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EAT&LEADトークサロン第6回「食の価値観から見える未来予測」 JULIA Executive Chef naoさん×アーティスト・food creation主宰 諏訪綾子さん

感性を揺さぶる一皿を生み出す「料理人」の創造力、共創力、ロジカル思考に着目したプログラム「EAT&LEADトークサロン-食べることから学ぶ、生きる力-」。ファシリテーターを務めるシェフの薬師神陸さんとともに2名のゲストがパネルトークを繰り広げ、「食」を通じて、新たな価値観や明日を切り開くアイデアと出会える一夜限りのイベントです。2022 年度の Season2 最終回、1月24日(火)に開催された第6回は「食の価値観から見える未来予測―食を通じて五感を呼び覚ます」というテーマのもと、naoさん(JULIA Executive Chef)と諏訪綾子さん(アーティスト・food creation主宰)をゲストに迎え、食の未来を見つめるトークが展開されました。

>>当日のパネルトークの様子は、動画にてご視聴いただけます!
●ダイジェスト動画
https://youtu.be/vhkz3pfFSTk

新たな価値観、気づきと出会える場「EAT&LEADトークサロン」

「EAT&LEADトークサロン」は、22年度開催した回は2部構成で行っています。

前半はファシリテーター・薬師神陸シェフと2名のゲストによる、ビジネスや生きることそのものへのヒントにつながるパネルトーク。後半はゲストや参加者が一体となって、それぞれの思考とひとりひとりの気づきをシェアする共創型のワークショップを実施します。

しかし、今回のトークサロンは少しだけ特別仕様。
イベント冒頭に、ゲストの諏訪綾子さんの提案による「マインドフルネスイーティング」と題した、小さな「食体験」を行いました。これは、普段私たちがいかに情報に頼って食べているのかを感じていただくためのワークです。

参加者は目隠しをして、手に持ったスプーンにのせられた食べ物を口に運びます。

全員があじわった後で、ひとりずつ感想を聞いてみれば「美味しいけど、何を食べているのかわからない」「過去に自分が食べたものの記憶をたどって、何のあじか考えてみた」「ゆっくりあじわっているうちに、味わいが2回も3回も変化していった」「色に例えるならベージュ」「草原の中にいるような感覚になった」など、さまざまな声があがりました。中には、「食に携わる仕事をしているのに、あじわいを言い当てられなくて悔しい」という人も。

視覚からの情報を遮断しただけで、何を食べているのかわからなくなってしまうのが不思議に思えますが、この食体験を通じて、いつも私たちがものを食べるときは味覚だけでなく、香り、触感、そして視覚まで、五感を使ってあじわっていることがよくわかります。目を閉じ、感覚を研ぎ澄ましてただあじわうことだけに集中する、少し非日常的な時間を味わえました。

食体験の後は、ファシリテーター・薬師神さんとゲスト2名の自己紹介を経て、トークセッションが始まりました。

【ファシリテーター】薬師神陸さんの自己紹介

虎ノ門ヒルズに「unis」というレストランを構えてから2年1カ月ほど経ちました。週4日間・ディナーのみ、全8席を1日2回転という形で営業しています。「unis」の向かい側にはキッチンラボと呼んでいる、若手シェフたちにお貸出しするシェアキッチンがあります。キッチンラボには、和食から中国料理、バーテンダー、ソムリエ、パン職人まで、多種多様なシェフたちが集まってきていますので、料理ジャンルの枠を超えて意見交換したり、業態開発や商品開発などに取り組んだり、このコミュニティから新たなものを生み出していきたいという思いで2年間走り続けてきました。
https://unis-anniversary.com/

