食にまつわる課題を美味しく考える夜「HAKKO RESTAURANT」vol.1「海辺の風土が育む、料理とものがたりfeat.海のレシピプロジェクト」レポート

vol.1のゲストは梅原陣之輔さん・浅利妙峰さん・青柳拓次さん

第1回は体験型レシピメディア「海のレシピプロジェクト(https://uminorecipe.jp/)」との連携企画。日本財団が推進する「海と日本プロジェクト」は、全国の海の現状を自分事化してもらうことを目標に活動しています。その海のレシピプロジェクトにも参加している3名をゲストに迎え、美味しく、楽しく、食にまつわる課題に考えていきます。

料理を作っていただいたのは、八雲茶寮総料理長、FOOD NIPPON代表の梅原陣之輔さん。日本の風土が育んだ素材や郷土料理などの工夫や知恵を生かした料理を身上とする料理家で、2006年、大分県のレストラン型アンテナショップ「坐来 大分」(東京・銀座)の総料理長に就任し、現在も顧問を務めます。今回の料理のポイントとなる発酵食は、リモートでの参加となった大分県佐伯市にある「糀屋本店」9代目で“こうじ屋ウーマン”の異名を持つ浅利妙峰さんが手掛けたもの。糀文化の普及と伝承のため、イベント参加や執筆など意欲的に活動しています。そしてイベントに美しい歌声で華を添えるのは、音楽ユニット「LITTLE CREATURES」で活動しつつ、国内外の舞台音楽も多数手掛けている青柳拓次さんも登場。

トークセッションに先駆けて、海のレシピプロジェクト実行委員の青木佑子さんによる挨拶が行われました。

「当初イベントが予定されていた2月から3月の2か月間、ここMY Shokudo Hall & KitchenのみそスープBARにて、発酵料理で味わう大分の里山里海というコンセプトで『海のレシピプロジェクト』のコラボメニューを提供しました。梅原さんに監修していただいたのですが、とても美味しくて好評で。公式サイトでも梅原さん監修の料理レシピと浅利さんから教えていただいた本を紹介しています。今回のようなイベントやWEBサイトで、料理家さんや生産者さんたちの食や海に対する想いをお伝えすることで、皆さんと一緒に海の未来について考えるきっかけになればと思っています」

続いては、青柳拓次さんによる生演奏です。曲は、「海は広いな」の歌い出しで有名な童謡の「海」。ギターに乗せられた温かい歌声に包まれ、会場は穏やかな雰囲気に。浅利さんは懐かしむように感想を口にしました。

「いい歌ですよね。誰もが歌った覚えがあって、聴いて海のさざ波と情景が心に広がっていったと思います」(浅利さん)

イベントの幕分けを祝うようにサーブされたのが「大分県の食材に触れる、里山里海ショートコース」。今回のゲストである梅原さんと浅利さんは、ともに大分県出身。大分の素材の良さを知り尽くしたお二人によるアイデアが詰まった品々が並びます。

気になるコースの内容は「佐伯ぶり“りゅうきゅう”こうじ納豆添え」、「原木しいたけとめぶとの南蛮漬け 初夏野菜を添えて」、「とり飯とひじきの小むすび」、「ごま出汁うどん」、「抹茶のブランマンジェ 糀あずき」、そして飲み物は焼酎(毛利)ソーダ、もしくは大場煎茶のどちらか1つをお好みで。

「“りゅうきゅう”は沖縄から漁法とともに伝わった漬けにする郷土料理です。糀屋さんのこうじ納豆と軽く和えながらお召し上がりください。新茶の時期ですので、デザートはブラマンジュを用意しました。糀屋本店さんの糀でゆでて、一緒に寝かせて発酵させた小豆を添えてあります」(梅原さん)

「南蛮漬けに使っている“めぶ”とは、全国名称ではケンジクダイと言いまして、小さな魚です。今が旬ですがあまり流通しておらず、東京ではなかなか召し上がれないので、お楽しみいただければと思います。ごま出汁うどんも佐伯の郷土料理の1つで、魚を焼いて調味料と合わせてペーストにしたものをのせたうどんです」

参加者のみなさんは、料理が運ばれるたびに、興味深いまなざしを向けたり、湯気に乗せられた香りを嗅いだり…。まさに五感を使って楽しんでいらっしゃるようでした。

海辺の風土を守るために私たちができること

参加者のみなさんは料理をいただきながら、梅原さんと浅利さんが登壇するトークセッションに耳を傾けます。テーマは、「海辺の風土を守るために私たちができること」。お二人にとって海はどのような存在なのでしょうか?

