【2021年、新たな時代に大切にしたいこと】副島仁 #情報を集め、行動する

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自粛生活や新しい生活様式を体験し、ニューノーマルな時代の中で私たちはこれからをどう生きていけばいいのか。コロナ禍で生まれた思考や未来への気づきを各分野のキーパーソンにインタビューして、社会にポジティブな連鎖が生まれることを目指す【2021年、新たな時代に大切にしたいこと】。今回ご登場いただくのは、佐賀県嬉野市のお茶農家「副島園」4代目・副島仁さんです。副島さんは、何百年という歴史のある嬉野の3つの伝統文化「嬉野茶」「肥前吉田焼」「温泉(宿)」に、時代に合わせた新しい切り口を加えもてなしの空間や喫茶の愉しみを作る「嬉野茶時」プロジェクトにリーダーとして取り組まれています。お茶農家の方が茶葉の栽培から管理、摘採、製茶、セレモニー、接客、サーヴまでの全てを担う「嬉野茶寮」をはじめ、新しい食や文化の体験を提供する様々な取り組みが注目を集める中で、2020年春に発令された緊急事態宣言。今回は、コロナ禍で受けた影響や、厳しい状況を打破するために取り組まれたこと、魅力ある地方の文化やこだわって作っている農作物の価値を伝えるためにこれからの時代重要だと考えていること等について、お話をお伺いしました。
※本記事は2021年3月に取材を行いました

新茶の収穫時期を襲ったコロナ禍

緊急事態宣言が発令された2020年4、5月頃は、ちょうど新茶の収穫時期。お茶農家にとって1年に1度しかない大切な収穫シーズンを襲った、先行きが見えない事態。計画されていた新茶の試飲・販売イベントは軒並み中止となり、売り上げにも大きな影響が及びました。「これからどうなるんだろうと思いながら、いつもの作業に目を向け、新茶の収穫を続けました。緊急事態宣言が明けたあとも、夏頃までは売り上げも不安定な状況が続きましたね」。

コロナ以前、副島園の茶葉の卸先は、道の駅や小売店などの販売店、旅館や飲食店の主に3種類でした。このうち、旅館や飲食店にはオーダーメイドの茶葉を卸しており、ここ数年販売割合を増やそうと動き続けてきたといいます。しかし、旅館や飲食店からの注文は激減。「道の駅やネット販売など、個人のお客様の売上に助けられた形です。ここ数年積み重ねてきた方向性を転換しなければいけないのかなと思い、ショックでした」と副島さんは語ります。また、2年ほどかけて進めてきた商店街へのカフェ出店計画も保留の決断を下すことにもなりました。

現状を打破するための挑戦

オーダーメイドに力を入れていたのは、生産量の多くない嬉野茶の価値を高めるためでした。旅館や飲食店の雰囲気に合った茶を生産の過程からクライアントと相談しながら作り、提供することでお茶に付加価値を付けてきたのです。

嬉野茶を広めるため、創意工夫を重ねてきた副島さん。コロナ禍を受けて中断せざるを得ない取り組みが出てきた中でも、「道が1本なくなると終わってしまうようでは、今後、嬉野茶の価値を伝えていけなくなってしまう。販売方法にも多様性を持たせていかなければならない」と思ったそう。

そんな副島さんに、ひとつのきっかけが訪れます。「嬉野茶時」での活動を知る昔からの同級生が代表を務める地元旅館から「うちのレストスペースを使って、カフェやバーをしてみませんか?」と声が掛かったのです。打診を受け、2020年8月から茶寮&バーの開業を決断。春から夏にかけて嬉野を訪れる方も減ってしまい、「嬉野茶時」の体験を提供し、嬉野の文化の魅力を伝えるのが難しくなってしまっていた状況を打破するためにも、何か行動を起こさなければならない。その想いが、先行きが不透明な中での挑戦を後押ししました。

週末限定でオープンした茶寮&バー「和多屋別荘水明荘ラウンジ『サヴール・ドゥ・スイメイ』」では、茶を使ったオリジナルアルコール飲料を提供。「嬉野茶とビールを混ぜた茶ビールや、ほうじ茶ハイボールなど、お茶農家ならではのメニューを提供。地元メディアにも取り上げられ、非常に良い反響をいただきましたね」。

