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発酵食を自分の手で「HAKKO WORKSHOP」vol.01「おいしいお出汁の取り方」レポート

vol.01のテーマは「おいしいお出汁の取り方」

講師の大黒谷寿恵さんは2009年に鎌倉で料理教室「寿家」を開業し、ケータリングや出張シェフ、レシピ開発など幅広く活躍。実は今回の会場となったMY Shokudo Hall&Kitchen内にある「みそスープBAR」のメニュー監修も務めています。みそスープBARで大黒谷さんのメニューを提供するにあたって、スタッフが受けた大黒谷さんのレクチャーが、とてもためになるもので、ぜひ多くの人にシェアしたい!ということで、今回の企画につながりました。

ワークショップのスタートは、キッチンの前に集まっての座学から。お出汁はシンプルだけれど奥が深いこと、昆布や鰹、煮干し、それらを組み合わせたものなど、さまざまな種類があることを伝える大黒谷さん。メモを片手に熱心に耳を傾ける参加者の姿も見られました。

今回、実践するのは昆布と鰹のお出汁と、それらを合わせた「合わせ出汁」。取ったお出汁はうま味を感じられる旬のお料理となり、後半の食事タイムに登場します。

出汁を取る前に、まずは素材そのもののお味見を。参加者のテーブルに、昆布と鰹節が載ったお皿が配られます。昆布は利尻昆布、真昆布(天然)、真昆布(養殖)、羅臼昆布、日高昆布の5種類。あとは鰹節、まぐろ節です。

「採れる場所により、昆布の種類が変わります。天然真昆布は道南、利尻昆布は北部、羅臼昆布は知床など北海道の右端が産地です。真昆布は大阪で好まれ、利尻昆布は京都で好んで使われています。一番うま味が強いのは羅臼昆布。緑色がお出汁に出やすいのが特徴です」と昆布の説明を受けながら、それぞれを味見。参加者たちは「味わいが違う!」と驚いて顔を見合わせたり、「鰹節だけで食べることなんて普段ないです」と言い合ったりと、新鮮な体験に。

常温で長期保存が可能な昆布。そんな昆布出汁の魅力について、大黒谷さんは「野菜など、素材のうま味を損なわず、そっと持ち上げてくれるような、ガツンとはこない味わいが特徴です」と、私たちがなんとなく感じていたことを、わかりやすく言語化。この言葉を覚えて帰るだけで、今日はちょっと料理上手になったような気がします。

味見を終えたところで、大黒谷さんによるデモンストレーションで出汁の取り方を学びます。

<昆布出汁を取るポイント>
・昆布を水に浸す。8時間ほどおいてじっくり引き出すとより良い。最低でも30分は浸しておく
・湯の温度は60度。水面からほんのり湯気が出るくらいがベスト。沸騰させないよう注意
・使う昆布の量は1リットル当たり15グラム

特に押さえておきたいのは、使う昆布の量です。「よくレシピにはサイズで書かれていますが、昆布によって厚みと太さはバラバラ。長さではなく重さで量った方が間違いありません。料理店でも重さを量っています」とアドバイス。参加者は「へえ~」と小さく驚きの声を漏らしながら、熱心にメモを取ります。

なお、昆布出汁は水出しも可能。「冷たい料理に使うときには水出しがおすすめです」と大黒さん。

続いてデモンストレーションを行ったのは、昆布と鰹の合わせ出汁。耳にしたことがある「一番出汁」「二番出汁」について学びます。

まずは鰹節について。昆布は常温での長期保存が可能だと紹介されましたが、削られた鰹節の常温保存はNG。鰹節は削ったそばから香りが減り、誤った保管方法だと魚臭さが出てしまいます。

また、鰹節にも種類があると紹介。「一般的に出回っているのは荒節と呼ばれるもの。この荒節から作られるのが希少な本枯れ節です。あとは今日持ってきたまぐろ節、その他、さば節などがあります」

