働く女性たちの課題に取り組む企業と共創する「産学医ウェルネスワーキング」2023年度・第2回開催
2023年12月7日・11日の2日間にわたり「産学医ウェルネスワーキング」を開催しました。「産学医ウェルネスワーキング」は、まるのうち保健室「働く女性 健康スコア」のご参画企業の人事部の方々に集っていただき、知見の共有、意見や情報の交換、自社の分析など行いながら、今後の活動や課題解決へ生かしていただく場です。
同年8月に開催した前回は、各社共通の働く女性の課題を抽出し、その課題へ取り組むためのアイデアを話し合う“グループワーク”を行いましたが、今回は自社の課題を整理し、その解決策を検討する“個人ワーク”が中心です。各社には一体どのような課題があるのか、当日の開催レポートをお届けします。
スモールセミナー:2023年度「働く女性 健康スコア」分析速報
冒頭には、神奈川県立保健福祉大学の吉田穂波先生がご登壇。
2023年実施「働く女性 健康スコア」の分析速報を伝えるスモールセミナーを行いました。
「働く女性 健康スコア」は、2022年にスタートした働く女性の課題を可視化するプロジェクトです。 ご参画企業の従業員にアンケート調査にご協力いただいて、その調査結果を各社へフィードバックすることで、男女ともに働きやすい環境づくりなどの施策に生かしていただきたいという取り組みです。 「今回の調査に参加してくださったのは全20社、女性約4,000名と男性約300名です。調査項目は、昨年度の『健康課題』『ヘルスリテラシー』『セルフケア』『就労環境』『生活習慣』の5大テーマに加え、さらに2項目追加しました。1つ目は『メンタルヘルス』です。私も産業医として健康支援を行っていますと、一見は元気な方でも心にSOSを抱いている方がいらっしゃいます。そのSOSは他人からは見えにくいこともありますので、メンタルヘルスを可視化するための項目を増やしました。2つ目は『制度利用』について。たとえば生理休暇、介護休暇など、制度はあっても知られていない・利用されていないという状況が多くあるようですので、新たに調査することにいたしました」(吉田先生)
以下、吉田先生のセミナー内容を少しだけご紹介します。
- 全体の60~80%の女性が、月経困難症、月経異常、PMS(月経前症候群)、更年期症状などの健康課題を抱えていると回答。しかし、その正しい知識や対処法を知らない方も多く、上司の方へ相談したり、婦人科を受診したりといった周囲へサポートを求めず、ひとりで我慢している人も多数いらっしゃいました。
- 「有給休暇」「生理休暇」「時間休暇」の利用しやすさを質問したところ、生理休暇がないという回答が10%、時間休暇がないという回答が16%ありました。また、生理休暇は「ネーミング的に取りづらい」「無給なので取りたくない・有給を使っている」といった声もあり、制度はあるのに利用されていない実態も見受けられました。
- 女性管理職の比率が高い職場ほど、有給休暇を取りやすい、月経関連症状によりワークパフォーマンスが左右されにくい傾向にあるようです。悩みを相談できる上司がいる環境は、女性の働きやすさにつながるのではないかと期待できる結果に。
- 健康課題を抱える女性にとって、男性社員や上司など、周囲の人の理解があるというだけで症状が楽になり、メンタルヘルス、身体活動、パフォーマンスなどに良い影響があることが見えてきました。
- 男性に対して、月経の症状を知っているかと質問したところ、約80%の方が「知っている」と回答。しかし、職場の女性たちに健康課題の話題を口に出すのが難しいと感じている人が多くいらっしゃるのも事実です。また、男性に女性の健康をサポートために特に必要だと思うことを聞いた結果は、「育休中の人への理解」約70%、「妊娠中の人への理解」約60%、「女性特有の健康課題などに対する相談窓口の設置」約60%でした。
健康課題を抱えた女性は、「プレゼンティズム(心身の不調により、仕事のパフォーマンスが低下している状態)」や「アブセンティズム(心身の不調により、欠勤、休職など、業務できない状態)につながると話す、吉田先生。その解決のカギとなるのが「休暇制度の適度な利用」や「周囲の理解」かもしれない、と言います。
「女性の健康課題に対しては、男性も女性も一緒になって取り組むことが大切です。そんな環境が整うと男性たちも自らの不調を口に出して言いやすくなりますし、生き生きと働く女性たちの雰囲気が職場全体に広がって、男性もより楽しく働けるようになると思います」(吉田先生)
