【FOOD INSPIRATION】鳥羽周作 #新しいレストランのカタチ
気鋭のシェフが丸の内で挑む、新たなカルチャー
多くのお客様と料理、各地の職人をつなぐプラットフォーム
「『o/sio』をはじめとする私の店は、sioのイズム(主義)を表現するための場所なんです。sioのイズムとは、まず当たり前に料理が美味しいこと。そして料理以外の全てにもこだわること。お客様に使っていただくおしぼりや、食器、音楽、空気感。その全てにこだわってこそ感度の高いお客様が集まり、レストランのあるべき姿が完成するんです」と鳥羽さん。そんな思いのもとオープンさせた「o/sio」には、オープン1カ月で1日に約160人のお客様が訪れるようになったそう。「丸の内は東京駅に近いこともあり、多くの人が行き交うエリアです。ここで20,000円のコースを出すのではなく、6,000円前後で気軽に利用できる店を出し、多くのお客様を集めることがポイントです」。
今求められているのは、食材が高級、というようなことではなく、心地の良さという「体感」だと語る鳥羽さん。そのために料理だけではなく、備品や雰囲気にもこだわり、店全体を一つのコンテンツとして作り上げています。お客様用に出している「IKEUCHI ORGANIC」のおしぼりは、コストはかかるものの一度触れれば忘れられなくなるほどの使い心地の良さ。そういった日本の優れた品に触れてもらい、その体験を持ち帰ってもらう。そうやって日本各地の職人や地域と丸の内の人をつなぐ、プラットフォームの役割も果たしています。
「私の目標の一つは、より多くの人に幸せになってもらうこと。いくらの料理を出すか、いくら儲けるかが一番の目標ではありません。ですから、『o/sio』の1,000円のランチも、『sio』の20,000円のコースも、区別して考えたことはありません。1,000円の唐揚げ定食にも、どんな料理にも、全身全霊で取り組んでいる。それもsioのイズムですね」。そんな「o/sio」の人気に火をつけたのは、「ナポリタン」。材料は全て一般の家庭でも買えるものを使いながら、生クリームとバターでアルデンテの麺を保湿して、ソースがよく絡むようにするというプロの仕事で仕上げています。「見た目は銀皿に乗った懐かしいナポリタンですが、食べると全く違う。値段ではなくて、そういったことが料理人の仕事だと思うんですよね」。
本質的なものこそが根付き、カルチャーになる
「o/sio」で洋食や定食を出すのは、皆が好きなものだからと言う鳥羽さん。誰もが好きな「本質的なもの」をレストランシェフである自分がアップデートし、スタイルとして表明すれば、それが根付いてカルチャーになるはずだと語ります。「丸の内に新たな食のカルチャーを作りたい。それが『o/sio』の目標です。昼は丸の内で働いても夜や休日は別の街で食事をする人、今まで丸の内で食事をしたことがない人にも、『o/sio』で食べるために丸の内に足を運んでほしい。そのために私はここで、sioのイズムを表現しています」。
この先はさらに店舗を増やし、5年で100億円規模の会社にすることが目標だそう。「日本の各地に店舗を展開し、sioのイズムに触れて欲しいと思っています。まずお客様には当たり前に美味しい料理と、心地よい体感を味わってもらうこと。そして、食品ロスなどの取り組みも料理人として当然やっていることですから、同じ姿勢を持った店の数が増えれば、社会への貢献も大きくなります。余った食材をグループ内の他店舗で活用することもできます。さらに、人材や教育の問題も、将来アカデミーを作って対応し、sioのイズムを継承する店を増やしていきたいですね」と語る鳥羽さん。次々と新たなカルチャーを発信するsioの、今後のさらなる展開に期待が高まります。
Profile
鳥羽周作(とば・しゅうさく)
1978年生まれ、埼玉県出身。Jリーグの練習生、小学校の教員を経て、32歳で料理人の道へ。神楽坂「DIRITTO」、青山「Florilege」で修業を積んだのちに、恵比寿の「Aria di Tacubo」でスーシェフに。2016年3月より代々木上原「Gris」のシェフ、その後、同店のオーナーシェフとなり「sio」としてリニューアルオープン。