を巡るフィールドワークを行いました。
ツアーの最終日には、今回のフィールドワークで出会った食材をシェフが即興でコースに仕立て、生産者の方々と共にいただきます。

私たちの身体を構成する「食」がどのように生まれ、どのように育てられているのか。
全国各地の生産者と深くつながり、その魅力を丁寧に伝える食の探求者であり、
伝道師であるシェフとのフィールドワークは、私たち消費者はもちろん、
産地の人たちにも新しい視点を与えてくれるはずです。

今回の旅先
愛媛県 北宇和郡松野町・西予市

●一緒に巡ったシェフの皆さん
・アンティカ・オステリア・デル・ポンテ ステファノ ダル モーロさん
・FARO 加藤 峰子さん
・Cheval de Hyotan 川副 藍さん
・PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO 岩澤 正和さん


【 2日目 】

2日目の訪問地は愛媛県・西予市。
愛媛県南部に位置する、豊かな緑に覆われた美しい山々と、青く、深く広がる海。
広大な大地の中で、多彩な自然を持ち合わせています。

最初に伺ったのは西予市明浜町。
東西に長いリアス式海岸が特徴的で、宇和海に面する南斜面では柑橘栽培が盛んです。
1件目に訪れたのは「地域協同組合 無茶々園(むちゃちゃえん)」


山の斜面にずらりと並ぶのは、ほとんどが柑橘畑

約50年前、みかんの有機栽培を目指してたった3名からスタートし、現在は、地域協同組合として環境破壊を伴わない、健康で安全な食べ物の生産を通して、真のエコロジカルライフを求め、町づくりを目指しています。

可愛らしいオレンジのパッケージのジュースや化粧品ブランド「yaetoco(ヤエトコ)」は、都内のショップでも多数取り扱われている人気商品なので、ご覧になったことがある方も多いはず。


無茶々園が展開するオリジナルブランド(柑橘加工品等)の一部


無茶々園 事務局の高瀬英明さん

今回、一行を案内してくれたのは、無茶々園・事務局の高瀬英明さん・西田卓郎さん 、農家の齋藤満天さんのお三方。

入り組んだ海岸沿いに車を走らせ、無茶々園の農地が7割を占める明浜町狩浜地区へ。
急峻な斜面にある段々畑で、早生みかんとレモンを収穫させていただきながら、話を聞きました。

「無茶々園では、栽培期間中に除草剤や化学肥料を使用せず、農薬をできるだけ使わない柑橘類の生産・販売を中心に活動しています。今では明浜で60軒以上のみかん農家が、無茶々園の旗印の下、環境への負荷が少ないみかん栽培に取り組んでいます」と話すのは事務局の高瀬さん。

高齢化・離農の急速化が危ぶまれている柑橘農業界ですが、無茶々園では積極的に新規就農者を受け入れ、事務局の職員も4割が移住者だそう。


収穫方法をレクチャーしてくれた農家の齋藤さん

しかし、新規就農者が独立農家として生計を立てていくのは容易ではなく、夢半ばで諦めてしまう若者も少なくはありません。そんな経験から、新規就農者も給料制で働くことができる仕組みづくりにも取り組んでいるそう。

収穫したての早生みかんの皮を剥くと、なんとも爽やかな香りがふわり。一房口に放り込むと、濃い甘みと酸味が口いっぱいに広がります。ついつい2個、3個と手を伸ばしてしまいそうな美味しさでした。

生産者が日々、品質を高めて美味しいものをつくる努力をしても、それが金銭面で報われない現状は全国各地で見られます。それをどう販売し、売上に繋げていくのか。無茶々園の取り組みを聞き、届ける仕組みづくりとサポートの大切さについて再認識させられました。

また、無茶々園の取り組みは柑橘だけにとどまらないと言います。
「山と海がつながるこの地域では、山と海それぞれの生産者が環境保全活動に取り組むことが重要なんです。その取り組みを、次は海側でご案内しますね」と高瀬さん。一行は山を降り、海岸線へと向かいます。

訪れたのは、しらす・ちりめん漁や加工を行う「網元・祇園丸」。こちらも無茶々園に属している生産者です。

「無茶々園では、“海づくりは山づくり”という考え方。大地から豊富な栄養分が流れて来なければ海は豊かになりません。また、山畑と海が隣り合うこの地では、山で農薬や化学肥料を使えばすぐに海に流れていきます。柑橘の有機栽培は、地域の川や海を守ることにつながるんです」と高瀬さん。