【ゲスト】naoさんの自己紹介

外苑前で、公私ともにパートナーのソムリエ・本橋と2人で「JULIA」というレストランをやっています。カウンター10席、1日1回転のお店で、メニューは10~12皿とぺアリングのコースのみ。すべて国産食材を使用し、国産ワインを提供しています。お店以外にも、ときには有名ブランドのペアリングディナーイベントにシェフとして参加したり、料理学校の講師に呼んでいただいて、料理のテクニックから女性料理人ならではの仕事との向き合い方までお話しする機会もあります。また、私が仕事をする上でなによりも大切にしているのは、生産者さんとのつながりです。各地の生産者さんと直接つながって“語れる食材”を増やし、生産者さんの想いもお皿にのせて料理できるように、お休みの度に日本全国をめぐっています。
https://www.juliahospitalitygroup.com/

【ゲスト】諏訪綾子さんの自己紹介

私は、15年ほど前から「フードアーティスト」として活動しています。数年前には山梨県の水源地である山深い森の中にアトリエを移しました。たとえば昨秋、石川県白山市で行ったプロジェクトは、林業、シェフ、料理旅館、蒸溜所、木工作家など、様々な地元の方たちと一緒につくり上げた3日限りの“森の中のレストラン”。ゲストのドレスコードは長靴、お出迎えは軽トラ、メニューは「100年に一度のテイスト」で、これからの時代の新しいラグジュアリー、豊かさをあじわっていただく体験をクリエイションしました。表現手法は毎回異なりますが、「あじわう」という五感での体験を通じて、コンセプトやメッセージを伝えるクリエイションを行なっています。
https://www.foodcreation.jp/jp/

【本日の「おむすびと味噌汁」のご紹介】
EAT&LEADトークサロンの会場では、薬師神さんがゲストの2人にちなんで考案した「おむすびと味噌汁」が参加者へ振る舞われます。今回のメニューはこちらでした。
●森の香りの焼きおにぎり
●パセリと山椒の栗雑煮

焼きおにぎりには、諏訪さんが暮らす山梨県の道志村でとれた味覚をふんだんに用いています。道志村のお米とお水を使った洋風ピラフのような炊き込みご飯で、川魚、きのこ、クルミ、しその実など、具材も様々。杉板で挟んでから焼きおにぎりに仕上げているため、開けるとふわっと杉の香りが広がります。

味噌汁は、白みそ仕立てのお雑煮。お汁の中にはお餅ではなく、栗とお米でつくったきりたんぽのような具がごろりと。お料理に苦味を生かすことも多いというnaoさんにちなんで、ブロッコリーを苦みが出るまで揚げ、パセリオイルと少量の山椒をアクセントに加えています。

このおむすびと味噌汁が参加者すべてのテーブルに行き渡った頃、パネルトークがスタートしました。

パネルトーク「食の価値観から見える未来予測」

従来のシェフの枠を超えて活動する薬師神さん、革新的な料理で人気を博すシェフのnaoさん、唯一無二の食体験を創作するアーティストの諏訪綾子さん。この3名は日頃からどのような価値観で食と向き合っているのでしょうか、これよりパネルトークの様子をお届けします。

──最初の質問は「なぜ仕事に『食』を選ばれたのか?」。また、食を通じて何を伝えたいからこそ「今の形を選ばれたのでしょうか?」

naoさん:私が食の世界に入ったのは、大学生のときに衝撃的なレストランと出会ったことです。レストランで過ごす時間にすっかり魅了され、その時間を提供する側になりたいと思いました。現在のお店はシェフとソムリエ2人だけで、カウンター席に1日10名のゲストをお迎えしていますが、これは独立してから10年目にようやくたどり着いたスタイルでした。10名のゲストに100点、120点の満足度で過ごしていただくためにはどうしたらいいかをずっと考え続け、満足度を上げるためにサービスを絞りこむことに。当然どうしても諦めざるを得ないこともありますが、お客様ひとりひとりに伝えていきたいこともあるのでこの形を選びました。でも、いずれはもう少しゲストが選択できる余地を増やしていきたいですし、もっと多くの方にお越しいただけるようにしていけたらと思っています。

