1. EAT&LEAD
  2. 丸の内シェフズクラブ
  3. シェフと一緒に食材探し 渡邉シェフと行く千葉の野菜

SHARE

  • X
  • Facebook

シェフと一緒に食材探し 渡邉シェフと行く千葉の野菜

「渡邉シェフは、千葉県『ほのぼの芦田農園』の野菜に注目! 第4回担当シェフ 渡邉明さん(PASTA HOUSE AWkitchen TOKYO オーナーシェフ)

 「農園バーニャカウダ」をはじめ、野菜そのものの味をダイレクトに味わえるメニューが人気の「AWキッチン」。オーナーシェフの渡邉明さんは、生産者とのコミュニケーションを何より大切にしている。
「僕は、埼玉県所沢市の畑のド真ん中で育ちました。幼い頃から狭山湖周辺の新鮮な地元食材に触れていたことが、料理人として成長できた大きな要素のひとつだと思っています」と渡邉さん。
現在も多くの時間を畑や漁港、牧場などで過ごすというが、いったい渡邉さんは生産者とどのように向き合い、畑で何を感じているのだろう?
今回は、渡邉さんが足繁く通う畑のひとつである、千葉県白井市の『ほのぼの芦田農園』に同行させていただいた。

都心から車で約1時間。そこは野菜の宝庫だった。

 『ほのぼの芦田農園』は、常磐高速道柏インターから千葉方面に車を30分ほど走らせた白井市というところにある。畑に到着するなり、まず驚いたのが自然環境の素晴らしさ。丸の内から車で1時間ほどの場所でありながら、都心とは空気も時間の流れ方もちがう、緑豊かなところだ。

芦田さんの畑近辺は緑溢れるいいところ(左)、とても都心から1時間の場所とは思えない(右)。

『ほのぼの芦田農園』は先祖代々農業を営んでおり、現在は芦田貴裕さんとそのご両親が畑を切り盛りしている。渡邉さんが芦田さんと知り合ったのは約2年半前。「本当に偶然の出会いでした」と渡邉さんは語る。
「柏に新しいお店をオープンさせるため、地元の生産者を探していたら、たまたま白井駅で野菜の直売をしているのを見かけたんです。無農薬・減農薬ということだったので、とりあえず買って食べてみたところ、それが本当に美味しかった。また、野菜の種類の多さにも驚いて、これは一度畑に行ってみるしかないと。それが芦田農園さんだったんです」

芦田さん宅の屋根にはぶどうがたわわに実る(左)、ぶどうのすぐ近くで柿も発見(右)。

そんな渡邉さんの言葉通り、芦田さんの畑にはトマト、ナス、オクラ、ピーマン、ゴーヤ… などなど、この時期収穫できるものだけでも相当数の野菜が実っていた。また、”トマト”といっても、桃太郎トマト、トマトベリー、イタリアントマト、チョコちゃん(チョコレート色に近いトマト)など、品種は実にさまざま。年間を通して150種類もの野菜を生産しているという。さらに、芦田さんは常に新しい挑戦にも余念がない。
「今年は、ピッコロカナリアという品種のトマトを植えました。初めてだったので不安はありましたが、実がなってくれたときは本当に嬉しかったですね。ただ、うちのトマトは露地栽培なので、例えば雨に当たっただけでも皮が割れてしまい商売にならない(笑)。まだまだ油断はできません!」と芦田さん。

マーボーナスという品種。その名の通り麻婆ナスにすると旨い(左)、ゴーヤを嬉しそうに手に取る芦田貴裕さん(中)、「マッチャン」という韓国かぼちゃ。「しゃぶしゃぶにすると美味しい」(右)。

ほとんど酸味がないミニトマト、その名も「チョコちゃん」(左)、「ピッコロカナリア」は、甘みが強いオレンジ色のミニトマト(右)

渡邉さんはそんな芦田さんのことを「志が高く、頑張っている農家さん」と評する。それは、畑のところどころから伺い知ることができた。
例えば、芦田さんは7〜8月に空いている畑にソルゴーというイネ科の1年草を植えているが、これは収穫のためではなく、緑肥(植物の葉や茎を田畑にすきこんで腐食させ肥料とするもの)としてである。また、堆肥も野菜くずを使って作っていたりと、自然のサイクルを大切にしている

イネ科の「ソルゴー」は畑の土作り用(左)、野菜クズは畑に放置して土に還す(中)、「堆肥の中は温かいんですよ」と芦田さん(右)

「食材を選ぶ決め手は人。絶対に人です」

渡邉さんが紹介した九角形のオクラについて意見交換

『AWキッチン』は現在、『ほのぼの芦田農園』をはじめ青森や茨城、四国など、全国各地の畑から野菜を仕入れている。渡邉さんが食材を選ぶ「決め手」は何なのだろう?
「全国には、凄くプライドを持って野菜を育てている農家さんがたくさんいらっしゃいます。それは、大切に野菜を育てているから生まれるもので、もちろん料理人もその気持ちは同じ。ただ、農家さんも料理人も、食べてくださるお客様がいればこそ。だから、農家さんと料理人が『お客様に喜んでいただく』という同じ目的に向かって力を合わせることが大切で、そのためには、どんなに素晴らしい食材を作っていても『嫌だったら使わなくてもいいよ!』みたいな人とは仕事はできない。いちばんの決め手は、やっぱり”人”ですね」と渡邉さん。

食材よりも、畑そのものに注目

芦田さんの話をメモする渡邉さん

『ほのぼの芦田農園』では、今年から新たな品種のオクラを育てているのだが、そのオクラについて芦田さんがこんなことを語っていた。
「『こういうオクラがあるよ!』って渡邉さんが教えてくれて、『じゃあ育ててみよう』とあちらこちらで種を探したんですが、でも、見つからなかった。今年ついに見つかって、2年越しでようやく苗を植えることができました」
渡邉さんは、畑で芦田さんの話に熱心に耳を傾け、ノートにメモを取る。その後、ひとり畑に残って何かをチェックし、時折、携帯で誰かに電話をかける姿が印象的だった。

お互いを高め合う、1本筋の通ったいい関係

真剣な眼差しでひとり畑の状況をチェック

「僕の場合は、食材というより畑の状況を見るんです。普段から足を運んでいれば、今の時期どんな食材が収穫できるかは、畑を見ずともだいたい分かります。でも、畑の状況ばかりは実際に来てみないと分からない。畑って2週間も経つとガラッと様子が変わりますから。どの野菜がどれぐらい育っているか?また、次にどんな野菜を、どこに植えたいと芦田さんが考えているのか?それを畑で把握したうえで、『じゃあ、今うちが何を仕入れれば畑のロスを少なくできるか?』ということをチェックしているんです」
渡邉さんと芦田さんは、お互いその道のプロ。プライドや譲れない部分もあるにちがいない。でも、お二人は「料理人」と「生産者」という以前に「人」と「人」として向き合い、言葉ではなく行動でお互いを思いやっている。そしてそれが、お互いのモチベーションの向上にも繋がっている。

PAGETOP