「私たちのご先祖様は瀬戸内の水軍でした。島津に加勢したことがきっかけで現在の大分県の佐伯の地に移り住んだため、私たちにはうみんちゅの血が流れているのです。江戸時代の海は、現代で言うところの高速道路。人や物だけでなく、日本各地の情報を運んでくれる重要なもの。今でも佐伯の人は別の地域から来た人を見つければ、『ちょっとお茶飲まん? 話聞かせて?』というような感じで、オープンハートの方が多いですね」(浅利さん)

「私は大分でも九州の真ん中の日田という盆地の出身で、山に囲まれたところなので、海は憧れです。食文化でいえば塩蔵ものと干した魚の文化ですね。お盆に食べる“たらおさ”という郷土料理があるのですが、タラの身を干したもの。先祖を敬うという文化が残っている土地なので、私にとって“たらおさ”が海の思い出ですね」(梅原さん)

同じ大分県でも海辺の出身と山間部の出身になる浅利さんと梅原さん。しかし「海も山も切り離された存在ではないんですよ」と浅利さん。

「毛利のお殿様は治山治水といって『山が豊かであるから海が豊かである』と考えていました。山から流れてくるプランクトンが豊富に含まれたその土から海が豊かになっていくということだと思っています」(浅利さん)

「大分にはさまざまな海岸線があります。北部には平地があってエビが安定的にたくさん採れます。臼杵市はフグ、佐賀関は関サバが有名で、佐伯市はリアス式なので魚類が豊富。海の幸が豊かなのは、山のおかげでもあるんですね」(梅原さん)

海と山の繋がり。海に囲まれ、山も多い日本という国だからこそ実感できそうなものなのに、言われないとなかなか気付けないこと。山が豊かだからこそ、美味しい魚が獲れるということなんですよね。では、そんな美味しい魚を、さらに美味しくするアイデアとは?

「塩糀をぜひ魚料理に使ってみてください。塩糀には水分を引き出してくれる作用があります。塩糀に魚を漬けておくと水分が出てくるので、抜けた時点で冷凍すれば美味しさそのままに冷凍できます。必要なときに戻してフライや煮つけにするなど使い方はいろいろ」

「魚の身をほぐしてトースターやオーブンで焼いてごま出汁にしてみるとか、好きな調味料の中に入れて保存をしてパスタにするなどのアレンジを試すと、魚の新しい魅力に気付けます」

決して難しいことではなく、家に帰ってすぐにでも試せるテクニック。こうじ屋ウーマンらしい手法に大きくうなずく参加者の姿も。梅原さんのアイデアもまた、魚の楽しみ方の引き出しを1つ増やすきっかけになったでしょう。会場の参加者のみなさんに挙手を求めたところ、多くの方が週に3回以上は魚を食べているとのこと。意外に多い(?)ことに驚きつつも、美味しい魚が住む場所である海が、乱獲による資源の枯渇や環境汚染など、穏やかではない課題を抱えていることにお二人とも危機感を持っているそう。

「料理人として、持続可能な海への取り組みを何か支援できないか、生産者の方や流通業の方と一緒に勉強会を行っています。環境にちゃんと配慮した食材を、どのように価値を付けて提供していくかということを考える時代に入ってきていることは間違いありません」(梅原さん)

「山と海の間には私たちが住んでいる里があります。里で暮らし、自然の恵みを享受している私たちこそ、海、山、里を守ることを学んで実践していくという時代が来ているのかと思います」(浅利さん)

