~全6回軽食つきセミナー~「SUSTABLE(サステーブル)2022」Vol.6 【未利用魚の有効活用】開催レポート
日々の“食”から未来へのアクションを考える「SUSTABLE(サステ―ブル)2022」。
第6回は、未利用魚の有効活用を題材に、2名のゲストとともに水産業の持続可能性について考えました。
【第6回ゲスト(順不同)】
◆ 但馬漁業協同組合 参与 丸山和彦氏
◆ 恵比寿 笹岡 主人 笹岡隆次氏
まずは、但馬漁業協同組合(以下「但馬漁協」)の丸山和彦氏より、但馬漁業の特徴についてお話しいただきました。
但馬漁協の活動拠点は、日本海に面する兵庫県の北部。但馬漁協はこの地で底曳網漁を中心とした沖合漁業を展開しており、松葉ガニや甘エビのほか、白エビ、ノドグロ、ホタルイカ、ハタハタ、アナゴなど、、、様々な魚種が水揚げされています。なかでもハタハタやホタルイカの漁獲量は実は兵庫県が日本一なのだとか。
「底曳網はその名前の通り、網を海底に向かって打って時間をかけて引き上げるという漁法。水深100mから800m程度のところに、1,000mから2,000mもの長さのロープ網を打った後は、3時間くらいかけて引っ張り上げます。魚が獲れたら、船の上で船員が魚種別・サイズ別に選別をして梱包。時間があれば途中、仮眠や休憩を取りつつ、この作業を3〜5日船上で繰り返すという、かなり過酷な漁業なんです」と丸山氏。
但馬漁業協同組合 丸山参与
但馬の漁業では、水産業を持続可能にしていくために、様々な取組みを実践されています。その1つが、水産資源保護を目的とした休漁期間の設定。
「例えばベニズワイガニのカゴ漁業では、6月から8月は休漁期間としています。規制上は、本来6月は漁に出ても構わないのですが、資源管理のために漁師さんが自主的に休業しています。また水深1,700m以下の深い部分には稚ガニが多数生息しているので、そこでは漁をしないようにしたり、カゴに小さなカニが逃げられるような脱出リングをつけたりしています」と丸山氏。年々水産資源が減少していることを間近で感じているからこそ、それらを守るために何年も前から漁師さんが自発的な努力を重ねていると言います。
また、持続的な水産業を考える上で見過ごすことができないのが、漁業従事者の減少問題。
「高齢化や後継者不足により、漁業従事者が不足しています。解決策として、インドネシアなどの外国人実習生の力を借りていますが、船の老朽化とともに廃業する漁師さんもおられます」と丸山氏。平成19年には約1,800人もいた組合員ですが、毎年約2〜3%の漁師さんが廃業していく状況が続いていることや、但馬の漁獲量も年々減っていることを、丸山氏は様々なグラフを用いて説明しました。
そのほか、外国船による違法乱獲や地球温暖化による水温の上昇なども、水産資源を枯渇させる原因となっているそう。そのような状況で、持続可能な水産業を実現するために、但馬の漁業では禁漁期間設定のほかにも「稚魚の再放流」、「底引網の網目の拡張」、そして「休漁期間中の海底清掃」などに取り組んできました。
但馬の海を守る活動について説明する丸山氏
そして、水産業の持続可能性を高める但馬漁協の取り組みとして近年注目を浴びているのが、「未利用魚の有効活用」。
「未利用魚」とは、漁獲されても、知名度の低さや大きさ(小さすぎる等)の問題で市場での取引対象にならない魚のことで、その多くが破棄されているのが現状です。つまり、「未利用魚」は水産資源の大きなロスであり、なおかつ漁師の収入にもならないという問題を抱えています。丸山氏によると未利用魚は全漁獲量の約3割を占めるそう。網目の拡張など小さい魚を漁獲しない工夫を施しても、このような問題が発生してしまうということに会場からは驚きの声も。
