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〈食のFIELD WORK in 雲仙〉 レポート3日目/新たな動き 編

「美味しさの本質」ってなんだろう…
その答えは産地(ローカル)にありました。
都心を飛び出し、シェフと巡った3日間。

〜EAT&LEAD食のフィールドワーク in 雲仙〜

<3日目:新たな動き編>

一人ひとりが「食」と向き合い、真に食べる楽しみを知るために必要なことはなんでしょうか?
その答えを探すために、3名のシェフとともに産地を巡るフィールドワークを行いました。

私たちの身体を構成する「食」がどのように生まれ、どのように育てられているのか。
全国各地の生産者と深くつながり、その魅力を丁寧に伝える食の探求者であり、
伝道師であるシェフとのフィールドワークは、私たち消費者はもちろん、
産地の人たちにも新しい視点を与えてくれるはずです。

●今回の旅先
長崎県雲仙市

●一緒に巡ったシェフの皆さん
PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO オーナーシェフ 岩澤 正和さん
byebyeblues TOKYO シェフ 永島 義国さん
招福樓 若主人 中村 嘉宏さん

【3日目】新たな動き

食のフィールドワーク in 雲仙の最終日。
お世話になった「蒸気家」を後にして、朝食をいただきに「彩雲」へ。

到着した一行を出迎えたのは、橘湾を望むこの最高の景色でした。
「なんて最高なロケーション!」と一気にテンションも上がります。

「おはようございます。昨日はごちそうさまでした」
そう笑顔で出迎えてくれたのは、「彩雲」店主の宮下裕之さん。
昨晩も「蒸気家」にお越しいただき、交流を深めたお一人です。

実は、宮下さんも雲仙の自然と食材に魅せられた移住組。
東京のご出身で、18歳から料理人の道へ入り修行を重ね、東京・神楽坂で長年日本料理店を営んでいらっしゃったそうです。

旅行で長崎を訪れた際、“彩雲(雲の一部が虹色に色づいて見える現象)”を人生で初めて見たそうです。「縁起の良い大地からのメッセージをいただいて、雲仙・小浜へ移住することを決めました」と話してくださいました。
現在は、1日2組までの完全予約制で、雲仙の食材を活かした和食をご提供されています。

 

今日は特別に朝食を提供いただくことに。昨晩の交流会を振り返りながら、楽しみに待ちます。

目の前の橘湾で獲れた天然鯛の一夜干し
鯛のお刺身とじゃことぶどう山椒を炊いたもの
お釜で炊いた棚田米には、八十八夜に摘まれたお茶のふりかけを

「昨晩あんなに食べたのに…」と、あまりの美味しさに一行も箸が止まりません。

目にも涼やかなモリンガの吸い地仕立て
岩崎さんが育てた「カボッキー」と揚げ出しどうふと茄子を炊き込んだもの

美しい橘湾を眺めながらの素晴らしい朝食に、思わず何度もごはんをおかわりしてしまったことはいうまでもありません。

水菓子は岩崎さんが育てた「縞なしスイカ」をいただきました。
その名の通り、果皮に黒い縞がない、昔から日本で食べられていたスイカだそう。
やさしい甘さがじんわりと広がって、思わず岩崎さんの笑顔を思い出しました。

「このスイカ、皮はお漬物にしても良いんですよ」と宮下さん

素晴らしい自然と食材に惹かれての移住ですが、ご不安はなかったのでしょうか?
「すっかり雲仙に魅せられていたので、全く不安はなかったです。皆さんもこの3日間で体感されたと思うのですが、この地域の方って人好きな方が多いでしょう?このエリアの歴史的な背景も影響があると思いますが、とても温かくておせっかいで(笑)」と宮下さん。

素晴らしい自然と、そんな大地のパワーで育った美味しい食材、温かくて少しおせっかいな地域の方々。雲仙に魅せられて移住する方達の気持ちがこの3日間でよく分かりました。

