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EAT&LEADトークサロン 第7回「レストランに必要とされる『求められる力』」開催レポート

11月26日(火)、第7回「EAT&LEADトークサロン-食べることから学ぶ、生きる力-」が開催されました。テーマは「メディアの視点から語る、愛されるレストランにあるもの、求められるもの」。ファシリテーターをつとめるシェフの薬師神陸さんと、ゲストにお迎えした『婦人画報』『婦人画報デジタル』編集長の西原史さん、フードディレクターの山口繭子さんが「レストランに必要とされる『求められる力』」に思考めぐらせてパネルトークを展開しました。また、イベント後半には、会場の参加者を交えたワークショップも実施。当日のイベントレポートをお届けします。

パネルトークのアーカイブ動画公開中

パネルトーク:レストランに必要とされる「求められる力」

パネルトーク「メディアの視点から語る、愛されるレストランにあるもの、求められるもの」は、4つのトークテーマに沿って進行していきました。

4つのトークテーマ

  • パンデミック後に変化した私たちの食事の仕方、集い方
  • 昔から存在している=愛されている証拠
  • メディアが掲載したいと思う店とは?
  • 愛されるレストランとは?

まずはトークが始まる前に行った自己紹介を少しだけご紹介します。

「創刊は1905(明治38)年、今年で118年目になります。そんな婦人画報では『食』のコンテンツを大切にしてきました」。そう話すのは、ゲストの西原史さん。『婦人画報デジタル』の編集長に加え、2021年7月に雑誌『婦人画報』の編集長へ就任されたそうです。「たとえば、1960年代には京都の懐石料理店『辻留』の辻嘉一さんから料理を教えていただく連載が人気を博し、書籍化もされました。現在は、12年前から続く『婦人画報のお取り寄せ』がヒットコンテンツのひとつです」

もう1名のゲスト、山口繭子さんは『婦人画報』『ELLEグルメ』編集部を経て、2019年に独立。現在は編集の仕事も続けながら、フードディレクターとして幅広く活動しています。「退職後は時間ができたので『世界のベストレストラン50』を受賞した国内外のレストランをめぐり、様々なシェフと交流する機会を増やしてきました。コロナ中には、トーストのレシピ本を刊行した関係で『世界一受けたい授業』(日本テレビ)に出演させていただいたことも」。他にも、Baccarat(バカラ)のブック制作、御殿場のレストラン「Maison KEI」のオープニングのサポートをするなど、多彩なお仕事の事例をご紹介いただきました。

ファシリテーターの薬師神陸さんは、2020年12月に虎ノ門ヒルズにオープンしたフランス料理店「unis」のシェフ。unisはカウンター8席の“ハレの日のためのレストラン”です。また、ソーシャルキッチンを併設し、若手シェフたちの交流の場として、企業のプレス発表会や商品開発の場として、様々な人に開放していると言います。「私の店『unis』は週4日の営業です。空いた時間には食材探しの旅に出ることが多く、これまで日本全国700以上の生産者をめぐってきました。そこで出会ったすべてを料理に生かして、1.5カ月ごとに店のメニューをガラリと一新させています」

自己紹介が終わると、さっそくパネルトークがスタートしました。
1つ目のトークテーマは「パンデミック後に変化した私たちの食事の仕方、集い方」です。

口火を切ったのは、山口さんでした。普段、外食の多い生活をされている山口さんにとって、ステイホームによる影響は大きかったと言います。「コロナ中に買った一番高いものは、ワインセラーでした(笑)。毎日、家で食事するのも意外と楽しかったのですが、一方で、レストランの価値を改めて実感しましたね。レストランは食事を愉しむだけではなく、サービスや空間含めて『食』を体験できる唯一無二の場所なのです」

「私は、地方へ取材に行けなくなったのが悲しかった」と話すのは、西原さん。コロナ中は、心が“日本回帰”に傾いたそうです。「これまでは海外のレストランを取り上げる機会も多くありましたが、コロナを機に日本各地にある“わざわざ足を運ぶべき店”に目が向くように。以降は、日本のテロワールを味わいに行く、といった企画を組むことが増えました」

薬師神さんは、レストラン「unis」をオープンさせたのがコロナの真っ只中でした。それから3年が経ち、最近、ひとつ発見があったと話します。「お店の3年間の推移を振り返ってみたところ、コロナ中よりコロナ後の方が客単価が下がったことがわかりました。外食できる喜びが大きかったコロナ中に対し、今は外食の頻度が増えたため、1食にかけるお金が減ったのかもしれませんね」

続いて、2つ目のトークテーマは「昔から存在している=愛されている証拠」。
西原さんが1985年から2023年までの『婦人画報』を遡り、これまでどのようにレストランを取り上げてきたのかをひも解いていきました。