諏訪さん:私は、学生時代に美術大学で学んだ視覚的なデザインではなく、何か目に見えないものを表現してみたいと考えていました。それが「食」を選んだ理由です。先ほど会場の皆さんに目隠しをしてあじわっていただきましたが、視覚を遮ったときに、期待してあじわう、好奇心であじわう、予感であじわうなど、いつもとは違うあじわい方になりましたよね。中には、過去の体験を思い起こした方もいらっしゃったと思いますが、ときに「あじわい」は時空を超えることもあります。過去の記憶と結び付けてあじわう、誰かを思い出してあじわう場合もありますし、あじわった余韻が長く残って、死ぬ間際まで「あのとき食べた記憶」になる場合もあるかもしれません。究極的には口の中に物質を入れなくても、想像であじわうこともできるかもしれません。生きている以上、食べることと無関係という人などひとりもいませんし、食の可能性は無限です。世の中には、美食やグルメ、空腹を満たすための食、エネルギー・栄養源という食はあっても、それ以外の食は誰も追及していないのではないかと気づき、15年前にフードクリエイションという活動を始めました。キャッチコピーは「そのコンセプト 胃まで届けます」です。

薬師神さん:私の場合、作るのも食べるのも好きだからこの仕事を選びましたが、今はシェフという仕事により多くの可能性を見出していきたいと思って活動しています。毎日レストランに立つだけではなく、キッチンラボを運営することで多くの仲間と出会い、情報や技術を交換しながら、やがて業界全体の底上げにつなげていけたらいいなと思うのです。レストランの1日8名のゲストに対して、お皿の上だけで何かを伝えることにはどうしても限界がありますので、営業を週4日にして、その分、インプットの時間を持つことで、日々の仕事に落とし込んでいくようにしています。

──次の質問は薬師神さんからゲストのお二人へ。食のクリエイティブをするときに“ときめき”は大事だと思いますが、「心がときめくもの、ときめく瞬間ってどんなときですか?」

諏訪さん:私は「答えがないもの」「得体のしれないもの」、あとは「不気味なもの」など、そういったものに妙にときめきますね。そこから「これはなぜ?」と自分の中で問いがたくさん浮かび上がってきて、インスピレーションにつながっていきます。その意味では、森の中にはときめきがいっぱいありますね。

薬師神さん:なるほど。私の場合、ときめくものといえば「食材」かもしれません。たとえば、食材をずらりと並べられて、これを使って新たなおむすびと味噌汁を作らないといけないとなると、何をどう使おうか考えるのはワクワクします。でも、都会のキッチンで作るのと森の中で考えるのでは、同じ食材が並んでいても違うおむすびが出来上がりそうですね。森の中に、何かときめく食材ってありますか?

諏訪さん:子どものとき、おままごとでよく泥団子を作りませんでしたか? そのイメージで“土をあじわうおにぎり”ってどうでしょうか。森の中では5メートル離れただけで、土の手触りも香りも違ってくるので、その場の環境によって食べたときにあじわいも違うと思うのです。森では様々な動植物が生死を繰り返し、循環して堆積していくので、まさに自然のあじわいが土の中に凝縮されていくと思うんですけど…。

薬師神さん:土ですか。すごく面白いですね。私は各地を訪れる度にいろんな塩を買ってきますけど、塩はポータブルの海といえるのかもしれません。塩もそれぞれの海のあじわいが凝縮されたものなので、その土地のことを想像しながら料理を作るのは楽しいです。

naoさん:私がときめくのは、身近な食材を初めての形で出されたときにすごく感動します。以前行ったレストランで、高温で1時間焼き上げたナスが出てきました。皮はカチカチなんですけど、中はトロトロで、衝撃の美味しさでした。自分の発想を超えた料理を見たとき、ときめくと同時に自身のことを振り返るきっかけにもなって、これからもっと頑張ろうと思います。