続いて、一行は小浜温泉地区に近年オープンしたばかりのワイナリーへ。
「小浜温泉ワイナリー」は、料理人の川島貴宏さんが、2022年に温泉地区のガレージを借りて始めた小さなワイナリー。

小浜温泉ワイナリー 代表の川島貴宏さん

川島さんは、大阪・神戸・イタリアなどで、イタリア料理人として長年勤務。27歳のとき、当時最年少で日本ソムリエ協会が認定する上位資格「シニアソムリエ」を取得。故郷に美味しいワインと料理を届けたいとの想いで2020年に帰郷されたそうです。

「ワイナリーとしては3年目とまだ新しいワイナリーです。帰郷後は小浜の耕作放棄地にブドウの苗木を植える活動も続けていて、現在品種は7種類、約1900本のブドウの木を育てています。昨年初めて地元産のぶどうを使った“長崎ヌーヴォー”が完成しました。見ての通り小さなワイナリーなので、ブドウの栽培から醸造まですべて手作業で行っています」と川島さん。

発酵途中のワインを見せてくださいました。島原半島の契約農家さんから仕入れた巨峰を使い、酵母を入れて1週間ほど。発酵が進んでぶくぶくと泡立っています。空気を入れて色を促進させるための「櫂入れ」という果実と果汁を混ぜる工程を体験させていただきました。

発酵途中の果汁も味合わせていただきました。
「おお、まだ味が暴れん坊だけどいいね!」と岩澤シェフ。

この後、発酵が完了したら、しばらく果皮を果汁に浸漬させ、成分を抽出する「スキンコンタクト」という工程を経て、搾り、澱を沈殿させ、濾過して、11月頃に「長崎ヌーボー」のできあがりです。

搾りかすは、長崎市内のクラフトビール屋さんに持ち込んで、ビールにしてもらったり、地元のパン屋さんや酪農家さんなどにお渡ししたりして、地域内で余すことなく循環しているそう。

現在、栽培しているブドウの木は1900本。川島さんとアルバイトのお二人で育てているので、夏場は草刈りだけで精一杯。
「ブドウが終わったら、次はみかんワインの仕込みもあって、冬場はてんてこ舞いです。みかんは5トン近く仕込むのですが、皮は手剥き。地域の方に助けを求めて手伝ってもらうことも多いですね(笑)。そちらに来ている林田さんにもよく手伝いに来てもらってます」と笑います。

写真中央:元・雲仙市職員の林田真明さん。現在は独立して雲仙を盛り上げるべく地域ディレクションを広く行っている。川島さんのみかんワイン仕込みにも毎年駆けつけている

日中はワインの仕込みと畑の整備、夕方からはレストランの営業と毎日大忙しの川島さん。
料理人としてイタリア料理を学び、ソムリエとしてワインを学び、農家としてブドウづくりを学び、醸造家としてワインづくりを学ぶ。その原動力は「地元の食材をつかった美味しい料理と美味しいワインを、故郷の人たちに届けたい」という想い。

情熱あふれるつくり手の故郷への想いに触れて、胸が熱くなったひとときでした。

続いては、フィールドワーク最後の訪問先「入潮食堂」へ。
こちらも橘湾を望む海岸沿いにある、絶景を望むお食事処です。

「皆さん、小浜ちゃんぽんってご存知ですか?長崎、天草と並び“日本3大ちゃんぽん”のひとつに数えられるのが小浜ちゃんぽんなんです。実は僕が提案者なんですけどね(笑)」と笑うのは、先ほどの小浜温泉ワイナリーでもご一緒させていただいた元・雲仙市職員の林田真明さん。

雲仙市職員として働いている当時から、ちゃんぽんで町おこしができないかと「ちゃんぽん番長」として活動。2007年には林田さん手づくりの「初代小浜ちゃんぽんマップ」が完成。
マップの完成翌年には「小浜ちゃんぽん愛好会」が結成され、本格的に小浜ちゃんぽんを活用した町おこしが始まりました。現在もそのマップは更新されており、雲仙市観光ナビからダウンロードできるそうです。

