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SUSTABLE(サステーブル)2025 vol.1【食べて応援。世界農業遺産『能登の里山里海』に学ぶ、自然と共生する食文化】開催レポート

SUSTABLE(サステーブル)2025~未来を変えるひとくち~第1回
2025年7月30日に開催されました。

 食従事者と消費者をつなぎ、未来の食卓に変化を起こす「SUSTABLE(サステーブル)2025」。今年の年間テーマは「日本らしい持続可能な食を考える ~ 復興・伝統・未来 ~」です。

 記念すべき第1回のテーマは、「復興」。2024年1月1日に発生した能登半島地震から1年半以上が経過した 今、私たちに何ができるのでしょうか。今回は、復興への願いを込めて、世界農業遺産にも認定されている「能登の里山里海」が育んできた食文化に焦点を当てます。豊かな自然環境の中で育まれる「能登牛」と、伝統的な発酵調味料である魚醤「いしる」を題材に、能登で食に関わるお仕事に従事されている2名のゲスト、そして食材の魅力を最大限に引き出すシェフとともに、日本らしい自然と共生した食文化の未来を考えました。

【第1回ゲストの皆様(順不同)】
 ◆ 株式会社能登牧場 専務取締役 平林 将様
 ◆ 輪島へぐら屋 売店主(有限会社 舳倉屋 広報担当) 岩崎 律子様
 ◆ 食プロデューサー ドミニク・コルビ様

【ファシリテーター】
 ◆ ハーチ株式会社 代表取締役 加藤 佑様

 イベント冒頭では、ファシリテーターの加藤氏が今年のSUSTABLEのテーマである「日本らしい持続可能な食」について、歴史的な視点や現代的な課題を交えながら解説しました。加藤氏が代表を務めるハーチ株式会社は社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」をはじめ、サステナビリティ領域のデジタルメディアを多数運営しています。

加藤氏はまず、2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」が持つ4つの特徴として、多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、健康的な食生活を支える栄養バランス、自然の美しさや季節の移ろいの表現、年中行事との密接な関わり、を紹介しました。これらは、自然を尊び、その恵みをいただいてきた日本人の精神性に基づいています。

「例えば、江戸時代の東京は、世界有数の循環型都市でした」と加藤氏。近郊の農村で採れた野菜を江戸の市中で消費し、下肥(排泄物)を肥料として農村に戻す。三里四方(半径約12km)圏内の旬のものを食べていれば健康でいられる、という考え方が根付いていたのです。

しかし、現代の東京の食料自給率は、四捨五入するとほぼ0%。また、日本全体で見ても東北以南の地域では気候変動の影響により8〜15%程度お米の収穫量が減少すると予測されているほか、農業や漁業といった一次産業の担い手不足・高齢化の課題も深刻化しています。

「こうした中で、私たちはどうやって持続可能な食を実現していくのか。そのヒントが、日本の伝統的な食文化や、自然と共生してきた地域の営みの中に隠されているのではないでしょうか」と加藤氏は語りかけます。「本日は、その素晴らしい事例として、能登半島で力強く活動されているお二方をお招きしました」と、復興への道を歩むゲストへとバトンが渡されました。

 続いて登壇したのは、株式会社能登牧場の専務取締役、平林将氏です。約11年前に群馬県から能登町へ移住し、能登牛の生産の約40%を担う北陸最大の牧場で「唯一無二の能登牛」を育てることに情熱を注いでいます。

能登牛は、石川県で最も長く育てられ、かつ最終の飼養地であり、格付けがA3・B3以上、血統が明確であるという条件を満たした牛を指します。その中でもBMS(霜降りの度合い)が10以上、または格付けがA5でオレイン酸含有量が55%以上の牛は能登牛プレミアムとなります。平林氏は、能登牛の美味しさの秘密について「オレイン酸は、オリーブオイルに豊富に含まれる不飽和脂肪酸の一種で、体に良い油とされています。オレイン酸が高いということはお肉の脂の融点が低いということ。そのため、体温で脂が溶けやすく、風味や味が口の中に広がって美味しいと感じるのです。ぜひ能登牛はオレイン酸が高くて美味しい、という特徴を覚えていただければ嬉しいです」と説明しました。