──最後の質問「それぞれが考える食の未来について教えてください」

諏訪さん:これからますますテクノロジーが進み、バーチャルで「あじわい体験」ができる技術なども出てくるかもしれません。そのとき、私個人としては「進化するか」「退化するか」を基準に選択したいと考えています。もしそのテクノロジーが私たちの持つ感覚や能力を退化させるものなら私は受け入れたくありませんが、私たちの潜在能力が進化につながるものであれば積極的に取り入れていきたいです。

naoさん:私はやはりレストランの未来について考えてしまいます。今後、さらに食の選択肢が増えていく中で、私たち料理人は何を発信したいのか、どう伝えていくかがより大事になっていくだろうと思います。私たちのような“エンターテインメントの食”を提供するお店が人々に選ばれるために、今、何をすべきかを常に考えています。

薬師神さん:食の選択肢が多様化する世の中で、選ばれるレストランであり続けるためには、料理人が楽しみ方の提案や食べる時間のコーディネートまでできるといいのかなと思います。どういうふうに食べてほしいか、しっかりとしたコンセプトをもって提案できることが必要です。料理のレシピではなく人間のレシピというか、「あの人の料理が食べたい」と思ってもらえるように、お皿の上にそのシェフならではの旨みを加えていかないといけませんよね。

naoさん:確かに、料理人が美味しいものを作る技術だけではダメなのは実感します。今、第一線で活躍している人たちを見ても、振る舞いや言葉遣いをはじめ、人として魅力のあるシェフばかり。人間力があるからこそ周囲の人からも支えられ、求められる存在になるのだと感じます。

──最後に、諏訪さんがこんなことをおっしゃっていました。「わたしたちの日々の食や暮らしの根源である水を遡っていくと、そこには森があって、森に関わる人たちがいます。すべては繋がっているんですね。都市で生活する人も日常の根源にあるものを見つめ、体験し、それに関わる人たちと出会ったら、何も知らないで生きるよりもずっと心豊かに、自然と繋がることができます。食べることやあじわうことは、そんな可能性をわたしたちにもたらしてくれると思います。そして料理人というのは、その伝達者ともいえるのではないでしょうか」 。この先、テクノロジーが進み、選択肢が増えたとしても、真摯に仕事と向き合う料理人がつくった一皿はきっといつでも私たちの心を豊かにしてくれます。

ワークショップ「食の未来について考える」

トークセッションが終了し、イベントは後半へ。
参加者の皆さんとともに行うワークショップが始まりました。

ワークショップのテーマは「食の未来を考える」。
まずは、手元にあるカードの表面に「10年後の食の未来について、思い浮かぶキーワード」を1つ記入します。全員の記入が終わったら回収し、シャッフルして配布。表面に書いてあるキーワードに関してどう取り組むか、自分なりのアイデアを裏面に記入し、1人ずつ発表していきます。

皆さんの発表を少しご紹介すれば、「サスティナビリティ」というキーワードに対し、アイデアは「私はサスティナビリティを、日本人古来の知恵を学び直すことで実践します」でした。「食材」に対しては「私は食材を、同じ価値観の仲間と共有することで日本の食文化を守っていきます」。

その他に「昆虫食」「共創」「価値の再定義」「オーガニック」「食育」「フードロス」「多様化」など、非常に多岐にわたるキーワードが揃いました。

最後に締めくくったのは、薬師神さんの一言でした。
「皆さんに挙げていただいたキーワードの中には、考えさせられたり、自分も取り入れられるかもしれないと思うものもありました。私は食を通じて何かを届けたいと思っていますが、ときめきだったり、ハピネスだったり、何を届けられるのかということにも迷います。でも、人が期待する以上の時間をお返しすることが料理人の使命だと思っていますので、本日、皆さんにいただいたヒントを明日から生かしていけたらと思います」


>>今回のダイジェスト動画の視聴はこちら!
第6回「食の価値観から見える未来予測―食を通じて五感を呼び覚ます」

*こちらの動画ではパネルトークのみご視聴いただけます。

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