ここで、鰹節の削り方もレクチャー。削るときは鰹節の頭から。一面だけを削るのではなく、鉛筆をナイフで削るときのように三面を作るようにして削るといいとのこと。自分で削るためには削り器が必要ですし、削る手間もかかります。何となく億劫さを感じる人もいるのではないでしょうか。しかし、大黒谷さんは「削りたての鰹節は、通常の半量で十分。ここが自分で削る良さです」と削りながら説明。キッチンにふんわりと漂う鰹節の良い香りが、その説明に説得力を持たせました。

<合わせ出汁(一番出汁)を取るポイント>
・水1リットルで取った昆布出汁に対し、鰹節20グラムが目安
・ザルに湿らせたキッチンペーパーを敷き、ボウルの上に浮かすようにザルを設置しておく
・昆布を取り出し、沸騰直前まで温め、火を消したあとに鰹節を入れる
・アクが出ればアク取りをし、すぐさまザルで一気に漉す。鰹節を入れてから1分もいらない

合わせ出汁の一番のポイントは「火を消してから鰹節を入れること」と「入れたあとのスピード感」。大黒谷さんは「時間をおけばおくほど出汁が出ると思われている方もいますが、それは酸味につながるため、すぐに漉してくださいね」と念押し。取った合わせ出汁を味見した参加者からは「おいしい…」という言葉が漏れます。

「合わせ出汁のすごいところは、これだけで完成されたスープになることです」との大黒谷さんの言葉に、実感したようにうなずく参加者のみなさん。

さて、ここまで聞いて学んだあとは、2人1組でいよいよ実践です!

組み合わせの味の違いも楽しもう。ワークショップスタート

今回は、2人ペアでそれぞれが異なる昆布×鰹節(荒節・本枯れ節)orまぐろ節で合わせ出汁を作ります。

先ほど受けた説明通りに手を動かす間も、お出汁や昆布、鰹節トークで盛り上がります。合わせ出汁で作るお吸い物はスピード勝負なため、料理店では出す直前に合わせて厨房で計算をしながら調理をしていること。作ったあとにすぐ蓋を閉じ、閉じ込めた香りをお客様が楽しめるようにしていることが語られ、飲食店で目の前に出されていた椀物にはそんな背景があったのかと気づかされます。

また、離乳食では「昆布だけで十分」とのマメ知識も。合わせ出汁はおいしすぎるため、まずは昆布だしから始めるのが良いのだそう。「母乳の味はグルタミン酸だと言われているので、昆布と相性がいいんですよ」との説明に、参加者からは「へー!」と驚きの声が上がります。

話しているうちに、どんどん昆布出汁が出来上がります。どれが何の出汁かわかるように、鍋には付箋で印がつけられます。異なる昆布で取った出汁を、それぞれ味見し合うことに。特に参加者が目を丸くさせて驚いたのは、羅臼昆布で取った出汁です。「全然味が違う!」と昆布による味の違いを体感していました。

昆布出汁を取ったあとは、鰹節・まぐろ節を使っての合わせ出汁にチャレンジ。「あ、火を消すんだった」など、おさらいしながら実践します。大黒谷さんは「時間ではなく味を見て」「ためらわずに漉してください」とアドバイス。あっという間に合わせ出汁も仕上がりました。

大黒谷さんからは「おいしさは点ではなく幅。ポイントさえ押さえられれば、『おいしい』の範疇には入ります」と心強い一言も寄せられました。

完成後は投票タイム。今回取った合わせ出汁のうち、参加者が一番おいしいと感じたものは「羅臼×まぐろ節」。その次に人気を集めたのもまぐろ節を使ったものでした。参加者からは「鰹節を使ったものはなじみのある味がした」との感想も。

