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  3. おしゃべりで生まれる共感。わたしたちに必要な「お茶の時間」
    ライター・編集者 平井莉生さん

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おしゃべりで生まれる共感。わたしたちに必要な「お茶の時間」
ライター・編集者 平井莉生さん

コロナ禍で変化した人と人とのつながり。無意識の慣習を無くした先にあるものとは

井上:新型コロナウイルスにより人々の生活が一新した今、働く女性を取り巻く環境も大きく変化しました。平井さんも変化を感じることはありますか。

平井:まず、コロナ禍で出社体制が柔軟になった結果、PMSや生理痛といった女性の悩みに対応しやすくなった面はあると思います。2022年3月8日に発表された『働く女性ウェルネス白書2022』でも、女性特有の悩みの状況が改善されているというデータが出ていましたね。働き方においては、対面で行われてきたものもリモートになるなど、これまでただ習慣として行われていたことの必然性が見直されるようになりました。日頃顔を合わせる人が限られるようになったのはメリットもたくさんありますが、一方でデメリットもありますよね。なんてことのないコミュニケーションが減ってしまうので、情報の共有も限定されるようになりました。

井上:今までに比べ、会う必然性のある人としか会わなくなってしまったので、それによってうまれる分断みたいなものはありますよね。自分でその必然性を手繰り寄せていかないといけないので、自分のマインド次第で会う人、そしてそこから発生する事柄が変わってくるかと思います。そうすると、自分自身の心の穏やかさやコンディションがすごく重要だなと感じます。

平井:もともとコミュニケーションが上手な人は、状況が変わってもそれに対応してスムーズにコミュニケーションがとれるかもしれません。しかし、苦手な人は「顔を合わせればうまく伝えられるのに…」と悩んだり、ちょっとした連絡を敬遠してしまったりと、人とのつながりのハードルが上がってしまっているのかもしれないとは思います。

井上:働く女性ウェルネス白書でもまとめましたが、これまでまるのうち保健室で取り組んできたのは、女性特有の症状や健康課題など、どちらかというとフィジカル面のテーマでした。しかし、改めて健康を考えたときに心(マインド)の重要性もひしひしと感じます。ニューノーマルな時代になって、これまでの常識が一新された。誰かと話す時間やそこから得られる言葉を、自分の価値観ひいては人生観に照らし合わせる時間や機会が増えたように思うのです。自分の気持ちを言葉にしてみることも大切で、そういった心や思考の整理ができる場というのが「お茶の時間」なのかな、と考えています。

偶然の発見「セレンディピティー」が自分を変えるきっかけに

平井:震災やコロナ禍などによる世の中の大きな変化を受けて、「人生で大切なことってなんだっけ?」と改めて見直す人が増えている印象です。ライター・編集者の仕事をしていると、すでに何かを達成した人や、きっかけがあって生き方や働き方を変えた人にお話を伺うことが多いのですが、そういう方たちはすでに行動を起こしている側。でも現実は、生き方や働き方を変えたいけど簡単には変えられないという方の割合のほうが多いのではないでしょうか。行動を起こして変えた人たちはすごく輝いて見える分、その輝きに対して引目を感じてしまう人もいるようで……。身動きが取りづらい方たちが、希望を持ったりさまざまな選択ができたりするために、何かできることはないかと常に考えています。

井上:これからスタートする「お茶の時間」では、遠すぎる存在というよりも少し身近で、少し背伸びをしたら届くかもしれないところで活動されている方をゲストにお呼びして、限られた人数で自分たちが思っていることを口にできる対話型の場にしたいと思っています。そこでは、誰かが思っていることに共感したり、してもらったり、自分が何者かを再確認できるきっかけになるといいですよね。

平井:コロナ禍で会う人が限られているなか、全員知らない人同士が初めて顔を合わせる場となることが、「お茶の時間」の良いところの一つだと思います。共通する人脈が一つもなく、そこに偶然集った人たちでお茶を介してコミュニケーションをとるので、偶発的な情報との出会いが生まれるはず。今の時代、SNSで情報を得ることも多いですが、そこでも自分がフォローしたアカウントやリコメンドから流れてくる情報を目にする場合がほとんどですよね。私自身、取材をきっかけに新しい知識を得ることも多く、普段はなかなか知り得なかった情報に偶然出会ったときは、すごく世界が広がるなと感じています。例えば、妊活について考えもしていなかった人が、妊活の悩みの話を聞くことで自分の身体や将来設計を見直すきっかけになる。偶然の発見は、知識の広がりにつながると思います。

井上:今まで見えていなかった気づきがそこに生まれますね。

平井:コミュニティが増えることもメリットですよね。コミュニティが複数あると、一つの関係がうまくいかなくても逃げ道になりますし、少しだけ気が楽になるのではないでしょうか。仕事もプライベートもつながっていない関係性の「お茶の時間」で生まれるコミュニティだからこそ、話しやすい話題もあると思います。「お茶の時間」で得た情報や気付きを参加した人が持ち帰って、そこから他のコミュニティに広がっていく。街づくりをされる三菱地所さんが主催することで、そこから生まれた発見や課題を社会に伝搬できるかもしれないですね。

井上:お茶会での内容をどう広げていくかは工夫が必要だと思っています。「お茶の時間」を開催して感じたのは、おしゃべりが解決する力です。セミナーのように一方的に誰かから教えを乞うことも有意義なのですが、自分の言葉で考えを話して自分なりに答えを導き出していくことにとても意味があると感じました。

平井:それはすごく良く分かります。私自身、書く仕事をしていて、自分のなかの考えやモヤモヤを言語化できたときに救われることが多いです。言葉にすることで整理されて、自分で解決の糸口を見つけられるので、アウトプットは大切ですよね。

古典的だからこそ心地よい「お茶の時間」が生み出す共感

井上:ネットも何もない時代からある、ある種古典的な「お茶会」という場だからこそ、ありのままの自分をさらけ出して、自ら何かを得ていくのかもしれませんね。

平井:海外では気軽にカウンセリングを受ける文化がありますが、日本ではまだまだ敷居が高いですよね。思っていることや悩んでいることを一方的に話して聞いてもらえる場所がまだまだ少ないので、そういう場を必要としている方が多いのではないかと思います。

井上:コロナ禍で街の在り方や働き方が一新されたなかで、考え方も多様になりました。「お茶の時間」は、個人同士の解決の糸口にもなると思うのですが、街づくりを本業とする私たちとしては、その声を街全体の営みにうまくつないでいきたいです。

平井:女性が抱える悩みも多様ですよね。おしゃべりを通じて課題や問題に気付いたとしても、女性たちの力だけではどうにもならないことも多いのが現実。結局は、職場の環境やパートナーとの関係性、広い視点で見れば自治体の在り方などにもアプローチしていかないと、変化を生むのは難しいですよね。「お茶の時間」を通して参加してくれた方々の間で共感が生まれることも意義のあることですが、その共感を社会へ代弁する場としても機能する必要がありますね。

井上:そうですね。女性の生きづらさって女性だけの問題ではないと思います。女性が生きづらければ、男性も生きづらいはず。例えば、妊活の負担は女性だけでなく、男性にもかかってくるものです。主語を男性・女性どちらかに決めるのではなく、みんなの問題として考える。お茶会で共感や気付きが生まれるように、職場内や家庭内でも「人生の共有会」ができるようにしたいですね。


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