しかし、そんな能登牛にも致命的な欠点があると平林氏は話します。それは、圧倒的な知名度の低さ。松阪牛の年間流通数約8000頭に対し、能登牛は2009年時点では503頭しか流通していませんでした。その後、2014年の北陸新幹線開通に伴う県の計画の後押しにより2022年には1357頭まで伸びたものの、コロナにより消費が落ち込み再び減少傾向に。それでもなんとか能登牛を届けたいという思いから各地で地道にPRを続ける矢先に起こったのが、2024年1月1日の能登半島地震だったのです。

「震度6強の地震が能登牧場を遅い、1号から3号牛舎が一部損壊、4号牛舎は半壊し、地盤沈下により亀裂が入り、牛舎が傾いてしまいました」と平林氏。その後、地震発生直後の生々しい映像がスクリーンに映し出され、普段は穏やかな牛たちが鳴き叫んでいる声が会場に響きました。

平林氏は「能登牧場の牛はとてもストレスなく育っているので、普段は本当に鳴かないのですが、このように泣いているあの牛にとっての一番のストレスは、水が飲めないこと。水が飲めないと飼料も食べないのです」と説明します。スタッフ総出で雪解け水や雨水を運びましたが、1頭あたりに必要な水の量には到底及びませんでした。「1週間後、停電が復旧し、自動販売機に明かりが灯った時の安堵感は忘れられません。スタッフとその明かりの下で、ビールの代わりにコーラで乾杯しました」と平林氏は当時の様子を振り返りました。

停電が復旧した後も、すぐに全てが元通りになるわけではありません。震災により、能登牧場の4つある牛舎のうち3つは一部が損壊、1つは半壊状態に。修繕のためには牛を引っ越しも必要となり、能登牧場における復旧は今年の11月からが本格的なスタートとなるとのこと。平林氏は、「復旧」と「復興」の違いについて強調しました。「『復旧』とは、傷んだり壊れたりしたものを元通りにすること。能登牧場の状況は、まだ『復興』ではなく、『復旧』が始まったばかりの状況です。それに対して『復興』とは、壊れたものが再び盛んに、整った状態になることを指します。能登牧場としては『復興』を目標としています。」

能登牧場では、復興に向けて5棟目の牛舎を新たに建設し、飼養頭数を1120頭から1440頭まで増やす計画を進めています。ただし、平林氏は、能登牧場の復興だけでは意味がなく、能登半島全体を再び盛り上げたいと考え、耕畜連携に取り組んでいます。具体的には、地域のブルーベリー農家と連携し、剪定枝を飼料として活用する循環型の取り組みも開始。これは、能登牛の付加価値を高めるだけでなく、地域内での資源循環を生み出す挑戦です。

また、平林氏は、能登の人口減少や若者の流出が進む中では生産者同士が耕畜連携するだけでは限界があり、より広い農商工連携が必要だと説明しました。そのための構想として、料理人を招いての能登のフルコースづくり、能登の静かで勉強に集中できる環境を生かした塾との連携による受験生支援、廃校を活用したサバイバルゲーム、能登のひらけた空を活用したドローンレース開催など、様々な新しいアイデアを共有しました。

最後に、平林氏は「県内や能登半島内での消費には限界があります。だからこそ、自分たちで売る、もしくは人に来てもらうという形に能登半島も変えていかなければいけない。半島における新たな復興モデルを能登牛とつくりたい。」と力強く語りました。

 続いて、輪島へぐら屋の岩崎律子氏が登壇しました。岩崎さんは、能登の伝統的な発酵調味料である魚醤「いしる」づくりに取り組んでいます。

「へぐら屋」という名前の由来となっている舳倉(へぐら)島、世界農業遺産である「能登の里山里海」を象徴する美しい棚田「千枚田」などを紹介したのち、岩崎氏は美しい日本海のすぐ側に並べられた、いしるの貯蔵タンクの写真を共有しました。

