【FOOD INSPIRATION】三國清三 #食の感性を育む

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“限りある資源の中で、豊かな食の多様性を次世代へ繋いでいく”そのための知恵や私たちが取り組むヒントを各分野のキーパーソンにインタビューする【FOOD INSPIRATION】。今回ご登場いただく三國清三さんの著書『ジャポニゼ』が、世界で唯一の料理本アワード「グルマン世界料理本大賞2020」で、「Gourmand World Cookbook Awards in the Hall of Fame」部門大賞を受賞しました。後世における規範となり、多方面から参照され、引用することが期待される傑作であるという評価を受けたのです。日本中の生産者を訪ね、5年の時をかけてつくられた、三國さんの料理人人生の集大成とも言える一冊。その取材の中で改めて見つめ直した日本の食、また、現在問題となっている食品ロスなどについて、神戸大学名誉教授、NPO法人「ごみじゃぱん」代表理事で日本の食品ロスの第一人者である石川雅紀さんとともに伺いました。 ※本記事は2020年1月に取材に行いました

日本で失われつつある食への感性。

味覚を育むことによって、「感性」が生まれる

2019年ラグビーワールドカップや2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問を務めるなど、日本の食を牽引する巨匠、三國清三さん。日本の食資源について、「例えば東京湾には7つの川が流れ込んでいますが、川は、森と海をつなぐ大切な存在です。森が豊かになり、冬に葉っぱが落ちて、それが発酵して栄養素が川に流れ、川がその栄養を海に届けて海を育てる。『ジャポニゼ』にも登場する気仙沼の牡蠣生産者・畠山重篤さんも『森は海の恋人』と言っています」。山を切り開き開発を行ったことで、日本で「海枯れ」が起き、日本の水産資源減少の一因になっていると話します。

また、以前から日本の食育にも取り組み、2000年から全国の小学校で味覚の教育を行っている三國さん。味覚を育むことによって生まれる「感性」が何より大切だと話します。「人間は8歳ごろに舌にある味蕾(みらい)が敏感になりはじめ、脳が完成する12歳で、味蕾は数万個にも達します。この味蕾が『甘い』『しょっぱい』『すっぱい』『苦い』『うま味』の五味を捉え、刺激として脳に伝えます。この味覚の刺激が、人間の五感、すなわち『感性』を目覚めさせるんですよ」。そしてこの「感性」が、今起きている様々な食にまつわる問題の根っこにあると語ります。

自分で判断する「感性」の欠落が、様々な食の問題へ

「私の故郷・北海道で、母が『あめてる』という言葉を教えてくれました。これは『腐っている』という意味で、食品の匂いを嗅いだり味を見たりして、その食品がまだ食べられるか捨てなければならないかを個々の『感性』で判断していたんですね。ですが、日本では『賞味期限』ができたことで、食品があめてるかどうかを判断する『感性』が失われてしまった」と三國さん。賞味期限はあくまでも「美味しく食べることができる期限」で、これを過ぎても悪くなっているとは限らない。それなのに、賞味期限を過ぎたら、匂いや味を見て判断することもなく、とにかく捨ててしまうようになってしまったのが問題だと話します。「賞味期限が定められているのは日本だけです。他の国はみな、自分の感性で食品の状態を判断していますよ(笑)」。

「たしかに、賞味期限は食品ロスの大きな原因になっていますね。ですが調査をしてみると、家庭で捨てられているものの4分の1は賞味期限内のものです。賞味期限から1週間程度のものを合わせると半分ほどにもなります。これは『もったいない』という気持ちが薄れているからで、食べ物に対する思い入れが弱くなっているのかもしれませんね」と石川さん。時間に追われる生活の中で、食べることで生活を見直し豊かにするという考え方が失われているのかもしれないと言います。「先ほど三國さんのお話に『森は海の恋人』という言葉がありました。食べるものにはそれを作る人がいて、そこには森や海があるということ。それが今日の食卓につながっているということを知れば、捨てなくなるのではないでしょうか」。

感謝するという感情、「もったいない」の心が大切

「石川さんのおっしゃる通り、食べ物をつくる生産者の苦労を知ったら、葉っぱ1枚でさえ捨てることはできません。私が言う『感性』は、『愛情』でもあります。生産者へ感謝するという『愛情』が育っていれば、捨てるなんてできませんよ。子供たちも生産者の元へ連れて行くと、嫌いな野菜が食べられるようになります。体験と、そこから生まれる感性・感情が大事なんです」。葉っぱ1枚捨てられないという三國さんは、店で出た端材などは賄いに使い、定休日の前日には余った食材をすべて調理して、これも賄いとして店のスタッフたちと食べているそう。「賞味期限がきたらとにかく捨てる」という感覚が若い料理人たちにも浸透している中、改めて「もったいない」を教育しています。

「青森で『奇跡のリンゴ』を作っている木村秋則さん、この方も『ジャポニゼ』で紹介していますが、この方のリンゴでスープを作っているお店が弘前市にあります。ここでは奇跡のリンゴを大切に使っていますが、芯と皮は使い切れずに捨てていた。私はそれさえももったいなくて、『パウダーにして使ったら』とアドバイスしたんですよ」と三國さん。現在ではそのパウダーを使ってお菓子も販売され、人気になっているそう。「もったいない」が食品ロスを減らし、新たなメニューの発見にもつながることを教えてくれました。

Profile
三國清三(みくに・きよみ)
1954年北海道増毛町生まれ。15歳で料理人を志し、札幌グランドホテルへ入社。その後、帝国ホテルで村上信夫氏のもと研鑽を積み、駐スイス日本大使館料理長を務める。その後、トロワグロ、オーベルジュ・ドュ・リル、ロアジス、アラン・シャペルといったのフランスの三ツ星レストランにて修業を重ね、1983年に帰国。1985年東京・四ッ谷にオテル・ドゥ・ミクニをオープン。2013年フランソワ・ラブレー大学にて名誉博士号を授与。2015年フランス共和国より、レジオン・ドヌール勲章シュバリエ受勲。2019年ラグビーワールドカップや2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問も務める。

「HÔTEL DE MIKUNI」
https://oui-mikuni.co.jp/

写真/橋本真美 文/河崎志乃