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~全6回軽食つきセミナー~「SUSTABLE(サステーブル)2022」Vol.3 【未来を支える陸上養殖】開催レポート

日々の“食”から未来へのアクションを考える「SUSTABLE(サステ―ブル)2022」。

第3回は、サーモンの陸上養殖を題材に、水産資源を始めとする食料危機問題について4名のゲストの皆様とともに考えました。

【第3回ゲストの皆様(順不同)】
◆ ハーチ株式会社 代表取締役 加藤佑様
◆ フィッシュファームみらい合同会社 事業部長 満畑祥樹様
◆ ニチモウ株式会社 海洋事業本部 養殖開発室 室長 戸川富喜様
◆ 神戸北野ホテル 総支配人・総料理長 山口浩様

はじめにご登壇いただいたのはハーチ株式会社の加藤氏。社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」をはじめ、サステナビリティ領域のデジタルメディアを多数運営されています。

「陸上養殖がなぜ未来を支えるのか?」その背景を理解するために、世界を取り巻く食料問題とそのソリューションについて解説をしていただきました。


食料危機について解説する加藤氏

加藤氏は、食料問題を「需要(=人口)の増加」、「供給の減少」、そして「不適切な分配」の3つに分類した上で、現行の食料生産システムのままでは、将来予測される人口増加に対してカロリーも土地も足りず、また気候変動の進行も抑えられないということを、豊富なデータを用いて説明してくれました。
食料生産が気候変動に与える影響についても様々な観点から解説してくださり、私たちの「食べる」という行為がいかに地球と深くかかわっているのかを実感しました。

では、食料問題へのソリューションとして、世界ではどんなアイディアが展開されているのでしょうか?
加藤氏はその例として、“海藻ベーコン”など、環境負荷の高い“肉”の代替食品や、昆虫を軸とした食の資源循環の取り組みなどをご紹介くださいました。
海の問題に関しては、海洋資源の枯渇化に歯止めをかけることが必要。その解決策として“プラントベース・シーフード”の開発や、SUSTABLE第2回〔海を再生する海上養殖〕でも学んだ“リジェネラティブ”な養殖方法があると教えてくれました。 食料問題のなかでも水産資源の枯渇問題は深刻で、その持続可能性が危ぶまれています。そんな中、環境への負荷が低く、安全で効率的な「養殖」は、食料問題への有効な解決策として期待されているのです。

加藤氏の、ロジカルで丁寧なプレゼンテーションを受けて、世界を取り巻く食料問題と、本日のテーマ「未来を支える陸上養殖」が結びついてきました。


フィッシュファームみらい合同会社の事業説明をする満畑氏

ここからは、2021年に福岡県豊前市で始動したサーモンの陸上養殖会社である「フィッシュファームみらい合同会社」(以下「FFM」)の紹介に移ります。まずはFFMの事業部長を務める満畑氏が、会社設立の経緯やビジョンなどを説明しました。FFMは、「食のよろこびをみらいへつなげる」を理念に掲げ、環境・水産資源にまつわる社会課題に真剣に向き合い新たな価値を創造することで、世界中の人々の食の未来を支え続けることを目指しています。
事業の発起人である満畑氏は、この事業を始めた動機を、「もともと魚が好きだったことと、アナログな部分が多い水産業だからこそ、デジタル化する余地があると思った」と話してくれました。

次に、FFMの出資会社であり、養殖事業の技術サポートを行うニチモウ株式会社 海洋事業本部 養殖開発室長 戸川氏より、養殖の対象を“サーモン”に決定した経緯について、「国内の確実な需要が見込めることのほか、餌の効率が良く、可食部が多いことから環境に優しい魚である」と説明しました。
また、FFMが生産する“みらいサーモン”は、IoT技術を活用した管理体制のもと、豊前海の清らかな海水と、トレーサビリティを確保した独自の餌を使用することで、確かな安全性を備えていることもお話しくださいました。この安心でサステナブルな“みらいサーモン”は、MEL認証の取得も予定しているようです。


