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SUSTABLE2024 vol.2【脱炭素につながる 海と山の幸~バイオ炭による土壌改善、昆布養殖による海の再生~】開催レポート

SUSTABLE(サステーブル)2024~未来を変えるひとくち~第2回
9月11日(水)に開催されました。

 食従事者と消費者をつなぎ、未来の食卓に変化を起こす「SUSTABLE(サステーブル)2024」。

 第2回のテーマは、「食とカーボンニュートラル(脱炭素)」です。最近ニュースなどで、脱炭素という言葉をよく耳にするようになったと感じている方も多いかと思いますが、脱炭素と食が密接に関わり合っていることをご存じでしょうか?今回は、海の再生を促す昆布と土壌微生物を定着させたバイオ炭を肥料に育てられた有機野菜を題材に、食とカーボンニュートラル(脱炭素)について、4名のゲストとともに考えました。

【第2回ゲストの皆様(順不同)】
◆幸海ヒーローズ 代表 富本 龍徳 様
◆株式会社TOWING 取締役 COO 木村 俊介 様
◆サローネグループ 統括料理長 樋口 敬洋 様
◆byebyeblues TOKYO 料理長 永島 義国 様

【ファシリテーター】
◆ハーチ株式会社 代表取締役 加藤 佑様

 イベント冒頭では、ファシリテーターの加藤氏が食と気候変動・カーボンニュートラルがどのように関わっているのかと、食の分野における国内外の動向及び最新の取組み事例を解説しました。加藤氏が代表を務めるハーチ株式会社は社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」をはじめ、サステナビリティ領域のデジタルメディアを多数運営しています。

 現在進行形で世界で起こっている気候変動。ここ日本においても、CO2及びメタンの月平均濃度が継続的に上昇、気温上昇に至っては世界の2倍の速度で上昇しており、日本は世界の中でも気候変動の影響をかなり受けている国だといわれています。加藤氏は、その中でも食糧システムが世界の温室効果ガス排出量の34%を占めているといいます。同時に、気候変動による食糧システムへの悪影響も発生しており、「漁獲量などへの影響や、異常気象の頻発による、農作物への被害、根本的な部分での土壌の栄養や窒素循環への影響、さらには生態系全体に及ぼす影響を考える必要がある」と指摘します。

 そこで注目されるのが、今回のテーマである脱炭素。まず初めに、加藤氏は「脱炭素と聞くと炭素の排出を完全にゼロにするというイメージを持ちそうですが、実際は、炭素の排出分から吸収分を引いてゼロにしようという話になります。ここで、無視してはいけないのが『炭素は敵なのか?』という疑問です。実は、気候危機は、我々の炭素循環の崩壊の結果であり、炭素が間違ったところにあるのが問題で、炭素を排出するか吸収するかという二項対立ではないというのがポイントです」と脱炭素の意味を説明しました。

 炭素は生態系の中で循環している原子で、人間の体も、50%が炭素原子からできています。つまり、人間も炭素循環の一部として位置しているということになります。「脱炭素と聞くと遠い話に聞こえるが、人間も炭素循環の一部であり、身近なもの」と加藤氏。「食と炭素を考えるときに、自分がどこにある炭素を取り入れていくのかと考えると、プラントベースを選ぶ意味などもわかってくる」と思考のヒントを伝えました。

 炭素が身近になったところで「今の炭素循環は何が問題なのか?」というと、大気中に残留してしまっていることが問題だといいます。これらの炭素をどうやって本来あるべき場所に戻し炭素循環を促進していくのかというところで、ブルーカーボンやグリーンカーボンなど様々なソリューションが注目されています。

 最後に加藤氏は、具体的な脱炭素の事例として、スウェーデンのスーパーの、CO2の予算で買い物をするキャンペーンを紹介した上で、実際に一人ひとりが食の分野でできるアクションとして、地産地消、シカ肉・猪肉などのジビエ、菜食、自産自消などを上げました。「『Eating is voting(食べることは未来への投票)。』こういった比較的わかりやすくトライしやすいアクションに大きなインパクトがあり、一人ひとりの小さな意識と努力の積み重ねで、大きなインパクトを出していけるのではないでしょうか?」と会場に投げかけました。

 続くゲストトークのトップバッターは、環境再生型の昆布養殖により、ブルーカーボン(二酸化炭素吸収源確保)や生物多様性の維持に貢献されている幸海ヒーローズ代表の富本氏。たまたま、秋田物産で出会った人に昆布の環境貢献の大きさについて聞いたことをきっかけに、昆布養殖業界に飛び込んだ富本氏は、実際に現場を見ると、磯焼けの深刻さに衝撃を受けたと言います。「陸地の砂漠化が問題になっているが、海の砂漠化が日本全国各地で進んでいる。海藻がないと言うことは、酸素の供給源もなく、魚の餌になるプランクトンも生息できない」と海の課題を伝えました。