ゲスト2名の口調は冷静ではあるものの、意志の固さを感じるものがありました。

海への思い出を語り合うトークタイム

イベントも終盤に近づいたところで、青柳さんが再登壇。最新ソロアルバム『輝板』から「波」、前作『まわし飲み』から「銀の月の下で」といった海にまつわる曲が披露され会場はまた癒しの空間に。

そして青柳さんが海のレシピプロジェクトと共に取材で関わり曲のアレンジをした、思い入れのある長崎県五島市の民謡「五島ハイヤ節」。歌い手がいなくなったこの民謡を追って旅した青柳さんの姿を収めた動画も同時に上映されました。動画の中には、鮮やかな緑の山々に囲まれた海の風景、活気ある漁の風景、海や山で暮らすカニや鳥などの生き物が映し出され、青柳さんの歌声と相まって、ここが東京であるということを忘れてしまうくらい。自然と体を揺らす参加者は、きっと優しい波に揺れている気分だったに違いありません。歌い終わった後の青柳さんは、大きな拍手に包まれ、はにかむような笑顔に。

会場の一体感がリモートで大分県から参加する浅利さんにも伝わったようで、「小舟に乗ってゆらゆら揺れながら海の上にいるような、そんな懐かしい体験をさせていただきました」と目を細めてらっしゃいました。

きっと、歌を聞いていた人それぞれが、思い思いの“海”を思い浮かべていたはず。

「海なし県で生まれたこともあり、海を見るともっと遠くに行けるような気がしていた」「ギリシャ旅行に行ったとき、エーゲ海の美しさに魅了されました」
「以前の職場に勤めていたとき、コロナ禍で懇親会ができずさみしい思いをしましたが、上司が海釣りに誘ってくれました」
「親戚が全員四国にいるため、刺身といえば叔父が朝に瀬戸内海で釣ったヒラメでした。今となったら贅沢だと思います」

これらのコメントは会場の参加者から集めた「海の思い出」。その場面が思い浮かぶような詩的なものや、誰もが共感できそうな楽しい海の思い出など、日本国内から海外での体験まで幅広いエピソードが寄せられました。

その中で「光る水平線、まれびと」と書いたのは梅原さん。

「光る水平線を見て、すごくワクワクしていた思い出があります。『まれびと』はあの世から来る人を指すこともありますが、どちらかといえば浅利さんの言っていたように、新しい文化を運んでくるという意味ですね」(梅原さん)

青柳さんは「沖縄久高島の手つかずの海岸で、大昔の動物たちと同じ景色を見たような気になったこと」と書きました。

「久高島は神々の島といわれるところで、海岸の石ころ1つ持ち帰ってはいけない。原始の海とほとんど変わっていないのではないかという感覚になりました」

名残惜しい雰囲気が漂う中、イベントも終了の時間に…。ゲスト3名の振り返りの言葉で締めくくります。

「すべての命は海から生まれる。ルーツとなっている海をいかにきれいに残していくか、突き詰めて考え、みんなで手をつないで守っていく。みんなで手を上げれば高波が続いて大きなうねりになる。今日の会にはそんな雰囲気を感じました」(浅利さん)

「消費者のニーズを取り入れながら、少しでもいい商品や未来を創ろうと思っている生産者はたくさんいます。できればそういった方々とつながっていただいて、ともに海と食に良い未来を築いていけたらと思います」(梅原さん)

「僕は普段、音楽ばかりやっているので、何でも音楽家として見ているところがあります。食の専門の方々の目線が理にかなっていて、そういった方の視点で環境を知るということがすごく新鮮でした」(青柳さん)

大分の食材を中心とした里山里海のショートコースを味わいながら、生演奏の音楽を聴き、トークセッションで海のこと身近に感じられた本イベント。都会の喧騒を忘れて五感で楽しめる時間となり、心なしか帰り際の参加者のみなさんの表情も柔らかくなっていたように感じました。

>>「HAKKO MARUNOUCHI 2022 Spring」イベント概要はこちら

https://shokumaru.jp/hakkomarunouchi2022-sp/