“みらいサーモン”の特徴について説明する戸川氏

FFMのプレゼンテーションを受けて加藤氏は、「海外産が多いサーモンを国内で養殖するということは、運搬にかかる温室効果ガスの削減につながります。陸上養殖に欠かせない“電力”を再生可能エネルギー由来にして管理していくという取り組みは、電力会社とのコラボレーションならでは」とコメントしました。
FFMの“みらいサーモン”はまだ市場に流通していませんが、来年の市場進出に向けた拡大計画の説明も受け、“みらいサーモン”への期待が高まります。


会場キッチンで仕上げをする山口シェフ

さて、会場はとてもいい香り。ここからは待望の試食タイムです。
今回は、神戸北野ホテル 総支配人・総料理長の山口浩シェフが、フィッシュファームみらい合同会社の“みらいサーモン”をフレンチの3品に仕上げてくださいました。

●メニュー

サーモンのチャウダー風スープ
サーモンの切れ端をマリネしてから野菜と共にじっくり炒め、昆布出汁と合わせた旨味たっぷりのチャウダー風スープ。

サーモンのアンクルート ソースショロン
“アンクルート”は、お肉をパイ生地で包むフランスの伝統料理。これをサーモン、卵、ほうれん草、そしてお米でアレンジ。

サーモンのミ・キュイ ソースブールブラン
“ミ・キュイ”とは“半生”のこと。いくらとトマトを合わせたソースとともに。

山口シェフは、“みらいサーモン”を、「あっさりとしていて食べやすい、日本人好みのサーモン」と評し、しっかり火を入れるアンクルートと、フレッシュさを味わうミ・キュイの両方を十分楽しめる食材だとして、このメニュー構成をご提案くださいました。
お料理の美味しさに、会場参加者からは思わず笑みがこぼれます。「スープはおまけ」という山口シェフの親しみやすいお話と相まって、会場はより和やかな雰囲気に。


アンクルートの美しい断面


試食中の参加者

“みらいサーモン”の美味しさを堪能した後は、山口シェフの海を守る活動についてお伺いしました。なんと山口シェフは、世界を代表するトップシェフでありながら、海洋資源の保全に関して論文も執筆されているのです。


神戸北野ホテル 総支配人・総料理長の山口浩氏

この論文の執筆のきっかけは、「ルレ・エ・シャトー」の副会長 オリビエ・オーランジェ氏からの一言。20年以上前から水産資源の枯渇について警鐘を鳴らしてきたオリビエ氏から、「海洋国である日本が世界のイニシアチブを取り、海の課題を解決に導いていくべきではないか」と山口シェフに声がかかったそうです。


山口シェフがオリビエ・オーランジェ氏らと共にまとめた論文

実は日本は、サステナブルシーフードの観点では後進国なのだそうです。日本人特有の「天然信仰」が、海洋資源の枯渇問題へのソリューションとなる養殖事業の進出を阻んでしまいます。
山口シェフはこの現状を打破するために、海外で定められた基準に倣うのではなく、日本の食文化や既存の漁獲・流通システムに適応した独自のサステナブルシーフードの基準を作り、養殖業を応援する必要があると話しました。

トップシェフたちがこうした社会的な活動を展開していることについて、「これからの料理人は、社会的に意義のある活動をしているかどうかを評価基準に加えるべき」と山口シェフは仰います。「生産者、料理人、消費者みんながそれぞれソーシャルな働きかけをして、それが評価される世の中になれば、自然環境も守られていくはず」という山口シェフの言葉は、大きな説得力をもって私たちの心に響きました。


意義深い議論を展開しつつも、和やかな雰囲気で対談するゲストたち

次に山口シェフは、本日のテーマである「養殖」の持続可能性を考えるポイントとして、「水」、「餌」、「餌の効率性」の3点を挙げました。
戸川氏は、“みらいサーモン”の「餌」について、材料となる魚粉は天然魚の非可食部分のみを採用することで資源の枯渇につながらない工夫をしていると説明しました。加えて、植物由来の餌を好む個体を選別して育種することで、魚粉の割合を減らす努力もしているそうです。
また、「水」については、排泄物による水質汚染を防ぐための管理体制を敷いているほか、その排泄物を資源として循環させる取り組みにも着手しているそうです。FFMの徹底した環境配慮の姿勢に、山口シェフからは称賛の声も。

メディア、生産者、シェフ。立場は違っても、未来への想いを同じくする4名の対談は、あっという間に過ぎていきます。最後のトークテーマは、「未来へのアクション」について。