 昆布は食べるだけではなく、ブルーカーボンとして、森のグリーンカーボンに代表される杉の木の約5倍ほどのCO2を吸収するといわれています。また、農業と比較して、肥料を与える必要もなく、汚染も起こさないこともポイントです。さらに、漁師の副収入にもつながるという点で、「ソーシャル領域は、儲からないというイメージがあり、一緒に取り組んでくれる漁師さんたちもなかなか手が上がりづらいのですが、海藻は海が育ててくれるのである意味漁師さんたちは寝転がりながらでも社会貢献ができているんです」と富本氏。そんな漁師さんたちのコンブを利活用してできたイベントや商品の出口戦略、今回のこのサステーブルのように活動に協力・応援をしてくださる企業さんやコンブの商品を購入してくださる一般の方々、この僕たちのコンブの事業は関わってくださっている皆さんが自然とソーシャルな活動をWIN-WIN-WINの関係で構築できているところを気に入っていると話しました。

 加えて、幸海ヒーローズは、漁師のもう1つの副収入としてブルーカーボンクレジットの仕組みも取り入れています。企業は幸海ヒーローズのカーボンクレジットを購入することで、どうしても企業努力のみで削減できないCO2排出量を相殺(カーボン・オフセット)できるという仕組みです。その他にも、昆布湯のイベントや、使用後もミネラル豊富な昆布を堆肥化し育てたお茶を使った昆布茶ジェラートの製作など、他社とも連携し、幅広く取り組みを広げている幸海ヒーローズ。富本氏は最後に「今後も、昆布養殖によるブルーカーボン、海の再生に向けた取り組みを国内外に広げていくため、挑戦を続けていきます」と熱い想いを込め、トークを終えました。

 続いて、TOWING取締役COO木村氏が「サステナブルな次世代農業を起点とする超循環社会を実現する」をミッションに、地域で大量に廃棄されている有機物を良質な肥料や高機能バイオ「宙炭(そらたん)」により、農業における脱炭素とサステナブルな食糧生産システムの構築を目指す取り組みを紹介しました。

 まず、木村氏は「現在の食事は『生活を豊かにし未来を削っている』と言われており、地球温暖化、土壌劣化、といった過酷な環境の中で人口増加により、食糧の増産を目指す必要がある」と食糧における課題を改めて振り返りました。そのため、石油やリン鉱石から作られる化学肥料を使った農業から有機肥料を活用する農業に移行する必要がありますが、有機農地の面積比は世界1位であるイタリアの16%に比べ、日本は0.6%に留まるといいます。「国は進めようとしているが、現場レベルではなかなか進まない。有機農業は化学肥料を使った農業と比較し、コストは一緒でも収量が減ってしまうため、やらないという判断になりがち。さらに、土づくりに5年かかるというところもネックになっている」と木村氏は、有機農業が広まらない背景にある課題を指摘しました。

 そこで、TOWINGが開発したのが、その土地ローカルの土壌微生物を炭に付着させ、有機肥料にする方法です。日本酒の糖化とアルコール発酵を同時に起こす「並行複発酵」という発酵技法を応用することで、良い土壌に住む多種多様な微生物群をバイオ炭の中で共存させることに成功しました。これは、欧米のビールやワインなどの一次発酵とは異なり、日本酒の二次発酵ならではの着想といいます。「5年かけて作った土よりも8倍良い土が1か月ででき、作物の苦味も減るということがデータで示されています。また、農地に入れた炭はそのまま100年は残るため、元々その土地で光合成してきた農作物や農作物の残渣を炭にし農地に入れることで、光合成で回収した二酸化炭素を土に固定できるというメカニズムになっています」と続けました。

 「宙炭をつくるプラントの運用と販売、カーボンクレジットや宙炭を使って育てた作物の販売といったEnd to Endのビジネスモデルを描くことによって、比較的縦割りの業界の中でも、横をつなぐことによって、キャッシュポイントを多角化しています」と木村氏。実際に今では全国36都道府県で導入実績があり、アメリカやブラジルなどにも事業を拡大しているといいます。

 脱炭素という環境面だけでなく、社会面でも漁業者や農業従事者の収入増などの良い影響を創出している、幸海ヒーローズとTOWING。加藤氏は活動を広めていく際に大切にしていることを二人に尋ねました。「単に環境に良いといっても漁師さんにはなかなか伝わらず『どうやって儲かるの?』と言うところから話が始まった。自分たちのやってきたことを見える化したことで、だいぶコミュニケーションが柔らかくなった」と富本氏。木村氏は「生産者の方々からは『ちゃんと自分たちで農業をやっているのか?』と聞かれることがよくあり、自分たちでしっかり実践していることが大事。初期段階は難しさもあったが、経済的にきちんと生産者の皆さんが恩恵を享受できるような仕組みを作り、見える化していくことが重要だと感じています」と話しました。

 さて、香ばしい出汁の香りがふわっと会場に広がり、華やかな食事が揃いました。待望の試食タイムのスタートです。今回は、東京・横浜・大阪でイタリアンレストランを展開するサローネグループの統括料理長 樋口 敬洋氏と、同グループのレストランbyebyeblues TOKYOの料理長 永島 義国氏が、昆布と宙炭を使って育てた野菜を活用したイタリア料理を提供してくださいました。

