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  3. 「自分の生き方を、自分で決めるという時代へ」女性が自分の生き方を自分で決めるためには、まず健康であること
    慶應義塾大学 名誉教授 吉村泰典先生

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「自分の生き方を、自分で決めるという時代へ」女性が自分の生き方を自分で決めるためには、まず健康であること
慶應義塾大学 名誉教授 吉村泰典先生

自分のからだの状態を知ることがヘルスリテラシー向上への第一歩

井上:吉村先生にご協力いただいた「働く女性白書」は、まるのうち保健室参加者を対象に調査結果をまとめた白書です。白書をご覧になって、率直にどのような感想を持たれましたか?

吉村先生:特に丸の内で働く20代〜60代の女性に焦点を当て、経腟超音波検査や婦人科診察などの医療を通して、女性の健康に対する問題提起をしている点が非常にユニークだと感じました。一方で、丸の内という大企業が集まるエリアで働いている女性であっても、ヘルスリテラシーが高くはないことも印象的でしたね。

井上:私自身、まるのうち保健室を始める前までは、ヘルスリテラシーというと高尚な感じがして、意識の高い人たちだけが健康に気を付けるものという印象がありました。

吉村先生:ヘルスリテラシーとは、まず自分のからだがどのような状態なのかを知ることから始まります。意識の高い低いは関係なく、誰もがヘルスリテラシー(健康に対する知識)を身に付ける必要があると考えています。

井上:ヘルスリテラシーが必ずしも高くない現状はどのような原因が考えられるのでしょうか。

吉村先生:日本の医療教育も要因の一つでしょう。だからこそ、白書などを通じて女性に情報発信をすることが大切です。また、まるのうち保健室の参加者は、婦人科診察を受けて、病気が潜んでいないかなど自分の健康状態を把握できていますよね。まるのうち保健室のような取り組みが女性のヘルスリテラシー向上に寄与していくと考えています。

女性の健康はまず月経を知ることから

井上:「ヘルスリテラシーとは、自分のからだがどのような状態なのかを知ることから始まる」とのことでしたが、女性はまず自分のからだの何を知るべきでしょうか。

吉村先生:女性のからだおよび健康はまず月経から考えると良いでしょう。

井上:それはなぜでしょうか。

吉村先生:女性のからだの変調をきたすサインとして、最初に月経が止まるからです。例えば、自分ではそれほどストレスに感じていないと思っていても、月経が止まったことのある女性も多いと思います。ストレスを自覚する前にまず月経に異常が現れるのですね。

井上:そうなのですね。ただ、月経は毎月起こるものであまりにも日常的なため、しっかりと向き合う機会がない女性も少なくないかと思います。

吉村先生:そうですよね。月経がある状態で月経に異常がある場合は、何らかのサインとして受け取ることができます。ただ一方で、月経はホルモンを維持・コントロールできれば、必ずしも女性にとって必要なものではないんですよ。

井上:そうなんですか、なかなか衝撃です。

吉村先生:そうなんですよ。経血が大量に出たり生理痛に悩まされたりと、現在の日本女性は月経のデメリットにさらされすぎていますよね。ピルを飲んで月経を止められれば、生理痛を抑えられ、女性が仕事やプライベートでベストパフォーマンスを発揮することにつながります。また”ピルを服用したら妊娠しづらくなる”ということもなく、むしろ子宮を休ませている分、妊娠はしやすくなります。

井上:では、月経は何のためにあるのでしょうか。

吉村先生:妊娠の有無をチェックするためです。月経が起こったということは、残念ながら妊娠できなかったということ。月経は妊娠しなかった証拠みたいなものですね。

井上:「月経は必ずしも必要のないもの」ということを知らない女性はたくさんいると思います。私自身、まるのうち保健室が始まった2014年当時、女性のからだに関する知識をもっと身に付けなくてはと感じることがありました。