いしるは、イカの内臓と食塩のみを原料とする魚醤で、大きなタンクの中で1年半から2年をかけて自然の力だけで発酵・熟成させます。

「夏はすごく輪島も暑くて、冬は本当に寒い。この寒暖差に加え、本当に周りが静かなので、波の音がずっと聞こえています。ワインやお味噌でもあるように、音響熟成のような効果があるのではないかと思っており、この場所で作ることが美味しさの秘密のような気がしています」と岩崎氏は語ります。

また、岩崎氏は「いしるは一般的な穀物醤油と比べ、大豆や小麦を使用していないため、アレルギーを持つ人にも優しい調味料です。また、うま味成分のアミノ酸が非常に豊富で、健康的な肝機能を整えるタウリンが多く、血圧抑制効果のあるペプチドも多いという研究結果が出ています」とその魅力を説明しました。

保存性に優れたいしるは、お漬物はもちろん、いしるの貝焼きやいしる鍋など様々な料理に使われています。岩崎氏は「いしるでイカを揉み込んで、ご家庭でつけて焼いて食べるだけでも本当に立派な一品となります」とおすすめの調理法も紹介しました。

しかし、そんないしるの工場も地震により裏山の土砂崩れに見舞われたほか、売店も全壊するなど、甚大な被害を受けました。スクリーンに映し出された動画では、ご主人が「能登を諦められない」と語る姿が。その想いを胸に、岩崎氏も前を向き「このいしるを作り続けていくことが、復興につながると信じています」と力強く話し、締めくくりました。

 さて、会場に食欲をそそる香りが満ち、待ちに待った試食の時間です。今回は、フランス・パリ生まれ、星つきレストランで修行を重ねた後に日本に来日し、名門ホテルやレストランの料理長などを経て現在は食にまつわる様々な活動をしている食プロデューサーのドミニク・コルビ氏が、能登の食材をふんだんに使った特別メニューを振る舞ってくださいました。

《メニュー》
 ◆ 上田農園さんの茄子を使用した茄子の刺身、
へぐら屋さんの魚醬いしるソースとオリーブオイル仕立て、
へぐら屋さんののどぐろの香草サラダ自家製マヨネーズ添え

◆能登牧場さんのランプ肉のロースト、
上田農園さんの白茄子のキャビア仕立てと焼き茄子を添えて、
上田農園さんの万願寺唐辛子ほんのりオリーブ香るソテー、
自家製ジュ・ド・ヴィアンドとハーブサラダとともに

◆上田農園さんのほおずきのショコラ仕立て

「能登の食材は本当に素晴らしい」この一言からドミニクシェフのメニュー説明ははじまりました。「いしるの情熱をすごく感じて、トマトソースの中にはいっぱい入っています。また、生の茄子にも30分ぐらい浸けて、塩も胡椒も何も使わず、素材の味を活かしてシンプルに仕上げました。また、お肉は丸ごとローストし、じっくりと時間をかけて休ませることで、赤身の旨みを最大限に引き出しました」

今回のイベントに先立ち、ドミニクシェフは自らの足で能登を訪問。お肉に添えられた野菜も、シェフが上田農園さんを訪ね、その場で選んできたものです。現地の状況を肌で感じるとともに、生産者の方々との直接の対話から感じた情熱や能登の魅力が、料理の中で美しく表現されていました。

会場からは、「一口目から本当に美味しくて興奮しています。能登牛が驚くほど柔らかく、噛むほどにお肉の旨みが広がり、お野菜も全て美味しいです」と、感嘆の声が上がります。シェフの魔法によって、能登の食材が持つポテンシャルが見事に開花し、参加者の五感を満たしていきました。

トークセッションでは、ドミニクシェフも加わり、和やかな雰囲気で対話が繰り広げられました。現地を訪れての感想を聞かれたドミニクシェフは、「生産者お二人の情熱を強く感じました」と答え、「私はフランス生まれで、フランスには素晴らしい食材があります。そして世界中を回ってきましたが、フランス以外だと、このような美味しいものを作りたいという情熱があるのは日本だけではないでしょうか」と説明し、日本の生産者と食文化の魅力を強調しました。

