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福島県の美味しく、安全な食材を味わう「HAKKO RESTAURANT」vol.3「震災から11年、災害・風評被害の解決の一歩」レポート

「震災前から福島に関わってきた」ドミニク・コルビオーナーシェフ、コルビさんのお話

今回の使い手を務めるコルビさんは、丸の内シェフズクラブのメンバー。EAT&LEAD主催のイベントにも、数多く関わってきてくださったお一人です。当時から関わりのある三菱地所の井上友美も加わり、コルビさんと福島県との関わりについてトークが行われました。

「福島の食材は、今世界で一番安全で美味しい」と公言しているコルビさん。福島との縁は、震災前の2010年秋から始まりました。

「様々な畑を巡って一緒に収穫をしたり、作物を育てるにあたってのこだわりをうかがったり。福島県に訪れては、そこで作られる食材の美味しさに惚れ込んでいましたね。農家さんにとっての当たり前の食べ方をいかに裏切って、私の料理で驚いてもらうか、頭をひねる作業が楽しくて。実は震災が起きた2011年も、3月1日から8日まで福島にいたんです。福島を離れた3日後に震災が起きたことは、私にとっても大きなショックでした…」

震災直後、いち早く現地での炊き出しを始めたコルビさん。毎週福島に通い、食事を振る舞う日々を送りました。

今回の作り手である吉村さん、佐藤さんとの出会いは、今からおよそ2年前。磐梯町のイベントに共に関わったのがきっかけだったと吉村さんが振り返ります。

「最初は怖そうに見えたのではないですか?どうでしたか?」と冗談交じりに井上が投げかけると、「最初は何を話せばいいのか分からなかったですね」と佐藤さんが笑いながら回答。しかし、コルビさんとの出会いを機に毎年活動を共にするようになり、今ではフランクに話せる仲になったと語ります。

コルビさんも負けじと「このあと、2人も詳しく話すと思います。緊張していると言っていましたが、私よりきっといっぱい喋ります」と冗談まじりに、会場からも笑いがこぼれました。

今回のメニューで使われている食材のうち、さつまいもは吉村さん、トマトは佐藤さんがつくったもの。コルビさんは「本当にさつまいももトマトも素晴らしい!どんなに甘いさつまいもでも、デザートに使うときには砂糖を入れるのが普通です。でも、今回は入れる必要がないほど、吉村さんのさつまいもは上質な甘さなんです。佐藤さんのトマトは、うま味がすごい。『トマトに何か入れてるんじゃないの?』って疑ってしまうほどの強いうま味です。驚きますよ。ぜひあとで味わってみてください」と紹介。会場に料理への期待感を残して、一旦コルビさんは調理場へと戻って仕上げの作業を進めます。

イケメン若手農家集団「ばんだいジオファーマーズ」について。「和屋」吉村さん、「夢農園さとう」佐藤さんの野菜作り

ここで、ばんだいジオファーマーズのお二人にバトンタッチ。ファシリテーターを務めるMY Shokudo Hall & Kitchenを運営する二宮敏さんから「イケメン若手農家集団」と振られ、「一部です(笑)。一部イケメン若手農家集団」と吉村さんが返し、会場は和やかな雰囲気に。

最初は、参加者に向けて磐梯町という町を知っているかどうかを投げかけます。10人近くの手が挙がり、意外と知られていることを驚くお二人。磐梯町は原発から100kmほどの場所に位置し、スキー場や名水100選に選ばれている美味しい水が特長の町。水について、佐藤さんは「磐梯西山麓湧水群のうち、代表的なのは龍ヶ沢湧水です。ふるさと納税の返礼品のペットボトル入りの水にも使われています。地元では蛇口をひねれば名水100選、食器を洗う水も名水100選、お風呂もトイレも名水100選なんです」と紹介。土にミネラルが多く含まれていることも、磐梯産の野菜が美味しく育つ理由なのだとか。