この問題を前に丸山氏は、市場で買い手がいないなら、漁協が買おうと決心。漁協内に新たに企画流通部門を立ち上げ、未利用魚の商品開発や流通販促に着手しました。「未利用魚に値段が付くことで、漁師の収入が向上する。それ少しでも漁業を続けてくれる人が増えたらとの想いでした」と丸山氏。
未利用業の商品化について語る丸山氏
但馬漁協が手始めに企画した商品は、未利用魚を用いた「魚醤」。地元の醤油蔵とともに開発に取り組みました。1年かけてじっくりと醸造、発酵させた魚醤シリーズは、今では7種にもなり、人気商品のひとつとなっているそうです。続いて、海苔の生産全国2位という兵庫県の地位を生かし、魚醤を使った味付け海苔や佃煮を商品化。そのほか、地元の水産高校の生徒とともに、缶詰の「のどぐろ飯」を開発し、備蓄品としても活用されているそうです。
このようにして但馬漁協は、廃棄されていた未利用魚を商品化することで付加価値をつけ、海のフードロスを削減すると同時に漁師の収入向上を実現しています。
但馬漁協が展開する未利用魚の商品
「現在こうして商品化できているのは未利用魚全体の1%だけ。持続可能な漁業の実現のためにはまだまだ規模が小さいので、今後も継続的に調査や研究に取り組んでいきたい」と丸山氏は今後の意気込みを語りました。
その頃、会場に漂ってきたのはお出汁の良い香り。お楽しみの試食の時間です。
今回は、丸の内シェフズクラブのメンバーでもあり、新丸の内ビルにも店舗を構える「恵比寿 笹岡」の笹岡隆次氏に、未利用魚となった“ニギス”を使ってお食事をご用意いただきました。
●メニュー
ニギス有馬煮
茄子オランダ煮
千切り野菜のおひたし
ニギス時雨煮
キノコの炊き込みご飯
お味噌汁
小ささが原因で未利用魚となったニギス。笹岡氏の手により、実山椒とともに甘辛く煮詰めた“有馬煮”と、頭と内臓をとって生姜と炊いてすりつぶし“時雨煮”という素敵な2品に仕上がりました。
「イベント前に数種類の未利用魚を送っていただいたのですが、今回はニギスを使用しました。未利用魚が届いた時は、“ええ!結構大きいけど、未利用魚になってしまうの??”と少し驚きましたが、確かに一般的なニギスは、二回りほど大きいので、市場に乗らないラインがこのサイズなんでしょう」と笹岡氏。
未利用魚を手に取ったときの感想を話す笹岡氏
実際、仕込んでみると魚体が小さいことでとても扱いづらく、捌くと身として残る部分はわずか。「笹岡」の料理人の皆様が苦労して仕込んでくれたそうです。
そんな笹岡氏の苦労話に丸山氏も、「そうなんです。未利用魚は加工処理が本当に大変。今年も未利用魚を購入して組合の加工場でドレス処理をしましたが、全て手作業なので、加工賃が高くついてしまうことも課題の1つです」と添え、未利用魚を商品化することの難しさを伝えました。加工場を探すことも、6次産業化の難しさの1つであると丸山氏は話します。
会場参加者のテーブル
続いて、話題は笹岡氏と兵庫県の食材とのつながりに。
過去に兵庫県へ食材探しの旅で訪れたことがあるという笹岡氏。その際に但馬漁協を訪問したこともあるそうです。「兵庫県には日本海も瀬戸内海もありますね。どの漁場も素晴らしかった。但馬漁協さんではカニを食べさせていただきましたが、本当にびっくりするくらい甘くて、とても印象に残っています」と当時を振り返ります。
「ただ、そのカニも年々漁獲量が減少していて、今年の冬はかなり値段が高騰しそうです」と丸山氏。水産業界が抱える問題をここでも伺い知ることができました。
水産業界の変化については、全国各地の生産者とつながる笹岡氏の元にも、様々な声が届いているようです。
