【FOOD INSPIRATION】左今克憲 #日本の農業の今
オフィス街の青果店から届ける豊かな食
小売から食農の課題に取り組む
『旬八青果店』は、新鮮でおいしい、適正価格の野菜を販売する八百屋。しかし店頭に並ぶのは、馴染みのない種類の野菜や果物、大きさが不揃い・規格外のものと、スーパーとは少し異なります。そして、店を構えるのは住宅街だけではなく、丸の内や虎ノ門、赤坂などのオフィス街が中心です。その原体験は、代表・左今さんが学生時代にあるそう。「大学生の時に、東京から福岡までのバイク旅の中で、田んぼや畑に若い人がいないことを目にしました。それが、東京に上京して食べた野菜が美味しくないと感じた体験にリンクし、地方の農業の衰退と都市の食が不本意なことは繋がっていると、危機感を持つようになりました。また、新卒で働いていた場所はオフィス街にあり、忙しい中、不本意な食生活を選択しないといけない現状がありました。だから、オフィス街でもおいしい青果や、野菜がしっかり摂れるお弁当が買える店を作ったんです」。
左今さんの抱く理想的な食は「素材の味を楽しみながら、どこの誰が作ったものなのかなどのバックボーンも楽しめるもの」。そのため「旬八青果店」のスタッフたちは、野菜や農家さんたちの情報を積極的に客に伝えています。創業当初から規格外の野菜でも味は良いことを伝え販売することで、農業課題のひとつである“食べられるけど捨てられる野菜”の問題解決にも取り組んできました。今では規格外の野菜を価値化する動きが盛んになり、消費者も規格外の野菜に触れる機会が増え、規格外野菜が受け入れられる土壌ができてきました。
「日本の人口が減っていっているなかで、今までの農業のやり方のままでは難しくなっていくでしょう。実際若い世代の農家さんの割合は増えていますが、離農している人たちが多いのが現状です。これからは、規模を拡大するか、直売やブランディングできるこだわりの青果を作るかで二極化していくと思います。そうなってきた時に販売サイドも、規格外を価値化する、付加価値をどう上げるかなど農家さんたちと一緒に考えていかないといけない。それができてやっと、都市で豊かな食が実現できるんじゃないかな」。
ひとりひとりの気持ちから農業は変わる
「使命として思っていることは、“食べる”という誰もがする行為の中心で働いている人たち、例えば農業、漁業、流通、販売、料理人たちが疲弊し、稼げていないのに世の中が回り続けている現状を変えること。だからまずは『旬八』で働いている人がやりがいを持って働けるように、労務を整えて利益を出すことを考えています。利益が上がり蓄えが多くなれば、災害などのイレギュラーな場面で大量に出てしまった規格外の野菜を、利益にならないとしても販売することができるようになります。安く販売できれば、お客さんのためにもなりますしね」と左今さん。小売の課題を解決するには、ITと教育が鍵になるそう。「適切なIT管理がされていないので、まずは仕組みづくり。もうひとつが、仕組みで補えないところをカバーする教育です。今までの小売は少ない利益を大量に販売することで成り立っていましたが、これからはそうはいかない。少量の販売で利益を上げるには付加価値をつけないといけないので、販売側に知識やスキルが必要。『旬八大学』を解放しているのは、僕たちのノウハウを他の人にも生かしてほしいという気持ちがあるからなんです」。
小売の企業として食農の課題に向き合う左今さんですが、街や個人でもできることはあると言います。「『これで良いじゃん』という気持ちを持つこと。廃棄対象になる前の賞味期限が近い食材を買ったり、盛り付けがずれているお弁当を買ったり。また、飲食店ならあえて変な形のニンジンの形を生かして商品化するとか。つい無意識で食べている一皿を、どこで育った食材か、誰が作った料理なのかを想像できる環境にするのも良いでしょう。気持ちの問題ですが、これだけでも変わってくると思います」と語る左今さん。変化し続ける食農分野で、どんな価値観を届けてくれるのか。これからの活躍にも注目したいですね。
Profile
左今克憲(さこん・よしのり)
1982年生まれ、福岡県出身。青山学院大学理工学部に入学したものの、在学中のバイク旅で見た田畑の風景に、日本の食農への危機感を感じ2年で退学。2005年に東京農工大学農学部環境資源科学科に編入し、2007年に卒業したのちは、株式会社インテリジェンスに入社。2009年にアグリゲートを設立し、様々な食農分野の仕事を行い、見聞を広めた。2010年に株式会社アグリゲートを創業し、2013年10月に「旬八青果店」の1号店をオープン。
株式会社アグリゲート
https://agrigate.co.jp/
旬八青果店
http://shunpachi.jp/
五反田や赤坂などオフィス街に店舗を構える。