「山から海に流れ出す水には微生物が多く含まれるので、プランクトンが大量に発生して貝や小魚を育みます。加えて、海の底には珪藻類が育ち、光合成によって酸素を発生させて海を浄化してくれるんですよ」と話すのは、ちりめん漁師の佐藤哲三郎さん。
「うちは本当に安全で美味しいものを届けたいから、無添加・無漂白・天日干しです。今干しているのは、今朝水揚げしたシラスです。ぜひつまんで行ってください」と佐藤さん。

お天道様と潮風で自然乾燥されたシラスは、ふわっとした食感とほのかな塩味と磯の香り、そして甘みと旨みが後から追いかけてきます。

「これは今晩のリゾットに使いたい!」とステファノシェフも、早速お持ち帰り。


朝、水揚げされたばかりのしらすを釜揚げして、すぐ天日干しに。選別される前のシラスには、タツノオトシゴやイカなど、シラス以外の海の生き物がちらほら。

このほかにも、無茶々園では真珠の養殖・販売も行っていますが、2020年に愛媛の真珠業界にショッキングな事件が起こります。真珠をつくるアコヤガイの母貝が大量死し、新型コロナウイルスの影響で流通もストップ。真珠産業は過去最大の危機を迎えました。そんななか、新しくスジアオノリの陸上養殖に取り組み始めたそう。

一行は「網元・祇園丸」から数百メートルのところにある「佐藤真珠」へ向かいます。
工場の庭には、大きな水槽が幾つも置かれ、中では生育中のスジアオノリがふわふわと漂っていました。


水槽に浮かぶスジアオノリ

「2020年にアオノリ栽培を研究している高知大学と共同研究契約を締結して、栽培をスタートしました」と話すのは「佐藤真珠」の佐藤和文さん。目の前の海から地下海水を汲み上げ、陸上のプールでアオノリを育てています。


「佐藤真珠」の佐藤和文さん

「アオノリの成長に必要なものは海水と太陽の光。明浜の綺麗な海と穏やかな気候はアオノリの生育にピッタリなんです。培養室でアオノリの種が5ミリくらいに成長したら、外の水槽に出して約1ヶ月、太陽の光で育てます。順調にいけば1週間で10倍に育ちますよ」と話します。収穫後は脱水して乾燥させ、パック詰めして、消費者の元へ。

アオノリの中で最も香りが高く美味しいとされるスジアオノリ。天然物は四国高知県の四万十川や徳島県の吉野川の下流で採れますが、近年は温暖化の影響で収穫量が激減しているといいます。安定して量を生産できる陸上養殖は、安全管理の面からも利点が多いと言います。

気候変動や災害の影響をダイレクトに受ける一次産業。

無茶々の里では、2020年のアコヤガイの母貝が大量死だけでなく、2018年の西日本豪雨災害でも甚大な被害を受けました。長年育ててきた柑橘の木はもちろん、収穫に必要なモノレールもが土砂とともに流されたと言います。

しかし、そんな中でも歩みを止めることなく、自然と向き合い、地域の未来を考え、全力を注ぐ無茶々の里の生産者の方々の逞しさを実感しました。

無茶々の里を出ると、時間はちょうどお昼時。
一行は西予市の宇和盆地エリアに向かいます。

お昼ご飯の会場はなんと、畑のど真ん中。
西予市長の管家一夫さんと、西予市の生産者の皆さんともにテーブルを囲みます。
青空の下、大きなロングテープルでいただくのは、西予市の食材をたっぷり使った特製のお弁当。

お弁当を作ってくださったのは、西予市出身の料理家・ノガミサヤカさん。
新米と栗の炊き込みご飯に、先ほど伺った無茶々園のゆずや銀杏、しらすなど、西予市の秋の味覚をギュギュッと詰め込んだお弁当は目にも美しく、滋味溢れる美味しさです。


お弁当について説明するノガミサヤカさん


西予市長の管家一夫さん

ひとしきり会話とお弁当を堪能した後は、「株式会社ゆうぼく」の自社牧場で蓄養をしている“はなが牛”ステーキをいただきながら、西予市の生産者の方々にご自身の事業についてお話しいただきました。

はなが牛のステーキはBBQグリルでじっくり焼いて


株式会社 ゆうぼく 代表の岡崎晋也さん(紹介は後述)