なお、今回使った昆布のうち、天然真昆布は今後2年ほどで採れなくなるかもしれないとのこと。「海水温の上昇により、海の中にいるものの、腐った状態で生きているものが増えているのだそうです」との大黒谷さんの言葉に、参加者は驚いた様子を見せます。食文化を守ることと環境問題との関係を少し理解できるエピソードでした。

合わせ出汁のおいしさを感じられる旬のお料理を提供

ワークショップを終えたあとは、取ったお出汁を使ったシンプルなお料理を楽しむ時間。今回振る舞われたメニューはこちらです。

・レタスとさやえんどう、焼き椎茸のお浸し
・空也蒸し(豆腐入り茶碗蒸し) 銀あんがけ
・新生姜ごはん
・鰆と蕪、根三つ葉のお吸いもの
・あたたかいお茶

合わせ出汁を温め直すときには、じわじわではなく一気に強火で温め、沸騰させないというポイントも紹介され、いざ実食タイム。

「レタスのお浸しは初めて食べた。おいしい」「ごはんがシンプルなのにとてもおいしい」と参加者たちは箸を進めながらしみじみ。「身体にいいものを食べている満足感がある…」「しみわたる」との言葉も聞かれました。

食事中には、各テーブルを大黒谷さんが回り、参加者からの感想や質問に答えました。

Q 出汁をとった後の昆布の使い道は?
A 煮物や炒め物に入れて無駄なく使いましょう。

Q 自分で引いたお出汁生活を続けるにはどうしたらいいですか?
A 毎日引くのは難しいという方は、就寝前、出勤前に昆布を水に浸けておけば、第一段階をクリアできます。帰ってからすぐに出汁が引けますよ。

Q ごはんがおいしかったので、作り方を知りたいです!
A 米2合に対し、お出汁340ccに薄口しょうゆ50cc、酒50cc、新生姜30グラム。炊飯器であれば水量が少なくて済みます。お出汁があれば、具材がほぼなくてもおいしく仕上がります。

Q 本枯れ節の保存方法は?
A ジップロックやラップなどを使い、乾燥しないように。表面の白い粉はうま味なので、取らないことがポイントです。

Q 煮干しの出汁の取り方は?
A 頭も内臓も取らずに水出しができます。1リットルに20グラムが目安。火にかけてふつふつしてきたらアクが出るため、アクを取り、2、3分ほどでいりこの味が出たとわかったところで完成。味噌汁に使うときには、煮干しごと使ってもOK。煮干しを取り出すときには、ザルで取る程度で使える、漉す必要がない点が手軽で良いです。酸化しやすいため、煮干しは冷凍保存で。おなかが破れているのは煮干しになるときに鮮度が悪かったもの。銀色に光り乾燥しているものを選ぶのがコツです。

この他にも大黒谷さんから出汁についての豆知識が続々と…。「鰹やまぐろは泳ぎ続けている魚なので、筋肉の疲労回復物質を保有しています。食べることで私たちもその影響を受けられるんですよ」、「煮干しにはアミノ酸の種類が多く、バランスよくうま味が入っています。そのため、単体でもおいしいです」と、出汁にまつわる知識をたっぷり浴びたワークショップとなったのです。

参加者からは「お出汁を取るのはもっと面倒くさいことだと思っていた」との感想が多く寄せられました。大黒谷さんは「そうですよね」と微笑み、「1週間に1回など、少しずつ実践してもらえたら。慣れてきたら、いちいち昆布を量らなくても作れるようになりますよ」とエールを送りました。

日本食の味わいを支えてきた「お出汁」。自分で素材から取ることに対し、ハードルが高いなと感じていた人もいたことでしょう。そのハードルを少し引き下げた今回のワークショップ。おいしい食事に舌鼓を打ちながら、「明日からやってみようかな」と口にする参加者の姿が印象的でした。

>>「HAKKO MARUNOUCHI 2022 Spring」イベント概要はこちら

https://shokumaru.jp/hakkomarunouchi2022-sp/

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