>>地域の歴史が込められた「小浜ちゃんぽん」を堪能 
https://www.unzen.org/article/obamachanpon

ちゃんぽん番長こと林田真明さん

「小浜ちゃんぽん」の特徴は麺が長いことと、とんこつベースのスープだけれどあっさりしていること。それ以外は、各店ごとに個性豊かな小浜ちゃんぽんを提供されているそうです。

今回伺った「入潮食堂」でいただいたのは、薬膳と小浜ちゃんぽんを融合させた話題の「薬膳ちゃんぽん」。

国際薬膳師の資格をもつ代表の林田裕子さんが、二十四節気をもとに気候や体の変化に合わせて、その時期にぴったりの食材の組み合わせと調理法で提供してくれます。
豆乳をベースにしたスープにあんかけ野菜と豚角煮がトッピングされていました。豚角煮には地元の雲仙もみじ豚を使用。麺は自家製麺で、毎朝使う分だけ製麺されるといいます。

とろとろジューシーな豚角煮、まろやかでコクのあるスープ、もちもちの太麺がたまりません…。
味のベースはそのままに、冬は体を温める食材、夏は体を冷やす食材と、季節によってお野菜や使う生薬を変えておられるそう。

おいしいだけでなく、身体が喜ぶ旬の食材と生薬もいただけるなんて…。“食事で健康をサポートする”という薬膳料理の知識と技術がふんだんに盛り込まれた一杯に、心も胃も満たされた一行でした。

最後に、3名のシェフ・料理人に今回のフィールドワークの感想をお聞きしました。

永島さん:イタリアでの修行時代、田舎をまわった時のことを思い出しました。そこで出会った人たちはみんな地元のことが大好きで、地元の食材に自信と誇りをもっていて、シェフも食材の特徴を理解して調理して、それをみんなに食べてもらうことを本当に楽しんでいた。雲仙には同じような空気を感じますね。レストランで使う食材は生産者の顔の見えるものにしたいと、定期的に農家さんの元を訪れていますが、今回のフィールドワークでよりその大切さを実感しました。帰ってすぐに天洋丸さんのエタリをパスタに使っています。

中村さん:今回のフィールドワークで、雲仙というまちに心底惚れました。まち全体が協力して全員でものづくりをされていて、それが本当に素晴らしいなと。普通、異業種同士はなかなかうまくいかないもんです(笑)。それが雲仙では「みんなで協力して盛り上げていくぞ!」という一体感があった。来年、東京の会場でまた雲仙の皆さんの会えるのが楽しみです。

岩澤さん:「種の農園」の岩崎さんの種を残す活動にとても感激しました。そしてその活動をしっかりと理解して、残し広げていくために地域の人や料理人がしっかりと繋がっている。地熱のパワーだけはない、人の力を感じることができました。料理人として食材の味や価格だけでなく、背景もしっかりと伝える大切さを再認識しました。フィールドワーク中に仕入れさせてもらった生牡蠣をお店で提供したのですが、お客様に背景をしっかりお伝えることで価格以上の価値を感じていただけたと思います。

一人ひとりが「食」と向き合い、真に食べる楽しみを知り、循環する対話からひとりひとりの幸せの尺度を見つめるきっかけづくりを生み出していきたい。そんな想いで再始動した「EAT&LEADプロジェクト」。“LEAD(リード)”には、“先導”や“伴走”するという意味合いがあります。
丸の内を飛び出して各地を巡り、つくり手・使い手・食べ手の3者が深く関わり、より豊かな明日を創造する大切さを再認識した3日間でした。

3日目の食のフィールドワークで伺った場所・出会った人たち

・彩雲  店主 宮下裕之さん
・小浜温泉ワイナリー 代表 川島貴宏さん
・ちゃんぽん番長 林田真明さん
・入潮食堂の皆さん

※このフィールドワークは2024年8月下旬に実施されました。

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