12月からは常設営業に。「意外に思われるかもしれませんが、茶産地はどこも、お金を払ってしっかりお茶を味わえる場所がないんです。ずっとそんな場所を作りたかった」と、コロナ前から抱いていた想いが実現しました。

キーマンが繋いだ「嬉野茶時」

「嬉野茶時」の活動から、他の業界との横の繋がりに恵まれていた副島さん。その人脈は、市役所職員から牛を飼育する牧場まで多岐に渡ります。嬉野茶時が生まれた背景について、副島さんは産業の衰退を指摘します。「20年前までは各産業が潤っていたため、あまり不安材料がありませんでした。ところが、今はどの産業も苦しい。それぞれの産業には歴史があり、嬉野の伝統文化で考えると、茶は500年、焼き物は400年の歴史を持ちます。大いに魅力があるこれらの伝統文化を今後100年残し続けていくためにも、今やるべきことをしなければという想いがみんなの中に大義としてありました」。

大義があったとはいえ、異なる業界が共に活動し続けるのは簡単なことではありません。嬉野茶時が円滑に進んでいる理由を、副島さんは「嬉野の外から来た方がキーマンとなってくれたことが大きい」と見ています。「コーディネーターがひとりいれば、業界が異なっても繋がることができる。一度繋がれば、あとは連鎖的に広がっていくと感じています」。

他業界だけではなく、同じ嬉野お茶農家同士の仲も良いのだそう。「嬉野茶時のメンバーにもお茶農家が7名います。当事者が深く関わっている点が、嬉野茶時の1番の強みだと思いますね」。

コロナにTPP。変化に対応するには情報収集が大切

2021年を迎えた今も、まだまだ新型コロナウイルスによる不安定な情勢が続いています。副島さんは、「農作物を売っていくためには、これまで以上にしっかりしたストーリーを持たせて発信することが大切でしょう。価格だけではない魅力や価値を、どう消費者の方に伝えていくか。もちろん、美味しく安全な農作物を作ることもこれまで以上に大切です」と語ります。

農作物が立ち向かう障壁はコロナ禍だけではありません。「今後、TPPによる関税撤廃による影響もあるでしょう。情報を集めて知識を蓄えることに加え、自分たちの農作物の情報をSNSやホームページで発信してその価値や魅力を伝えたり、直接提供したりできるよう準備する。行動に起こしていかなければ、価値はきちんと伝わらないでしょう。深く知ってもらうことで理解が進み、価値あるものを適正価格で買って頂けるような、いい循環が生まれるのではないかと思っています」。昔ながらの農業が悪いわけではない。しかし、最低限の情報や知識をきちんと入れて発信していくことが、これからの時代に大切なのではないかというのが副島さんの考えです。

生産農家の方自らが直接消費者をもてなす、全国的にも珍しい「嬉野茶時」や副島さんの取り組み。今まで近いようで遠い存在であった「生産者」と「消費者」がお互いの垣根を超え、直接コミュニケーションすることで、その農作物の価値を深く理解し、適正な価格で買う良い消費の循環が生まれる。コロナ禍により、これまでよりも「食」について意識する機会も増えた中で、今一度、自分が真に価値や応援したいと感じるものが何なのかについて考えてみてはいかがでしょうか。

 

Profile)
副島仁(そえじま・ひとし)

佐賀県嬉野市の茶農家の4代目として、「副島園」を運営。後を継ぐ前に静岡県の茶業試験場で学び、東京の茶問屋に就職して経験を積むも、都会に馴染めず22歳で嬉野に戻り就農。33歳、自家栽培した茶で全量小売を達成。同年、茶業界初の農業賞最優秀賞(経営の部)を受賞。嬉野市の伝統文化である「嬉野茶」「肥前吉田焼」「温泉」を活かして地域活性化を目指すプロジェクト「嬉野茶時」のリーダーも務める。

公式サイト
http://soejimaen.jp/


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