《メニュー》
大地のサラダ 海の香り​
硬くなってしまったパンに、宙炭トマト、オリーブオイル、赤ワインビネガーの水分をたっぷり吸わせ、宙炭野菜を合わせたサラダ。仕上げに、昆布をお出汁で煮てつくった泡を添えて。

シチリア風 海、山のご飯​
魚やアサリ出汁などで炊き上げたクスクスに、宙炭トマトのドライや丸えんぴつなすのソテー、昆布のクロカンテ(カリッと焼いたチップス)を乗せたシチリア風ご飯。シチリアならではのハーブ「フィノキエット」とともに、よく混ぜてお召し上がりを。

パンナコッタ
イタリアでの修行時代、シェフのお母さんが教えてくれた絶品レシピに「ぶんこの昆布」を合わせたパンナコッタ。チョコレートと昆布パウダー、宙炭野菜の皮をオーブンで焼き焦がしたパウダーを振りかけて。

 永島シェフは、フードロスを無くすということにこだわりながら、海と大地の恵みを楽しんでもらうことを意識して作ったといいます。会場の参加者からは「サラダをあっという間に食べてしまった。ぜひいろんなお店で出してほしい」という感想が聞かれました。永島シェフは「硬くなったパンの中にトマトを入れて、その旨味をパンに吸わせて食べる、パンを無駄にしないイタリアの伝統的な食事です」と説明しました。

 イタリアのレストランで働いていた経験のある樋口シェフと永島シェフ。加藤氏が、二人がイタリアにいた際の食におけるサステナビリティに対する印象を尋ねると、「基本的には地産地消。野菜の屑や、魚の骨、肉の骨も余さず使って出汁をとり、料理に使う。当たり前のことを当たり前にやる。取れないものは使わない。できるだけ、地元の小さい生産者から調達する。そうするとレストランとしても、そこでしか食べられない味を提供できる。だからこそ自然に食文化が残っていく。1kmの範囲の食材で極力作っていこうという流れにシェフ自身が積極的に取り組んでいました」と樋口シェフ。永島シェフも共感した上で「金曜日だけ魚が入るので、金曜日にお客さんが魚を食べにくる。日本のように毎日同じものを出すのではなく、自然のリズムに合わせて提供するものが決まっていた」と付け加えました。

 シェフの話を受けて、木村氏は「私たちが扱っている土壌微生物は、数多の群を使いますが、最終的にその土地に合うものだけが残っていきます。いわゆる、その土地に本来的にいるべきだったものを再生していくみたいなところがあります。シェフがおっしゃっていた、地産地消や文化的なところも、その土地を本来あるべき姿に再生するという意味合いがあると思っており、非常にシンパシーを感じています」と話しました。

 最後に加藤氏は、今後取り組みたいと思っていることやメッセージを求めました。木村氏は「実践し続けることが大事だと思うので、生産現場の自分とシェフとの連携を進めていきたい」と話しました。富本氏は「昆布の種付けのイベントなどで、実際に現地で感じてもらい、対話することを通して、海と人を近づける取り組みに注力していきたい」と続けました。また、永島シェフは「今回使わせていただいた食材、今まで使っていない食材もフードロスを減らし、どう料理できるかどんどん提案していきたい」と意気込みました。樋口シェフも「明日から今日学んだことを、自分が積極的に周りに話していきたい。自分が知らない世界にまず飛び込んでいくことが、とても大事だと思っているので、自分も学び深めていって、広げていきたい」と、今回のイベント内容も学びに変え、挑戦し続ける意気込みを語ってくださいました。

 今回のイベントは、生産者とシェフとの信頼関係がより伝わってくる会でした。生産者とシェフ、そして、その先のお客さんがつながり連携の輪が広がることで、途方もなく大きく思える気候変動と脱炭素という課題の解決に向かっていける。関わる一人ひとりの想いが編み出す大きなうねりが、確かに起こり始めていると実感できる夜となりました。

アクション実施概要

開催日時

2024年9月11日(水)18:30〜20:00(開場18:00)

開催場所

MY Shokudo Hall&Kitchen
(東京都千代田区大手町2-6-4 TOKYO TORCH 常盤橋タワー3F)

出演者(順不同)

◆幸海ヒーローズ 代表 富本 龍徳 様
◆株式会社TOWING 取締役 COO 木村 俊介 様
◆サローネグループ 統括料理長 樋口 敬洋 様
◆byebyeblues TOKYO 料理長 永島 義国 様

司会

ハーチ株式会社 代表取締役 加藤佑様

定員

会場参加:30名/オンライン参加:500名

参加費

会場参加:2,000円/オンライン参加:無料

主催

大丸有SDGs ACT5実行委員会/三菱地所株式会社 EAT&LEAD

転載元:「大丸有SDGs ACT5」記事
https://act-5.jp/act/sustable2024_2report/
※大手町・丸の内・有楽町地区(大丸有エリア)を起点にSDGs達成に向けた活動を推進する「大丸有SDGs ACT5」の活動については、WEBサイト(https://act-5.jp/)をご覧ください。

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