「80年代は、外食よりも“料理のプロに教わって、家で作る”といった企画がほとんどでした。それが変化するのは87年頃からで、クリスマスディナーなど“晴れの日は外食を”といった記事が増えていきます。90年代は加速度的に外食文化が豊かになり、2000年代になるとグラン・メゾンからデパ地下まで、あらゆるジャンルのおいしいものが手軽に味わえる時代になりました。婦人画報2002年11月号の特集は、テイクアウトも手掛ける有名シェフを取り上げた『東京の食事情を変えた9人の“ブランドシェフ”』。その冒頭文を読み上げれば『和仏中伊、東京では「各国料理の最新の形が見える」と訪れる外国人たちが口を揃えて言う』と書かれています」(西原さん)。その後、2013年11月号の特集「世界が驚いた!日本のフレンチ80」では日本のフレンチの多様性を浮き彫りにし、2020年6月号ではシェフの小林圭さんを特集したそうです。パリに店を構える小林圭さんは、ミシュランの本場でアジア人初となる三つ星を獲得。この頃から、世界で活躍する日本人シェフたちにも注目が集まるようになりました。

「小林圭さんには、2021年7月号から2年にわたって連載もご一緒いただきました。婦人画報では『食』をテーマにした連載もずっとつくってきましたが、今回、過去を振り返ってみて気づいたことがあります。かつて雑誌の後方のページに載っていた食の連載が、2008年から巻頭を飾るように。2008年頃は『食』が1つの総合文化として認められ、地位が高まった時期といえるのかもしれません。現在は京都・祇園にある『割烹 八寸』の連載を行っていますが、こちらは50年以上前にお父様が創業したお店を息子さんが受け継いだお店で、特に“新奇さ”はありません。しかし、まさに“愛されているお店”だからこそ、連載をお願いしています」(西原さん)。“2008年頃”については、薬師神さんが「2007年末に『ミシュランガイド東京』が創刊され、レストラン業界が活気づいていた頃だったと思う」とコメントしました。

どの時代にも新しい店が生まれ、一過性のブームとして消えゆくもの、人々の支持を集めて定着するもの、その積み重ねによって東京の食文化は成熟してきたのかもしれません。山口さんによれば「お弁当屋さんからレストランまで、現在、日本の飲食店数は約80万軒。そのうち東京には約19万軒ある」とか。競争の激しい東京で、愛されるレストランを育てるべく奮闘するシェフたちがこの先も新たな時代を築いていきます。

3つ目のトークテーマは「メディアが掲載したいと思う店とは?」

「雑誌の場合は、どうしても“新店”や“リニューアル店”を掲載することが多くなります。でも編集者としては、そのレストランにしかないストーリーがあれば、メディアに載せて魅力を広く伝えたい!と思います」と話すのは、山口さん。さらに「薬師神さんのお店が掲げる“ハレの日のためのレストラン”は、他にはないコンセプトですよね」と言葉を添えます。

「フランス料理店はお祝いの日に利用する人が多いので、あえて“ハレの日”をうたいました」。そう応える薬師神さんは「結果として成功だった」と話します。「たとえば予約困難店の場合、予約を他人に譲る人、席が取れたから“行きたい人”を募ってくる人なども多いのですが、ハレの日のレストランには親しい人としか訪れません。ご夫婦やカップル、お友達など、親しい人とお祝いをしに来ていただくお店は心地良い空間になり、スタッフも幸せな気持ちで働けます」

西原さんは、婦人画報に掲載する判断基準は「本物を知っていて、知的好奇心が高い人」という読者に満足してもらえるかどうかが一番だと言います。「あと、編集者のトキメキに任せている部分もあります。現在連載している八寸さんの場合、きっかけは私がお店を訪れたことでした。現在は息子さんが大将をつとめていますが、お父様が修業されていたお店のメニューをそのまま出しているとおっしゃるのです。でも、変わらないように見せかけて、少しずつ変えている、とも。それは一体どういうことだろう、解き明かしたいという思いのもと、連載を始めました」

最後のトークテーマは「愛されるレストランとは?」

必ずしも「予約の取れない人気店」がそうとも限らない、と言うのは山口さん。「シェフの中には、“予約の取れない店”はつくれる、という人がいます。極端に席数を少なくするとか、ニッチなファンがいる特定のメニューに絞るなど方法はいろいろあると思いますが、その店を長くやり続けたいのかといえば話は別ですよね。“愛される店”の人気は作為的につくったものではなく、日々の営みの先に自然とついてきた評価。しっかりとしたコンセプトを持ち、それを端的に表現し、きちんと伝えられているかということが大切だと思います」

