
ヘルスコミュニケーションのアイデアを見出す「産学医連携ウェルネスワーキング」開催レポート
2024年11月25日・12月9日、まるのうち保健室「産学医ウェルネスワーキング」を開催しました(※)。
産学医ウェルネスワーキングは、「働く女性 健康スコア」の参画企業の皆さまにお集まりいただき、課題や取り組みの方向性をシェアするとともに、情報交換や新たな視点と出会う場として活用いただいています。
本年度のワーキングは、全2回の開催。
2回のワーキングを通じて、「社内のヘルスコミュニケーションを活性化するためのツール」開発を目指していきます。
第1回となる今回は、ヘルスコミュニケーションをテーマにロールプレイングを行いました。
たとえば、健康課題を抱える女性本人に扮してみたり、同僚や上司の役を演じたり……社内で起こりうる場面を想定し、そのとき相手とどう話したら良いのかをシミュレーション。誰もが働きやすい職場に向けて、より良いヘルスコミュニケーションのあり方を模索しました。
(※)2日間の日程は、参加者を入れ替え、同じプログラムを実施しました
「働く女性 健康スコア」ミニセミナー
冒頭は、「働く女性 健康スコア」のデータ分析を担当している神奈川県立保健福祉大学の吉田穂波先生がミニセミナーを行いました。
2021年より始まった「働く女性 健康スコア」は、疫学調査をベースとしたアンケートをもとに、女性特有の健康課題を”見える化”する産学医連携プロジェクトです。本ミニセミナーでは、健康スコアの過去の分析結果の中から「ヘルスコミュニケーション」に関連するデータをスライドに示してご紹介いただきました。

吉田先生:これまで「働く女性 健康スコア」のデータを集計してきた中で特に驚いたことは、月経困難症、PMS、更年期症状などの健康課題を抱えていると答えた人が8~9割もいたことです。しかも周囲に相談することなく、我慢している方の割合が高く、症状に対処している人、正しい知識を持っている人は少ないことがわかりました。
では、女性たちが生き生きと働き、高いパフォーマンスを発揮できる職場にするためにはどうすればいいのでしょうか。そのためには3つのポイントを押さえることが大切です。 1つ目は、女性一人ひとりが自身の課題ときちんと向き合い、ケアや治療をすること。2つ目は、会社の支援制度をよく理解し、休暇を上手く取り入れるなど柔軟な働き方をすること。そして3つ目は、社内のヘルスコミュニケーションを向上させることです。男性にも女性の健康へ理解を深めていただいて、お互いにフォローし合える関係を構築する必要があります。
相談しやすい環境、サポート体制や信頼関係があるなど「心理的安全性」が高い職場ほど、女性の働きやすさにつながります。そんな職場は女性のみならず、男性にとっても働きやすい場所といえますので、本日のワーキングを通じてヘルスコミュニケーションの高い組織づくりのヒントを見つけられたらと思います。
グループワーク
これより本日のメイン、グループワークの時間です。
参加者たちはテーマ別のグループに分かれ、自己紹介と自社の課題や取り組みをシェアしました。

テーマは3つ。
そのうち1つをグループテーマとし、この後のロールプレイングを行っていきます。
【3つのテーマ】
- テーマA:更年期(または男性更年期)
- テーマB:月経関連症状・生理休暇の取得
- テーマC:不妊・将来の出産へのハードル(男女)
ロールプレイング
グループワークにおけるロールプレイングとは、「実際の現場で起こりうる場面を想定し、参加者が実際の当事者役となって演じてもらう実践形式の演習のこと」。今回のワークでは、テーマA~Cの悩みを抱える女性社員に対して、上司や同僚・部下が声がけする場面を想定し、皆さんに演じていただき、様々な立場のひとはどのように感じ・悩んでいるのかを体感いただきました。

【登場人物】
- 本人役(1人)
更年期症状(テーマA)、月経関連症状(テーマB)、不妊治療(テーマC)のいずれかを抱えた女性社員 - 相手役(4人)
男性の上司、男性の同僚、女性の同僚、女性の部下
本人1人に対し、相手は1人ずつ入れ替わっていく形で、全4セットのロールプレイングを実施。 本人役は1人に固定せず、グループ内で役をローテーションしながら、全員が参加しました。

【シチュエーション】
- テーマA「更年期症状」のグループ
本人がランチをスキップして具合悪そうにしていたお昼休みの後、上司・同僚・部下が昼休みから戻ってきた場面。上司・同僚・部下が、本人に声がけします。 - テーマB「月経関連症状」/テーマC「不妊治療」のグループ
本人が突然休んだ翌日の朝、上司・同僚・部下と偶然出くわした場面。上司・同僚・部下が、本人に声がけします。
会場ではシチュエーションだけでなく、年齢や性格、仕事上で抱えている課題など、詳細な人物設定を示したシナリオを用意。シナリオを確認し、人物像をイメージした上でロールプレイに臨みました。

【声がけの目的】
- 会話を通じて本人の「心理的安全性」を確保する。
- 必要があれば、誰かに相談したり、状況を共有したりするように促す。
- 深刻な場合には、医療機関の受診を促す。
今回のロールプレイングは、規範的にこうするべきだということを学ぶのではなく、どのような声がけが望ましいのか・望ましくないのか、どのようなコミュニケーションのあり方があるのかを探るプロセスをグループ全員で体験する場。演習を通じて、実践的な知見を獲得することを目指しました。
グループ発表
ロールプレイングを4セット行いながら、感想や意見を出し合った各グループ。
そして、グループから1人ずつ発表をしていただきました。 いくつかご紹介します。