「どこの産地も、『海の環境が変わった』と仰います。今まで獲れなかったはずの魚が獲れるようになったと。例えば福島沖で、暖かい場所でしが獲れないはずのサワラが揚がるようになったり、羅臼の鮭の定置網にブリが入り始めたり」と笹岡氏。水温上昇は丸山氏も日々感じているようで、但馬でも8月になると30度超えることもあると応じました。
私たちの活動が引き起こした気候変動が、魚の生態系を変えていること、そして水産業にも大きな影響を与えていることがわかります。
実は、昨年から始まったSUSTABLE全12回の中で、和食の店舗を構えるシェフをお招きしたのは今回が初めて。笹岡氏に「和食」について伺いました。
笹岡氏は、「旬を生かし、素材を無駄なく使い尽くす和食は、今後も残していくべき文化です」と伝えた上で、「日本人のライフスタイルの変化に伴って、今では和食は手のかかるイメージから敬遠される傾向があるのかもしれません。料理人の世界でも、和食を志す若者は減少しているようです。お店で和食の魅力を伝えるだけでなく、こういった機会に和食の良さを伝えていくのも僕たちの役割ですね」と話してくれました。心温まる一汁三菜を頂いたあとの笹岡氏の言葉は会場参加者の胸に響きます。
会を締めくくるクロージングトークでは、お二人に今後の展望を伺いました。
丸山氏は、「働き盛りで料理に時間を割けない方や高齢者でも、手軽に美味しく魚を食べていただけるような商品開発を進めていきたいです。これからも「無添加」と「おいしさ」にこだわっていきたい。ライフスタイルの変化を捉え、電子レンジでも焼きたてのお魚の味が再現できるような商品を、今後展開できたらと思っています」と今後の6次産業化への意気込みを力強く話しました。魚に付加価値を与え、漁業従事者の環境改善につなげようとする丸山氏の意欲と活動が、水産業界の大きな活力となっていることを伺い知ることができました。
続いて笹岡氏は、「これからの料理人は、料理に根底にある食材のバックグラウンドや物語を知り、お客さんに伝えていくことが大事だと思います。今回の但馬漁協さんのお魚や魚醤も同じ。丸山さんの取り組みを知る前と後とでは、食材と向き合う時の気持ちが違うはずです」と、消費者と生産者を繋ぐ料理人として果たすべき役割についてお話し下さいました。
食の「作り手」である生産者と「使い手」である料理人との対談から、海の変化や水産業が抱える課題について学ぶことができました。「食べ手」である私たち消費者のどんなアクションが、未来の水産業を支えることに繋がるでしょうか。
SUSTABLEは、みんなが未来について考えるきっかけを提供する場所。今年度を締めくくる最終回でも、お二人のゲストがたくさんのヒントを与えてくれました。
SUSTABLE 2022 第6回「未利用魚の有効活用」実施概要
【開催日時】2022年10月27日(木)18:30〜20:00(開場18:00)
【開催場所】MY Shokudo Hall&Kitchen(東京都千代田区大手町2-6-4 TOKYO TORCH 常盤橋タワー3F)
【出演者(順不同)】但馬漁業協同組合 参与 丸山和彦氏、恵比寿 笹岡 主人 笹岡隆次氏
【定員】会場参加30名/オンライン参加500名
【参加費】会場参加1,000円/オンライン参加 無料
【主催】大丸有SDGs ACT5実行委員会/三菱地所株式会社 EAT&LEAD
転載元:「大丸有SDGs ACT5」記事
https://act-5.jp/act/report_miriyougyo/
※大手町・丸の内・有楽町地区(大丸有エリア)を起点にSDGs達成に向けた活動を推進する「大丸有SDGs ACT5」の活動については、WEBサイト(https://act-5.jp/)をご覧ください。