西原さんは、また訪れたいと思う何かがあるお店、と話します。「最近、ウェブメディアではトラフィックを追求する時代は終わっていて、重視するのはロイヤリティです。婦人画報デジタルも何度も訪れたくなるコンテンツづくりを目指していますが、それはレストランにも同じことが言えるのではないでしょうか。料理はオンライン上では食べられないので、お店に足を運ぶしかありません。何度でも通いたくなり、行けば期待は裏切られない、といったことが”愛されること”につながるのだと思います」

最後に薬師神さんのコメントをお届けします。「unisは“ハレの日のためのレストラン”ですが、たとえば奥様の誕生日でお越しいただいた方は『今度は主人の誕生日にまた来ます』といった風に、帰り際に次回のご予約を取っていかれる方も多いですね。今まで、“長く愛されるレストラン”と聞くと“ずっと変わらない”というイメージを持っていましたが、今日お話を聞いていたら変化を恐れる必要はないと思いました。次、訪れた時にまた新たな感動に出会えるよう、変化し続けるレストランをつくっていきたいです」

ワークショップ:自分のコンセプトのヒントを見つける

イベント後半は、ワークショップの時間です。
参加者の方々に、まずは以下の質問事項に対する回答をカードに記入していただきます。

質問事項

  1. あなたが好きなレストランを教えてください(できるだけ具体名をあげてください)
  2. どんなところが好きですか? 好きな部分を3つあげてください
  3. 2.の3つを通して見えてきたこと、特に大切にしている点を書いてください

カードへの記入が終わったら、テーブルごとに1人ずつ回答を発表していきます。 参加者は4つのテーブルに分かれて座り、各テーブルにはファシリテーターの薬師神さん、ゲストの西原さんと山口さん、EAT&LEADプロジェクトプロデューサーの井上友美が同席、進行役をつとめました。

そしてテーブル内で全員の発表が終わったら、今度は指名された数名が会場の全員に向けて発表を行いました。
ここでは3名のコメントをご紹介します。

「好きなお店は、三軒茶屋のイタリアン『ナティーボ』です。理由の1つ目は、お店の佇まいやインテリアが心地良いこと。私はインテリア関係の仕事をしているため、真っ先に内装が気になってしまいます。2つ目はカウンターキッチン。料理をされている方の手元が見え、ライブ感もあって楽しいです。最後に好きなところは、トイレ。どんなお店に訪れても必ずトイレチェックをしてしまうのですが、店内の雰囲気とトイレの内装のバランスが悪いとなんだか急に興ざめします。私が好きなお店とは、自分のセンスを満たしてくれる空間で美味しいお料理をいただける場所なのだと思います」

「私は池袋の『やおら料理店』を挙げさせていただきます。好きな理由の1つ目は、安定の味。私もシェフをしているので、もちろん最新の調理法や美しい盛り付けにも関心はありますが、プライベートで行くならホッとできる場所が良い。ここは、いつ訪れても同じ美味しさが味わえます。2つ目は、シェフのお人柄。こちらのシェフは私がシェフになって間もない頃からお世話になっている方で、仕事のことで悩んだ時も相談できる存在なのです。もう1つは、お野菜、お魚、お肉がバランスよく食べられること。シェフは体が資本の仕事で、常にベストな状態で高いパフォーマンスを発揮したいという思いがあります。やはり食べることは体を作ることでもありますよね。やおら料理店に行った翌日は、心も体も楽になっています」

 「好きなお店は2軒あります。1軒目は『中目黒ビストロ ボレロ』で、結婚する前に妻と2人で週一ペースで行っていました。もう1軒は、最近閉店してしまったのですが、学生時代に通っていた定食屋のマリオです。最初はどちらか1軒に絞った方が良いかと悩みましたが、よく考えたら好きな理由は共通していました。1つ目の理由は、思い出に残っている場所。味だけではなく、場所への思い入れが強くあります。2つ目は“隠れ家感”というか、自分だけが知っている場所だということ。有名な人気店より、路地にある小さな店の方が好きなのです。3つ目は、店主のキャラクターが明るく気さくで、食べている間もすごく楽しいこと。これら3つから見えてくることといえば、“サードプレイス感”でしょうか。家ではないけど、自分にとっての落ち着く居場所をお店に求めているのだと思います」

──“愛するお店”は人それぞれ。このワークショップを通じて、初めて「心を捉えるのはどんな店か」と自らに問いかけ、新たな自分を知る機会になった人もいるようです。

「シェフって、アーティストであり、アスリートであり、道を極める人であり、素晴らしいお仕事だと思います。そんなシェフのお仕事の最後の1ピースを体験できるのが、レストランという場。いくら世の中の技術が発達しても、レストランはわざわざ足を運ばない限り、体験することはできません。私たちはメディアとして、素敵なシェフのお仕事と読者をつなげられるよう、日々アンテナを高く張っています」。そんな西原さんのメッセージがとともに、第7回「EAT&LEADトークサロン」は幕を閉じました。

撮影/佐野 学

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