- 本人にどう声をかけたら良いのかわからなくて、自分が言われたらちょっと嫌だなと思うことがつい口から出てしまいました。業務の話から入ると急に休んだことをとがめる形になり、嫌な言い方になったりすることもあるのかもしれません。
- 自分の健康課題をどこまで話せるかは、関係性しだい。相手との信頼関係によって開示できる内容も変わってくると思います。また、話をする場所も大切です。執務室のオープンなエリアで異性の上司に話しかけられたら開示しづらいですよね。
- 特に男性の上司や同僚は仕事に焦点を当てて話をし、何かあれば周りがカバーするからね、と伝えることで治療を後押しする手もあるのではないかと思いました。更年期の場合、いつまで辛い症状が続くのかわからず、あと5年・10年と続く可能性があります。そんな時、仕事をカバーしてもらえることがわかれば、治療や相談に踏み出せるかもしれません。
- すべてのロールプレイで共通して上がってきたのが「開示」と「共感」というキーワードです。 1対1で会話をする時に、相手の話を聞きたいのなら一方的に質問をするのではなく、自分の健康不安も開示すると共感しやすくなるという話になりました。また、業務に支障が出ているなら、症状をきちんと開示した方が良いと思いますが、やはり言う相手を選ぶのは難しいところ。私たちは「更年期」がテーマでしたが、話した相手が更年期に対する知識がない人だと共感してもらえないので、年代・性別関わらず、会社全体のヘルスリテラシーを向上していく必要があると思います。
- 本人に話しかけた時に「不妊治療」という言葉まで引き出す必要はないと感じました。必ずしも原因を追求しないと対処できないわけではなく、突然休むことがあるということだけ認知し、フォロー体制をつくっておくこともできるのではないでしょうか。心理的安全性が高いチームであれば、自然と情報を開示しやすくなるのではないか、とも思います。
頼りやすい雰囲気づくりのための声かけ実践例
ワーキングの締めに、神奈川県立保健福祉大学の吉田先生が再びご登壇。「頼りやすい雰囲気づくりのための声かけ実践例 ~職域における相談しやすい風土づくりのためのヘルスコミュニケーション」と題したレクチャーを行いました。

吉田先生:本日のワーキングでは、「心理的安全性」が個人や組織のパフォーマンスを高めるために重要であること、コミュニケーションづくりの基盤となるものだということを再認識していただいたと思います。
「心理的安全性」は会社から与えられるものではなく、日常の中で一人ひとりがつくっていけるものです。 褒めたり、拍手をしたり、相手を肯定して受け止めること、「そのマスク、どこで買ったの」「お土産をどうぞ」など小さな会話を増やすこと、そんなふうに相手に関心を向けることが第一歩。何でもないことを話せる人がそばにいるだけで心理的安全性は高まっていきます。 普段から心理的安全性を高めていくことで、お互いが自己開示しやすくなり、自分の弱みを外に出しやすい職場の雰囲気をつくることができます。

吉田先生:また、困った時や体調が悪い時にSOSを出せる「受援力」がある人は、周囲のサポートを受けやすくなります。逆に、そんな“頼り上手”の人がいてくれるとチームワークが上がり、会社全体の雰囲気が良くなることもわかっています。
本当は辛い状況なのに「大丈夫」と言ってしまう人、周囲の評価を気にして相談できない人など、受援力を発揮できない要因には「一人で抱え込む」「遠慮する」「心優しい」「自信がない」などが考えられます。そういった人たちが相談しやすくなるためには、声がけの仕方が重要です。 たとえば、抱え込んでいる人には「責任感が強いから、頑張っているんだよね」など、まずは相手を肯定し、敬意や感謝の言葉をかけます。「遠慮しないでね」ではなく「つい遠慮しちゃうよね」と肯定された方が話しやすくなりますよね。そして、「あなたに何かあったら困るから、私たちに引き継いでほしい」「後輩のためにも仕事を教えてほしい」など、頼ってもらった方が良い理由を付け加えたり、風通しが良い関係を築いていきたいことを伝えたりしながら、相談しやすい環境をつくっていきましょう。
最後のメッセージ

職場の心理的安全性をどう確保するのか。──吉田先生からそのヒントをいただいて、終了を迎えた今回の産学医ウェルネスワーキング。最後に、ロープレイングの進行役をつとめていただいた、神奈川県立保健福祉大学の黒河昭雄先生のメッセージをご紹介します。
黒河先生:社内の男女比、仕事量や業務の複雑さなど、会社によってさまざまな状況がありますし、心理的安全性を確保するのは容易ではないと思います。しかし、どうにか乗り越える方法を見つけていかないと解決に近づきません。まずは声かけの重要性を認識していただいて、本日のワークで気づいたことや学んだことを今後に活かしていただけたら嬉しく思います。

開催概要
【日時】 2024年11月25日(月)・12月9日(月)
【会場】3×3 Lab Future(大手門タワー・ENEOSビル1階)
【参加企業】アサヒプロマネジメント株式会社、アンファー株式会社、株式会社クリーク・アンド・リバー社、株式会社サンシャインシティ、株式会社ティーガイア、東京産業株式会社、日本事務器健康保険組合、三菱地所株式会社、株式会社三菱地所設計、三菱地所プロパティマネジメント株式会社、三菱地所ホテルズ&リゾーツ株式会社 ※50音順
【主催】三菱地所株式会社、株式会社ファムメディコ
【協力】神奈川県立保健福祉大学 イノベーション政策研究センター
撮影/金澤美佳