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おいしい教室~お弁当のじかん~「第5回 イギリス的なもの」

食育丸の内プロジェクトの一環としてSoup Stock Tokyoの代表、遠山正道さんをホストに連続7回開催されるシリーズワークショップが丸の内で開催されました。
第5回の今回のゲストはアートディレクターの平林奈緒美さんです。平林さんは丸の内HOUSEのデザインディレクションなどでも丸の内に馴染み深い方です。

 前半は平林さんのお話を伺っていきます。平林さんはデザイン業界ではとても知られた方なのですが、一般的な公の場にあまり登場なさることは少ない方という印象です。今回は珍しいご参加になりました。遠山さんと平林さんの最初の出会いは数年前に銀座で行われたADC賞の発表の帰りに銀座ストックで飲んだことがきっかけだそう。平林さんのお仕事のひとつに、雑誌の「GINZA」のアートディレクションなどがあります。編集長が変わった際に、平林さんが就任され、現在は雑誌の売り上げがあがるほどの、すばらしい影響力なのです。

物へのこだわりが尋常でないという平林さん。例えば今かけている眼鏡も5〜6個同じ物を持っていらっしゃいます。ようやく見つけたものだったので、廃盤になったことを知って日本中の同じ眼鏡を買い占めたというのです。ひとつの眼鏡を2年間使い続けたところであと10~12年は使えるけれど、その先はどうしようかと考え中だとか。作っていらっしゃるデザイナーの小竹長兵衛さんがご存命なので、もしかしたらオリジナルの眼鏡が生まれる日がくるかもしれません。また、使い慣れた黄色の蛍光ペンも、軸の部分のロゴの入り方に、デザイン変更がされたのをみて慌てて変更前の現行のものを買いに走ったといいます。洋服や靴などは予備のものを数点購入しておかないと、新しいものは下ろせないほどのこだわりぶり。逆に物のデザインというのは、割と短期間で改変されていくことにも気づかされます。

遠山さんが以前お邪魔した平林さんのご自宅は、内装も徹底的にこだわっていらっしゃるそう。NYの駅で施行工事中だった白いタイルに一目惚れしてしまい、積んであった段ボールの名前から製造元を探し当て、なんとスリランカから取り寄せてしまったほど。他にもご自宅の電化製品などは、日本語表記のもので気に入るものがなく、外国人向けに作られた英語表記のものを使うなど、こだわるだけではなく、アイディアと知恵を使って生活していらっしゃるのです。

 武蔵野美術大学の空間演出デザイン学科にて、グラフィックの世界を目指して活動を始められます。在学中、新聞社の賞に応募した際に資生堂の課題で賞を受賞、その御縁で資生堂に就職されました。資生堂では、新人社員はみな「資生堂書体」という独自のフォントを手書き練習するという課題があったのですが、当時平林さんの上司は「ひとつ描いたらそれを壁に貼って見ていればいい。せっかく銀座にいるんだから映画を観たり、買い物に行ったりしなさい」という懐の深い人で、その言葉通りさまざまな街に息づくエッセンスを吸収する時代を送られました。その後、若い女性向けのコスメラインのアートディレクションを手がける仕事を任されます。大きな会社である資生堂では、パッケージ、広告、店舗デザインなどあらゆる分業化が進んでおりましたが、本来の「アートディレクター」は一気通貫で商品が生まれるところから、売り場までみるべきだと意思を掲げて、すべての段階に関わり仕事をしました。

その後、イギリスの別の会社で働いた後に独立し、現在のご自分のデザイン会社を立ち上げられました。現在アートディレクションしている雑誌「GINZA」は、その無機質なデザインセンスから男性の読者が増えたといいます。GINZAの進行にあたっては、編集部との約束に「夜12時以降は対応しません、土日も対応しません、電話にも一切でません」と条件を出されました。それは、12時にはすべてのスタッフが仕事を終えて帰宅すること、デザイン事務所によく見られる不規則でメリハリのない仕事環境になるのを防ぐための選択とのこと。食事は日曜日に3種類のスープを大量につくって、パンと果物でランチをとるため、打ち合わせ以外は外出もしない徹底ぶり。遠山さんも「ストイックですね〜」とうなり声。この先、デザインしてみたいものは?という問いに平林さんは「国連のアートディレクターと、エアライン丸ごと、博物館のディレクションです」ときっぱり。しっかりとビジョンがあり、それが現実味を帯びているのも、平林さんならでは。いつか実現してしまうのだろうな、と思わせてくれる力強さでした。

そんな平林さんから今回出されたお弁当のテーマは「イギリス的なもの」。イギリスに暮らしていた平林さんの中に今でも残っている当時の生活の香り。今回遠山さんが用意したのが「テディベア弁当」。イギリスと言えば「テディベア」ということでお米を使った立体的なテディベアを制作。頭には味噌と、お腹にはレバーペーストが入ったお握り弁当です。しかし、重力には逆らえず若干愛嬌のある形に・・・それもまた味ということでしょうか。

 そして平林さんのお弁当は、当時イギリスで仕事をしていた頃、毎日持参していたサンドウィッチのお弁当をイメージしたもの。サンドウィッチはいつも同じお店で購入しラップに値段が書かれていたのをさりげなく再現しました。また、今回ちょうど出張帰りだったので、昨日手に入れたオーガニックスーパーマーケット「ホールフーズ」のジュースのペットボトルに、再びオレンジジュースを詰めて。ミニパックのソルト&ヴィネガーのチップスと昨晩の残りの野菜なども一緒に。これがロンドンの定番のランチですが、彼らは絶対にこのままでは食べないと言います。必ず事務所に食器が置いてあり、きちんと皿に移し、カトラリーを使って食べるのだそう。そうすることによって、恐らく味わいが異なるはずと、平林さんは言います。準備してくださった食器類もとても素敵なセンスでした。

 生徒さんのプレゼンテーションは今回も、2分の持ち時間で展開されました。心なしか赤い服装、ギンガムチェックのストールやスカートを身につけた方が多かった気がします。今回の全員投票で選ばれた作品は以下の通り。

“印象的だったお弁当”は大谷尚史さんの「箱庭弁当」でした。大ぶりのガラスのジャーの中に、イギリスと言えば連想する田園のガーデニングをイメージしたサラダが。黒米とココアのご飯を土に見立て、エディブルフラワー、フェンネル、ラディッシュ、人参などをサラダ仕立てにして植えられ、バターチキンカレーと共にいただくもの。また、”おいしそうだったお弁当”と、今回のテーマである”イギリス的なお弁当”の二つのタイトルを見事獲得したのが下田知世さんの「ローストビーフのサンドウィッチ弁当」でした。イギリスの南東部の港町で領主だったモンタギュー伯爵が片手で食事をしながらゲームを楽しめるようにと作らせた2枚のパンに挟まれた牛肉のスライス、これがサンドウィッチの出生の始まりとされているのです。これにちなんで、今回はベーシックなローストビーフをパンで挟んだお弁当を作りました。おいしそうな出で立ちに一同「おお〜」と声があがりました。

大谷尚史さんの「箱庭弁当」箱庭弁当下田知世さんの「ローストビーフのサンドウィッチ弁当」ローストビーフのサンドウィッチ弁当

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