そんな土地で農業に携わっているのが、ふたりが所属しているばんだいジオファーマーズ。現在、メンバーは11人で来年には12人に増えるとのこと。地元では有名で、NHKやローカル局のテレビやラジオからの取材を受けることもあるのだそう。

そんな勢いのあるばんだいジオファーマーズは、Uターンなどで新規就農したメンバーが多く、吉村さんもそのひとりでした。

「僕はもともと新橋のサラリーマン。実家がコメ農家をしている長男であることもあり、40歳を前にUターンし、農業の世界に足を踏み入れました。主に栽培しているのはさつまいもで、その中でもシルクスイートを多く栽培しています。道の駅や収穫体験で手に取っていただけますよ」

二宮さんから、跡を継ぐことに対して質問を受けた吉村さんは、農家の現状を伝えながら、次のように語りました。

「耕作放棄地が多くあり、若手がやらないといけないという危機感がありました。ばんだいジオファーマーズとしてブランド化していこうと思ったのは、震災からの10年で売り方が大きく変わったからです。風評被害による不安を払拭するためには、僕ら生産者がどんな想いで作っているのかを見てもらい、知ってもらうことが必要だと思いました。福島県産ではなく、ばんだいジオファーマーズの野菜として伝えていきたいなと」

続いては、佐藤さんにマイクが移ります。実は子どものころからトマトが苦手だという佐藤さん。「4人家族で、娘もトマト嫌いなんです」との発言に、会場からは笑いと驚きの声が上がります。

コルビさんがその味に驚いたという佐藤さんのトマトは、生産工程や栄養価について、第三者機関によるコンテストでの受賞歴もある「太鼓判を押された」もの。

「栄養価や糖度など、『美味しい』といった感覚だけでなく、第三者機関によって数値化されて評価いただいて、そういった観点から賞をいただけるというのは嬉しいですね」と佐藤さん。吉村さんも「佐藤さんのトマトは毎年買っている。大玉はもちろん、中玉やミニトマトの甘さには驚きます」と言葉を添えます。

コルビさんの調理シーンを見学し、お料理を実食

ここで、コルビさんの調理の様子を短い間ながら見学する時間が設けられました。参加者は席を立ち、キッチン前に集まります。

コルビさんは作業をしながら、「ドレッシングはオリーブオイルと塩だけです。素材そのものの味を楽しんでくださいね!」と説明。「写真、撮りますか?いいですよ!」とカメラ目線でのポーズを決めるなど、サービス精神旺盛でチャーミングなコルビさんの姿に、参加者は思わず笑いながらスマートフォンのカメラを向けていました。

今回振る舞われたメニューはこちらです。

・低温調理したメープルサーモン会津野菜添え
・佐藤さんのトマトとカワバタ軍鶏のスープ
・えごま豚のロースト 三五八のクルート会津野菜添え
・吉村さんのシルクスイートポテト 酒粕のクリーム 桃とネクタリンのドライフルーツ添え

ドリンクは、地域プロデュースに取り組む本田屋から、メニューに相応しい特別な1杯が用意されました。

・アルコール:福島県磐梯町 榮川酒造の純米大吟醸 會津龍が沢 夏ノ生酒
・ノンアルコール:本田屋本店のリンゴジュース 復古(レトロ)三兄弟(緋の衣)

地元の佐藤さんたちも「飲む機会がなかなかない」と語る1杯です。

サーブが進む中、二宮さんからは「コルビシェフの料理を召し上がる機会はあるんですか?」とおふたりに質問が。吉村さんは「昨年のオンラインの料理イベントでご一緒させていただいた時食べました。自分が作って、普段食べている野菜でも『こんな食べ方があるんだ!』とびっくりしましたね。我々生産者は、基本的にそのまま食べ、ひと手間をかけることがあまりないんですよ」とコルビさんの発送と食材への理解の深さに感服という様子。