ワークショップ:働く女性の健康課題の解決に向けて
続いて、ワークショップがスタートしました。
進行は、神奈川県立保健福祉大学の黒河昭雄先生です。
「もちろん各社共通の課題もありつつ、業種、男女比や年齢比などによって、会社ごとに異なる課題も多くありますよね。そこで今回のワークショップは、ご自身がイントレプレナーになったつもりで『自社の課題の整理、解決策の検討』を行い、会社に提案する『働く女性の健康課題に関する新規事業(既存事業の改善も含む)』をまとめていただくことが最終目標となります」(黒河先生)
まずは、テーブルごとに自己紹介。 その後で、先に行った吉田先生のスモールセミナーなどの情報を踏まえ、意見交換を行いました。
続いての個人ワークでは、手元の配布資料に載っているアイデアシートの空き枠を埋めていく作業をしました。
最初に決めるのは「自社の課題は何か」。さらに「その課題が解決されないままだと将来的にどうなるか」「その課題が解決された理想の将来像とは」のそれぞれを考えていきます。
次に、自社の課題が「解決されないままの将来」と「解決された理想の将来」の間にあるギャップは何か、ギャップはどうすれば解決できるのかを導き出します。そして「ギャップの解決策」を会社に提案する新規事業の形にまとめる、というのが本日のゴールです。「目的は何か」「目的達成のためには何をすればいいのか。どんな結果を得られるか」を添えながら、それぞれ考えを整理していきます。
かくして個人ワークの時間が終わり、1社ずつ「自社の課題」と「解決策」を会場の皆さんへ向けて発表していきました。
たとえば、このような発表がありました。
●課題「休暇制度が不充分」→ 解決策「力のある責任者を配置する」
たとえば通院や不妊治療には使えないなど、現在の休暇制度は社員のニーズに即していないため利用率が低いことが課題です。そこで人事・労務にチーフオフィサーなどの力の強い責任者を配置し、制度構築を推進していただくといいのではないかと考えています。そうして社員の満足度が上がれば離職率が低下し、誰もが長く働いていける会社になるはずです。
●課題「女性たちが我慢しながら働いている」→ 解決策「研修の実施と相談窓口の設置」
社内には健康課題を我慢しながら働いている女性が多く、仕事に何らかの影響を与えているかもしれません。解決策としては研修の実施や相談窓口を設置し、まずは女性たちに自身の症状への理解や対処法を学んでいただきます。すると健康課題へきちんと対処する人が増え、一人ひとりの生産性が向上し、会社全体的の業績向上にもつながるかもしれません。
ほかには「全体的に女性のヘルスリテラシーが低い」「女性に向けた取り組みの社内周知が進まない」「性差、年齢、ライフステージごとに相互理解が必要」など、各社からそれぞれ異なる課題が挙がってきました。
「各社へ個別にフィードバックしている『働く女性 健康スコア』の結果は、エビデンスともいえる大切なデータです。しかし、エビデンスがあっても実際に解決策を講じるまでには至らない場合も多いでしょう。そこで今回のワークでは、エビデンスをきちんと把握した上で自社の課題を整理し、どのような取り組みできるか、どのようなリソースが活用できるか、解決策を導きだすまでの思考のフローを体験していただきました。本日、皆さんが見出したアイデアはとても価値のあるものですので、今後に生かしていただけたらと思います」(黒河先生)
最後に黒河先生がコメントを添え、今回の「産学医ウェルネスワーキング」は閉幕となりました。
開催概要
- 開催日
2023年12月7日(木)・11日(月)
- 会場
3×3 Lab Future(大手門タワー・ENEOSビル1階)
- 参加企業
アサヒグループジャパン株式会社、アース環境サービス株式会社、アンファー株式会社、 株式会社クリーク・アンド・リバー社 、株式会社サンシャインシティ、株式会社ティーガイア、東京産業株式会社、富国生命保険相互会社、株式会社保健同人フロンティア、株式会社丸ノ内ホテル、株式会社メック・ヒューマンリソース、三菱地所・サイモン株式会社、株式会社三菱地所設計、三菱地所ホテルズ&リゾーツ株式会社 ※50音順
- 共催
三菱地所株式会社、株式会社ファムメディコ
- 協力
神奈川県立保健福祉大学イノベーション政策研究センター
※本ワーキンググループは、まるのうち保健室のプログラムにご参画いただいた企業様を中心に構成しております。
撮影/masaco