吉村先生:女性が自分のからだをより知るための一つのきっかけとして、ヨーロッパなどでは月経が始まるとお母さんは子どもを産婦人科に連れて行きます。そこで子どもは、月経やピルの話をお医者さんから聞くわけです。その結果、欧米では10代前半の子でも、”月経をコントロールするためにもピルは重要”という知識を持っています。日本人女性も同じように、ピルを含めもっと女性のからだや健康に関する知識を早くから身に付けていってほしいですね。

アメリカでは社会的な卵子の凍結でキャリアプランと妊娠・出産をコントロールしている女性も

 

井上:女性が健康的に長く働くために、企業

が持つべき姿勢は何だとお考えですか?

吉村先生:女性が働きやすい環境および文化を醸成しようという姿勢は大切だと思います。そのためには、例えば出産をした女性に対してどのような就業形態を用意するかなど、企業は女性のライフプランとキャリアプランをよく考えた上で対応をする必要があります。例えば、アメリカ企業の中には、”社会的な卵子の凍結”のサポートをすることで、キャリアを優先したい女性のニーズに応えているところもあります。

井上:”社会的な卵子の凍結”とは何でしょうか。

吉村先生:”社会的な卵子の凍結”は、私が作った用語です。医学的な治療のために卵子を凍結するのでなく、社会的な要因によって卵子を凍結することを指します。

井上:社会的な要因とは例えば、”まだ子どもはほしくないが、将来のために若い卵子を残しておきたい”といったことでしょうか。

吉村先生:おっしゃる通りです。アメリカ企業では例えば、”35歳だけど、まだキャリアを積みたい。ただ将来的には子どもも欲しい”と考えている女性に対して、金銭的な補助をして、35歳時点の卵子を凍結して保存しておいてもらうというケースも珍しくありません。女性としてはキャリアを積みつつ、子どもが欲しくなったら凍結した卵子を使うことができますね。

井上:まだまだ日本はそこまで進んでいませんね。

吉村先生:そうですね。婚外子の割合の低さからも、日本は非常に特殊な国だと思います。日本ほど性別役割分担意識が強い国もありませんからね。いずれにせよ、男性目線の企業経営はこの先流行らないでしょう。女性の中間管理職の割合や産休育休の制度利用者を増やしたり、女性が働きやすい環境作りを企業は進めるべきだと考えます。

ヘルスリテラシー向上がSRHRの実現につながる

井上:これからの時代、働く女性にぜひ意識してほしいことは何だとお考えですか?

吉村先生:SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)、つまり「女性が自らの健康を考えた上で、自分の生き方を自分で決定する」という意識を強く持ってほしいですね。

井上:SRHRの意識が重要なのですね。

吉村先生:SRHRは誰とどのような性生活を送り、子どもを産むか産まないか、いつ・何人産むかなど、生き方を女性自身が決める権利を指します。ただ、自分の生き方を自分で決めるためには、まず健康でなくてはいけませんよね。そして健康であるためには、ヘルスリテラシーも必要です。しかし、日本人女性の健康に関する意識がこれまで十分であったかというと疑問が残ります。

井上:痛みがあるから病院に行くという発想はありましたが、からだのこと、生理のことなど何かを“学ぶ”“教えてもらう”という発想は全くありませんでした。自分の生き方を決めるには、何より自分のからだを知ることが本当に大切なんですね。

吉村先生:自分のからだを知る一つのきっかけとして、ヨーロッパの国々と同じように、日本でも子どもが初経を迎えたら一緒に産婦人科に行ってみてはいかがでしょうか。そこで月経についても学び、PMSやピルの説明も受ければ、知識を持って自分のからだと対話できるようになるでしょう。女性のヘルスリテラシーの大部分が月経に関わるもの。女性一人一人が月経に向き合い、なにより自身の健康に気をつけて、SRHRの実現を目指していってほしいですね。私も微力ながらそのサポートをさせていただければと思っております。


まるのうち保健室白書の作成をはじめ、プロジェクトに関わってくださった方々へのインタビューはこちら

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