我が子から「継がせてほしい」と言ってもらえる仕事にしたい お料理をいただきながらトークセッション

ばんだいジオファーマーズは3人で立ち上げられました。吉村さんは「農家は儲からない、大変といったイメージが強いです。東京の皆さんは、例えばキャベツをいくらで買いますか?」と質問。参加者から「158円くらい」と回答を受け、「磐梯では、道の駅でおじいちゃんおばあちゃんが100円くらいで売ったりしているんです。それでは僕らは食べていけない。ただ、消費者の方がお安いものを求めるのも分かりますから、いかに付加価値を高めていくかが大切だと考えています」と語りました。

「我が子に『儲かるから農業をやってみろよ』と言えるようにしたい。かっこいい仕事だと思ってもらえる仕事にしたい。」こうした吉村さんの発言に、佐藤さんも「継いでくれではなく、継がせてくれよと我が子から言われる仕事にしたいですよね」と言葉を継ぎました。

ここで、コルビさんが顔を覗かせます。「どうですか、おいしいですか?」と大きな声で話し掛けると、会場からは控えめな反応が。コルビさんは「声が足りないなあ」と首を傾げ、「おいしいですかー?」と再度声を掛けます。「おいしいですー!」の反応を得て、コルビさんは満足そうにうなずいていました。

佐藤さんのトマトを使ったスープについて、コルビさんのサポートを務めたMY Shokudo Hall & Kitchenの伊藤さんは「大玉トマトとねぎ、軍鶏、塩だけで作ったスープです。昨日から1時間おきに味見をさせていただいたのですが、どんどんうま味が濃縮されていって驚きました。煮込んでもトマトの美味しさがなくならないのはすごいことです」と説明。

佐藤さんは「栄養やうま味が中に閉じ込められているトマトだからこそですね。今日のスープは日本一栄養価の高いトマトスープだと思います。健康や美容にも直結しますよ」と語り、参加者は「美味しい」とうなずきながら舌鼓を打っていました。

「食べて美味しいと言ってもらえる様子に立ち会える機会はなかなかありません。モチベーションにつながりますね」と吉村さん。立ち込めるいい匂いに、「おなかが空きますね。僕らも早く食べたいです」と笑顔を見せました。

「交流機会を作り、ばんだいジオファーマーズの野菜の魅力を知ってもらいたい」今後のチャレンジ

雪が多く降る会津地方では、冬季に農作業を行うことができません。通年で野菜を提供できないため、消費者と接点を持つことがより大切になります。

ばんだいジオファーマーズではオンラインショップを運営しているほか、関東でのマルシェにも出店。現地での収穫体験も多数企画し、親子に土や野菜に触れる機会を提供しています。

「今後のチャレンジしたいことは?」という質問に、吉村さんは「セロリを作ってみたい」そうで、磐梯地域ではまだ誰も作っていない挑戦となります。佐藤さんは「秋野菜かな」と答えつつも、ばんだいジオファーマーズとしては「消費者のみなさんと交流を持てるシステムを構築したい」とも語りました。

さらに、吉村さんがチャレンジしたいことがもうひとつ。

「僕はイノシシハンターでもあるんです。イノシシというか、イノブタですね。浜通りで飼われていたブタが原発事故後に逃げて磐梯町のほうまでやってきて、野生のイノシシと繁殖してイノブタが増えまして、畑では獣害被害が出るようになりました。一夜で畑を掘り起こしてしまうので、守るために狩猟をしています。ただ、福島のジビエは出荷停止になっているため、食材としては提供できません。いまは全処分となっているんです。この状況を変えていきたいですね」