加藤氏は、「消費者ひとりひとりがメディアである」という考え方や、「Eating is Voting」という言葉を教えてくれました。食料危機の問題は深刻でも、私たちの日々の選択が、未来をより良い方向に導く力を持っているということです。
「少し高価でも、環境に配慮された商品を選んでほしい。1日1食、或いは1週間に1日でも大丈夫。一人一人が少しずつ選択を変えていくだけでも、みんなが集まれば大きなインパクトになります」と、前向きで温かいメッセージを投げかけてくれました。

山口シェフもこの考え方に賛同し、「“コスパが良い”ということは、その背景で誰かが苦しんでいるということ。これからはコストパフォーマンスではなくて、“付加価値の高さ”を基準にしてほしい」と、私たちの消費行動に変化を訴えました。


未来へのアクションについて話す山口氏

戸川氏は、山口シェフが言及した「付加価値」について、これに対する日本人の意識の低さを感じていると仰います。“みらいサーモン”を通じてたくさんの付加価値を提供している戸川氏は、日本人の意識向上や消費行動の変化のために、地道な啓蒙活動をしていきたいと今後のアクションについて話してくれました。

満畑氏は、日本人が魚を捌くこともしなくなり、今では魚をたべることが“趣味”の位置づけになってしまったと話します。そんな状況を打破するために、「付加価値の高いサーモンを自信をもって生産していきたい」と今後の抱負を語ってくれました。
「きちんとしたデータ分析をして、天然を超える養殖魚を作りたい」という満畑氏。大丸有で“みらいサーモン”に出会うのがますます楽しみになりました。

山口シェフは結びとして、日本人に足りない「自ら学ぶ姿勢」について指摘しました。日々の買い物の場面でも、自分で情報を集めてその食材の背景について学び、“付加価値”のある商品をきちんと選択していくこと。その積み重ねが自らの生活に彩りを与えるし、日本の食文化や豊かな海を守ることにつながるのだと訴え、私たちの歩むべき道を照らしてくれました。


私たちにたくさんの知恵と希望を与えてくれたゲストの皆様

SUSTABLE 2022 第3回「未来を支える陸上養殖実施概要
【開催日時】2022年8月26日(金)18:30〜20:00(開場18:00)
【開催場所】MY Shokudo Hall&Kitchen(東京都千代田区大手町2-6-4 TOKYO TORCH 常盤橋タワー3F)
【出演者(順不同)】フィッシュファームみらい合同会社 事業部長 満畑祥樹氏、 ニチモウ株式会社 海洋事業本部 養殖開発室 室長 戸川富喜氏、 ハーチ株式会社 代表取締役 加藤佑氏、 神戸北野ホテル 総支配人・総料理長 山口浩氏
【定員】会場参加30名/オンライン参加500名
【参加費】会場参加1,000円/オンライン参加 無料
【主催】大丸有SDGs ACT5実行委員会/三菱地所株式会社 EAT&LEAD

今後の開催予定
第4回以降の「サステーブル」はこちら( https://act-5.jp/act/2022sustable/ )よりお申込みいただけます。
【第4回】9月28日(水)「アグロフォレストリー」
出演者:武末克久 氏(合同会社Co・En Corporation 代表社員)、井上隆太郎 氏(農地所有適格法人 株式会社 苗目 代表取締役)、加藤峰子 氏(FARO シェフパティシエ)
【第5回】10月7日(金)「サステナブルな日本ワイン」
出演者:松尾英理子 氏(サントリーコーポレートビジネス株式会社 東日本支社 営業部長)、澁谷明伸 氏(弘前市役所 農林部 りんご課課長)、山口仁八郎 氏(丸ノ内ホテル フレンチレストラン pomme d’Adam 総料理長)
【第6回】10月27日(木)「未利用魚の有効活用」
出演者:丸山和彦 氏(但馬漁業協同組合 参与)、笹岡隆次 氏(恵比寿 笹岡 主人)


転載元:「大丸有SDGs ACT5」記事
https://act-5.jp/act/report_ffm/
※大手町・丸の内・有楽町地区(大丸有エリア)を起点にSDGs達成に向けた活動を推進する「大丸有SDGs ACT5」の活動については、WEBサイト(https://act-5.jp/)をご覧ください。

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