また、能登の復興に向けて私たちは何ができるのか?という加藤氏からの問いに対し、平林氏は 「3回に1回、5回に1回でいいので、能登の産品を選んでいただけると、3年後、5年後の生産者を支えることになります。私たちは、環境に配慮した持続可能な生産で応えていきたいです」と、具体的なアクションを呼びかけました。また、岩崎氏は 「今日の『美味しい』という記憶をどこかに残してください。そして、『能登に行ってみようかな』『取り寄せてみようかな』と思っていただければ嬉しいです」と、消費者とのつながりの大切さを語りました。

岩崎氏によると、現在いしるの生産者は11社おり、震災後は長年の努力が実り国の地理的表示(GI)保護制度(その地域ならではの自然的、人文的、社会的な要因の中で育まれてきた品質、社会的評価等の特性を有する産品の名称を、地域の知的財産として保護する制度)に登録されたとのこと。これからはシールを貼ることで特産品としてもっとアピールしていきたい、と意気込みを語りました。

さらに、今回のイベントのテーマでもある「自然と共生する食文化」を実現する上で大事なことは?との問いかけには、平林氏は「自然は、人間がコントロールできるものではない。食料生産にはどうしても自然の力を借りなければいけないので、借りたぶんを返すつもりで環境を回復させていく、ということを生産者だけではなく消費者の方も考えていただければありがたい」と呼びかけました。

また、岩崎氏も「魚醤はやはり原料があってのものなので、海で取れるものがなくなったら、魚醤も作れなくなってしまいます。しかし、本当に毎年イカも減ってきているので、危機感を感じながら、同時に貴重なものを作っているという思いでやっています」とその現状を語りました。

 あっという間にイベントは終盤に。参加者に向けた最後のメッセージとして、平林氏は「能登半島で循環型の取り組みを広げ、環境に配慮した持続可能な生産に貢献したい」と今後に向けた思いを語りました。また、岩崎氏は「これからも作り続けてほしいという声があると続け甲斐があるので、ぜひよろしくお願いします」と呼びかけ、ドミニク・コルビ氏は 「能登の食材は本当に素晴らしい。料理人として、これからも能登の食材を使い、応援し続けたいと思います」と、力強いエールを送りました。

 今回のイベントは、生産者、シェフ、そして参加者の想いが一体となり、能登の未来を共に考える温かい空気に満ちていました。「復興」や「持続可能性」という大きなテーマが、「美味しい」という純粋な感動を通じて、私たち一人ひとりの「選ぶ」という具体的なアクションへと繋がることを実感しました。

能登の里山里海が育む自然のめぐみと、そこに関わる人々の温かい情熱に触れ、能登の復興と持続可能な食の未来の実現に向けて参加者の思いが一つになる、希望に満ちた一夜となりました。

アクション実施概要

開催日時

2025年7月30日(水)18:30〜20:00(開場18:00)

開催場所

MY Shokudo Hall&Kitchen
(東京都千代田区大手町2-6-4 TOKYO TORCH 常盤橋タワー3F)

出演者(順不同)

◆ 株式会社能登牧場 専務取締役 平林 将様
 ◆ 輪島へぐら屋 売店主(有限会社 舳倉屋 広報担当) 岩崎 律子様
 ◆ 食プロデューサー ドミニク・コルビ様

司会

ハーチ株式会社 代表取締役 加藤佑 様

定員

会場参加:30名/オンライン参加:500名

参加費

会場参加:2,000円/オンライン参加:無料

主催

大丸有SDGs ACT5実行委員会/三菱地所株式会社 EAT&LEAD

転載元:「大丸有SDGs ACT5」掲載記事
※大手町・丸の内・有楽町地区(大丸有エリア)を起点にSDGs達成に向けた活動を推進する「大丸有SDGs ACT5」の活動については、WEBサイト(https://act-5.jp/)をご覧ください。

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