ジビエへの注目が徐々に盛り上がっている日本において、なんだかもったいないお話。まだまだ風評被害が続いていることを実感するエピソードでした。

食事は終盤、吉村さんのシルクスイートを使ったデザートに。厨房から戻ってきたコルビさんの「美味しいですか?」の問いかけから、デザートについての紹介が始まります。

「当初考えていたレシピでは砂糖を入れていたんですよ。でも試食してみて、入れる必要はないと判断しました。生クリームとバニラ、酒粕、さつまいもしか使っていません」とコルビさん。

吉村さんからは、「熱の入れ方で甘さが変わります。自宅で焼きいもを作るときには、炊飯器の玄米モードで水を半カップ入れ、じっくり熱を入れてください。または、アルミホイルを巻いてトースターに入れ、水なしで40~50分でもいいです。いもを選ぶときには、細くて小さめのものを。火が通りやすくておすすめです」と自宅で生かせるアドバイスもいただきました。

なごやかな雰囲気のまま質疑応答タイムに

コルビさんから「みんな美味しい、美味しいといってくれて嬉しいですね。でも美味しいだけじゃないでしょ? どなたかお話したい人はいませんか?」とリクエストを受け、ここからは質疑応答タイムに。

まずは福島出身の方から、「自分の出身地のメープルサーモンが出てきて嬉しかった。コルビさんが福島県の食材は世界で一番安全で美味しいと言ってくれたことも嬉しかったです。三五八は福島だと漬け床として使うので、こんな風になるんだと衝撃を受けました」と感想が寄せられます。続いて、「普通はトマトって煮込むほどに味が薄まるんですか?」と質問。コルビさんは「そうです。でも今回はいいトマトだから、冷凍したトマトをそのまま入れても味が薄くならないんです。『ブイヨンを入れました』と言ったらみんなが信じたくらい、味が濃いですよね。トマトペーストを入れたかのような濃厚なトマトのうま味になっている。私も驚きです」と佐藤さんのトマトの美味しさを称賛。

続いてマイクを渡された参加者からは、「普段は肉を食べがちで、野菜を食べるときはドレッシングやソースに頼っていました。今日のお野菜は本当に美味しくて、もう無心で食べました。ボキャブラリーが足りなくて美味しいしか言えずにすみません」とコメントがあり、登壇者の3人が大きくうなずく様子が見られました。

これからも美味しい野菜を作りたい

今夜もあっという間の1時間半。最後に、佐藤さんは「みなさんの『美味しい』という声や表情に触れられ、自信をいただきました。やってきてよかったなと思っています。ただ出荷するだけだと、私の手が離れた瞬間に終わってしまいますが、消費者の方と向き合うことで、美味しく栄養があるものを作らねばという気持ちになれます。これからも気を引き締め、自分を律しながら生産していきたいです」とメッセージを寄せてくれました。

続いて、コルビさんからは「福島にぜひ行ってください」との想いが伝えられました。46都道府県を巡ってきたコルビさんにとって、福島は不動の1位だといいます。「現地でトマトをバクバク食べました。皆さんにも、ぜひ現地に行ってもらいたいです」

最後にマイクを握るのは吉村さんです。

「もし風評被害がなければ、私はわざわざ個人名を出して生産していなかっただろうと思います。『最低限の品質を保っていればいいや』と思いながら野菜を作っていたかもしれません。もちろん、原発事故はない方がよかった。でも、事故があったことで磐梯を代表する農家を目指そうと考え方をチェンジできたことも事実だと思っています。本当に美味しいですよ、安全に作ってますよと伝えたいですし、またこうした機会があればイベントに参加していただけたらと思います」

コルビさん、吉村さん、佐藤さんの人柄もあり、笑いも交えながらなごやかな雰囲気で進んだ1時間半。知ることで、選ぶときの基準が“なんとなく”の産地や値段だけではないものに広がる。全3回のHAKKO RESTAURANTを通し、つくり手とつながる良さを実感していただけたのではないでしょうか。

>>「HAKKO MARUNOUCHI 2022 Spring」イベント概要はこちら

https://shokumaru.jp/hakkomarunouchi2022-sp/

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