田力本願(お米・甘酒・粕漬け) 中野聡さん
田力本願は米どころである西予市宇和町のお米をブランド化した「田力米(たりきまい)」を生産・販売する農家集団。みかんジュース搾りかすのほとんどは、産業廃棄物として処分される現状から、それらを利用したオリジナル有機肥料(みかんボカシ)を開発。愛媛ならでは循環型の栽培方法により、豊富なミネラルが供給されるうえ、酵母菌や乳酸菌などの働きによって稲の根張りが良くなり、美味しいお米づくりにつながるそう。


無茶々園 藤森美佳さん(紹介は前述)


食後は無茶々園の100%柑橘ジュースをごくり

続いて一行は、フィールドワーク最後の訪問先「ゆうぼく」の自社牧場へ。
「“牛たちが口にしたものは巡り巡って自分たちの体に入ってくる”という想いのもと、成長促進剤や抗生物質を与えず、できるだけ自然のまま育つ肥育を実践しています。現在肥育している牛は約600頭」と話すのは代表の岡崎晋也さん。


株式会社ゆうぼく 代表の岡崎晋也さん

自社牧場での牛や豚の肥育だけにとどまらず、自ら精肉や加工品を自社の精肉店で販売。
精肉は1ヶ月ほど熟成させて肉の旨みを引き出してから提供。A5ランクに代表される霜降りの入ったお肉ではなく、噛み締めるほどに肉のおいしさが溢れるような、赤身とサシのバランスが良い肉質のものを提供しています。食肉加工に関しても発色剤や化学調味料、保存料などの添加物を使わず、“身体をつくるものだから、安全なものを”という姿勢は変わらないといいます。


人懐っこいジャージー牛の雄牛。大きくなりづらいため市場価値が低く、子牛の段階で殺処分されることが多いが、ゆうぼくではしっかり大きくなるまで育てている

「牛肉の味は育った環境や食べる餌で大きく変わるので、スペースを広めにし、ゆったりと育てています。餌は自社独自のブレンド飼料を与えています」と岡崎さん。

一般的な牧場では、餌は飼料メーカーが配合したものを使用していますが、抗生物質等が含まれていることが多いそう。そういった背景から、ゆうぼくでは餌は自社配合。原材料に取り入れたのは、米どころである地元・西予市のお米や稲ワラ、麦ワラだといいます。地元米を与えることにより、肉質や旨み成分が向上。地元の米農家にもしっかりと利益が出て、畜産も助かる地域サイクルをつくっています。また、牛堆肥は地元農家に還元することで地域内循環型農業を実現しています。


牧場内にある糞の攪拌機械。処理加工時の発酵により70度の高温になり、その熱で菌は死滅してしまうそう

若手の担い手不足や海外飼料の高騰、排泄物や排水による環境負荷軽減など、様々な課題を抱える日本の畜産業。地域の農家と協力しつつ、循環型の畜産農業を実現する岡崎さんたちの試みを拝見し、畜産業の明るい未来を感じることができました。

そしてシェフ一行は、宿泊先のロッジに戻り、「AROUND A TABLE」の準備に。
今回のフィールドワークで出会った食材を使用し、その日限りのスペシャルなコース料理を作ります。

>>食のFIELD WORK_旅のレポート3日目へ続く
https://shokumaru.jp/fieldwork2022_ehime3/


<2日目のフィールドワークで巡ったつくり手さんたち>

  • 西予市

・無茶々園(柑橘)
高瀬英明さん・藤森美佳さん・西田卓郎さん / 農家 齋藤満天さん
https://www.muchachaen.jp/

・網元 祇園丸(ちりめん)
佐藤哲三郎さん
https://gionmaru.com/

・佐藤真珠株式会社(すじ青のり)
佐藤和文さん
http://sato-shinju.com/

・ノガミサヤカさん@Nu(西予市の食材を使ったお昼ご飯)

・田力本願(お米・甘酒・粕漬け)
中野聡さん
https://tariki-hongan.jp/

・ゆうぼく(はなが牛)
岡崎晋也さん
https://yuboku.jp/

●泊まったところ
森の国 水際のロッジ
https://morino-kuni.com/riverside-lodge/


>>9月26日(火)開催
愛媛を旅したシェフたちによるスペシャルレストラン
「POP UP RESTAURANT 愛媛」
参加募集中!詳しくはこちらへ

https://shokumaru.jp/popup2023_ehime/


※撮影の際のみ、マスクを外していただいております。
※このフィールドワークは2022年11月下旬に実施されました。

PAGETOP