シェフと一緒に食材探し
丸の内エリアのレストランでの活躍ばかりではなく、
日本の食文化の最前線で常に「食育」を考えている
「丸の内シェフズクラブ」のメンバーが、生産者たちを紹介し、
シェフならではの"目利き"で食材を掘り下げていきます。
取材 豆豆社
main_image
笹島シェフは京野菜に注目
第2回担当シェフ 笹島保弘さん(イル ギオットーネ)
mikuni_kiyomi

 丸の内TOKIAにあるイル ギオットーネが開業して5年経ち、京都東山のお店は今年で9年目を迎えます。僕は新幹線の車内販売の方が名前を覚えてくれるほど京都と東京を行き来していますが、新しいメニューを考えるのはたいがい京都で野菜の生産者さんのところへ行った帰りの車の中なんです。お店から車で30分も走ると景色も変わって緑が多くなり、京都はやっぱりリラックスします。積み込んだ、まだ土の匂いが残る野菜の匂いから、身はこうして葉でこんなの作ってみようかってね。生産者の誰々さんはさっき大事なこと言ってたなとか。僕は、生産者という作り手があって、そこに信頼関係がないといい料理は作れないと当たり前に思っています。今回は僕がもっとも京都でお世話になっている京野菜作りの名手を3人ご紹介します。

hasen01

今回訪ねた、田鶴均さん、石割照久さん、村上薫さんはいずれも京野菜生産者で、京野菜マイスター(京野菜の歴史文化・生産・流通・料理の各分野で活躍されている有識者の方々で構成されている京野菜マイスター認定委員会により認定)の方々だ。また、安全・安心・おいしい野菜を作る農家が集まった京有機の会のメンバーでもある。笹島シェフは、「田鶴さんが野菜を届けてくれると土がついたままで大きさも形も気にしていない。石割さんは、無駄な皮をはいで汚れをとってサイズも整えてきれいにして持ってきてくれます。村上さんに至っては、きれいに袋に入れてそれは見事ですよ。3人とも性格が出ています(笑)」と嬉しそうに話してくれた。

昨年の夏に田鶴さんが作った賀茂なす

こちらも昨年の夏の賀茂とまと

まずは、笹島さんが野菜運搬専用に使っている車に乗って北区上賀茂の田鶴さんを訪ねた。数日間天気が悪く、この日は久しぶりの晴天のため、田鶴さんはとても忙しそうだった。笹島シェフが「この人、こう見えてもヴェルサーチしか着ないし野菜しか食べないんですよ」と教えてくれた。田鶴さんは野菜のできを笹島さんに説明しながらも笑顔を浮かべ、お互い懐に入り込んだ関係なのだと思った。

田鶴さんは、上賀茂で代々野菜を作り続け、賀茂なすの種を自家採取して原種を維持してきた数少ない農主だ。賀茂なすは栽培がとても難しいとされ、また料理法もしかり。京都で400年の歴史を誇る料亭で田鶴さんの作った賀茂なすしか使わないというところもあり、また、後出の生産者の方々もそうなのだが、京都は奥で一流の料理人と一流の生産者たちが淡々と美味神髄を追求している。

かのロブションも使ったミニ・キャベツ

石割さんが作った九条ねぎ艶姿

京都府の伝統野菜は明治以前の導入の歴史のなかで現存するものという決まりがある。34品目あり、ブランド指定されているのが、聖護院だいこん、みず菜、壬生菜、賀茂なす、鹿ヶ谷かぼちゃ、伏見とうがらし、えびいも、堀川ごぼう、九条ねぎ、くわい、京たけのこ、京山科なすなど。京の台所を代表する野菜だが、壬生菜は鯖などの運ばれてきた魚の臭いを消すためになくてはならないもの、また、九条ねぎは大阪のやっこねぎを甘くてちょっと辛く、そしてやわらかく、京の人々の味覚にそって改良されたもの。

南区吉祥院で10代続く野菜の生産者石割照久さんは九条ねぎ作りの名手だ。畑から獲れた白と緑が美しい堀りたての匂いを嗅ぐと、ねちゃっとしたネギ臭さがなく、ねぎひとつとっても京らしい洗練がある。美味しい食べ方を伺うと「ぬた」(作り方は次のページで)ということだった。

さて、石割さんは京野菜ばかりではなく、洋野菜も手掛ける。以前フレンチの巨匠ジョエル・ロブション氏から豆粒ぐらいのミニ・キャベツのオーダーがあり同じようなのを見せていただくと、大小様々を手のひらにのせ、「みなさん(料理人)、いろいろ考えられますね(笑)」と。

笹島シェフとは「お互いに納得するまで、笹島さんの生の声を参考にして作っています。パスタをゆでるときに使った昆布を、今度はこんな野菜を使いたいからその畑の肥料として持ってきてくれたり、それは深いですよ」と教えてくれた。

石割さんのキャベツも旨し

ミニ・キャベツがこうなる


最後に訪ねたのは京都の洛西、洛西といえば日本有数のたけのこの上産地だ。村上薫さんは、様々な京野菜を作り、水稲なども注目されているが、この土地の竹林(孟宗)で作られるたけのこの生産者だ。「笹島さんはたけのこを使ってリゾットを考えたり、それから花みょうがをパスタに使ったり京都にいるからこその発想があります。ウチに来たときは畑でひとりでじっと30分ぐらい考えごとをしていたり、その集中力も凄いと思いましたね」。

村上さんのたけのこの若芽。8センチくらい

村上さんのところの金柑。笹島シェフも使う

お話を伺いながら見事な竹林に入っていくと、まだまだ寒いのに掘り起こして地下深く萌芽した 若芽のたけのこを見せて下さった。ほのかな竹の香気、これからが旬の季節となっていくのだが、 笹島さんはこの食材をどのように料理するのか、イル ギオットーネで食べるのが待ち遠しい。

next_page