WELCOME KIDS in MARUNOUCHI 「フレンチ三國シェフの味覚の授業」
「感性が開花すれば子供たちは色々なものに”気づき”を感じるようになります。人を思いやる気持ちが芽生えたり、心が育っていくんです。味覚を鍛えることは、子どもたちの精神面も成長させてくれるんですよ」
2月10日。東京・丸の内にある「ミクニ マルノウチ」で行われた「フレンチ三國シェフの味覚の授業」には、小学生4年生~6年生の親子連れ15組が集まりました。先生はもちろん「ミクニ マルノウチ」オーナー・三國清三シェフです。
この「味覚の授業」は、子どもたちを取り巻く食文化の乱れが社会問題となっていたフランスで、約20年位前に始まった食育の取り組みです。現在では「味覚の一週間」という国家プロジェクトとして、毎年10月、フランスの小学校ではシェフや生産者を巻き込んだ食育に関する様々な授業が行われます。このイベントを通じて、全国民がフランス料理の素晴らしさを再確認、再学習するといいます。こうして、フランスの子どもたちは、小さい時からフランス料理の素晴らしさや、しっかりとしたテーブルマナーを身に着けるというのです。
この「味覚の授業」を日本で最初に行ったのは三國清三シェフです。修行時代、本場フランスの食育のプロジェクトを目の当たりにした三國シェフは、これを日本に持ち込んで普及しようと考えました。授業はまず、「味蕾」という味覚を感知する器官があることを知ることから始まります。
「自分の舌を手で触ってみてください。舌の表面にザラザラとした細かい突起があるの分かりますか。これが”味蕾”です。小学生のみなさんには、この味覚を感知する器官が約1万5千個から2万個あります。けれども、大人になるにつれてどんどん減って半分くらいになるといわれています。だから、小学生のうちにしっかりこの”味蕾”をきたえる必要があります」
続いて、三國シェフは子どもたちにこんな質問をしました。 「みなさん”五味”って分かりますか?甘味、酸味、塩味、苦味。そして、”うま味”という五つの味のことです」
どうやら、「味覚の授業」で大事なことは、味覚を司るこの五つの味をしっかりと舌に記憶させることのようです。「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」は何となく分かるけれども、最後の「うま味」ってどんな味なんだろう。三国シェフが教えてくれました。
「日本料理の出汁に含まれる成分なんです。昆布に含まれるグルタミン酸、かつおぶしに含まれるイノシン酸という成分がその正体です。実はフランスやイタリアの料理でも使うトマトやチーズにもこれらの成分は含まれているんです」
子どもたちの表情は真剣です。三國シェフの話が終わると、今度は実際にその「五味」を子どもたちが体験する番です。子どもたちに紙コップに入った何やら味のついた液体が配られました。子どもたちは自分の舌で、コップの中の液体が「五味」のうちのどれなのかを当てなければなりません。不思議なことに誰も教えていないのに、子どもたちは自分の舌でその味を次々と言い当てていきます。驚くのは「うま味」の成分が昆布と干し椎茸と言い当てる子どもが続出したことです。三國シェフは、味覚を鍛えることの大切さを次のように話してくださいました。
「子どものころは、苦いものやすっぱいものが食べられなかったと思うけど、大人になると不思議と食べられるようになったでしょ?それって苦手だった味を克服したからなんです。その経験と自信が身についていれば、人生で挫折したり、悩んだりした時も必ず乗り越えられるはずです」
授業の最後に、この授業に参加したお父さん、お母さんに三國シェフから「子どもたちに本物の味を食べさせてあげてください」とメッセージがありました。
「レトルト食品もいいですが、人間の体はとても正直で人工的に作った味はすぐに体が拒否するといわれています。けれども、それが続いてしまうと人間の体だって麻痺してしまう。本物の味というのは、より自然に近いものを食べるということです。野菜だったら生産者の顔の見えるものだといいですね」
授業の最後は、グループに分かれて三國シェフが作った「五味」をテーマにしたお菓子を親子で頂きました。そして、参加した子どもたち全員に「味覚の授業修了書」が配られました。
東京都内から参加した小学6年生の男の子は、味覚の授業に参加した感想を次のように話してくれました。
「舌で味わう大切さを学びました。これからはただ食べるのではなく、この味はいったいどんな食材なんだろう。どこでとれた野菜なんだろう。いろいろ想像しながら食事を楽しみたいと思います」
学校では決して教えてくれない「味覚の授業」。子どもたちの眼も輝いていましたが、それ以上に、三國シェフの話を聞く、大人たちの表情が真剣だったのが印象的でした。味覚は感性を育てる。改めて毎日の食事の大切さを再確認した一日でした。